25.壊しただけじゃ、また止まるんよ
すみません。遅くなりました。m(_ _)m
夜が明ける頃には、
長州の空気は、
もう別のものになっとった。
怒鳴り声は減った。
刀も、ほとんど下りとる。
でも。
静かになったわけじゃない。
(……逆だ)
山縣は、廊下を歩きながら思う。
(今から全部、決めるんだ)
誰が動くか。
誰が残るか。
誰が命令するか。
飯。
見張り。
報せ。
兵。
道。
火薬。
全部。
(……無理じゃない?)
思わず、そんなことを考える。
(いや)
(投げたら終わる)
⸻
廊下の向こうでは、
もう人が動いとる。
机を運ぶ者。
紙を探す者。
報せを書き写す者。
でも。
(……揃ってない)
同じ場所で、
同じ話を、
三回くらいしとる。
(あー……)
山縣は、
ちょっと頭を抱えたくなる。
(これ、完全に文化祭二日目の朝だ)
昨日まで揉めてたのに、
急に“じゃあ今日どうする!?”になるやつ。
誰も全体を整理してない。
だから。
同じ確認が増える。
(……分かる)
(めちゃくちゃ分かる)
⸻
「何しとる」
後ろから声。
振り向く。
大村益次郎。
「……いや」
一拍。
「回ってないなって」
大村が、周囲を一度見る。
「当然じゃ」
短い。
「壊した直後じゃからな」
さらっと言う。
(……この人)
(ほんと、壊す前提で話すな)
⸻
「でも」
山縣は、少しだけ眉を寄せる。
「このままだと」
一拍。
「また止まります」
大村は、
そこで初めて、
少しだけ山縣を見た。
「なら、どうする」
(……またそれ)
でも。
今は、
前より嫌じゃない。
(考えるんだよね、ここで)
⸻
山縣は、
周囲を見た。
走る人。
止まる人。
同じ話を繰り返す人。
(……整理されてない)
必要なのは、
強い人じゃない。
声が大きい人でもない。
(繋ぐ人だ)
情報を。
場所を。
役目を。
(……あ)
頭の中で、
文化祭の朝の景色が繋がる。
段ボール。
紙。
予定表。
黒板。
そして――
(受付)
あそこに人がいたから、
全体が繋がっとった。
(……これだ)
⸻
「場所、作ります」
気づけば、口に出とった。
「場所?」
「はい」
一拍。
「報せを集める場所です」
大村が、少しだけ目を細める。
山縣は、続けた。
「誰が、どこにいるか」
「何が足りないか」
「どこが動いてるか」
一つずつ、言葉にする。
「そこを、一回集めます」
沈黙。
でも。
止まらん。
「今」
一拍。
「みんな、自分の周りしか見えてません」
「だから」
「全体が回ってない」
大村は、
しばらく黙っとった。
そのあと。
「ほう」
小さく言う。
「面白い」
(……この人の“面白い”怖いんだよな)
⸻
そのとき。
「おーい!」
廊下の向こう。
――高杉晋作。
相変わらず、声がでかい。
「飯、どこじゃー!」
(……ほら来た)
周囲が、
一瞬「えっ」て顔になる。
誰も把握しとらん。
(……うん)
(必要だわ、これ)
⸻
山縣は、
小さく息を吐いて、
近くの机へ向かった。
「紙あります?」
「は?」
「あと、筆」
一拍。
「あと、人」
周囲が、
ぽかんとする。
でも。
山縣は、止まらん。
(壊しただけじゃ)
(また止まる)
だから。
(今度は、回し続ける)
それが、
自分の役目なんじゃろうなと、
山縣は、
少しだけ思い始めとった。




