16.全員は連れていけん――それ、わしが決めるん?
三日。
そう言われてから、
時間の流れが、おかしくなった。
朝が早い。
夜が短い。
飯の味も、よう分からん。
(……三日って)
(文化祭でも、もうちょい準備あったよ)
山縣は、小さく息を吐いた。
(いや)
(比べるもんじゃない)
こっちは。
(クーデターだ)
言葉にすると、余計に怖い。
⸻
「集めたぞ」
声。
振り向く。
――高杉晋作。
相変わらず、笑っとる。
(……なんで笑えるの)
その後ろ。
武士。
足軽。
百姓。
町人。
ざっと見ても、かなりおる。
(……多い)
山縣は、自然と人数を数え始める。
(四十……いや、五十)
でも。
(多すぎる)
道。
食糧。
移動。
合図。
隠密性。
全部、頭の中で重なる。
(……無理だ)
ほぼ反射で、そう思った。
「減らします」
気づけば、口に出とった。
場が、しんと静まる。
(……あ)
(早かった?)
でも。
もう、戻れん。
「全員は、連れていけません」
一拍。
「多すぎます」
静かに言う。
ざわ、と空気が揺れる。
「なんじゃと」
武士の一人が、眉を上げる。
「人が多い方が、強いじゃろ」
(……来るよね)
山縣は、小さく息を吐いた。
でも。
(ここ、ぶれたら終わる)
「隠れて動くなら」
一拍。
「多い方が、弱いです」
場が、また静まる。
「見つかります」
「遅れます」
「命令が、届きません」
一つずつ、言葉にする。
「回りません」
短く。
でも、はっきり。
沈黙。
(……言った)
胃が痛い。
でも。
(嘘じゃない)
⸻
「ほう」
高杉が、にやりと笑う。
「じゃあ、誰を切る」
(……来た)
山縣の喉が、小さく動く。
(そこまで、わしなん?)
一瞬。
本気で逃げたくなる。
(……無理)
(これ)
(文化祭で、“ごめん、人数足りてるから”って言うのと違う)
頭の中に、
放課後の教室が浮かぶ。
やりたいって言ってくれた子。
でも、枠がない。
言えなくて、
結局、みんな中途半端になった。
(……あれ、嫌だった)
でも。
(今回は)
(もっと重い)
山縣は、ゆっくり息を吸った。
(……見るしかない)
顔じゃない。
身分でもない。
(見えてるか)
(任せられるか)
今まで、やってきたこと。
それだけじゃ。
⸻
「伊助」
最初に、呼ぶ。
百姓の男が、一歩出る。
迷わん。
(よし)
「お前は行く」
「はい」
短い。
揺れん。
⸻
「佐平」
足軽。
報せが速い。
「行く」
「はっ」
⸻
「吉蔵」
町人。
地図が頭に入っとる。
「行く」
⸻
一人ずつ。
呼ぶ。
武士も。
百姓も。
関係なく。
(見えてるやつ)
(任せられるやつ)
ただ、それだけ。
⸻
そのとき。
「待て」
低い声。
さっきの武士じゃ。
「……わしは」
一拍。
「呼ばんのか」
空気が、止まる。
(……来た)
山縣は、静かにその顔を見る。
腕は立つ。
度胸もある。
でも。
(止まれん)
前に出すぎる。
周りが、見えん。
(……今は)
(違う)
山縣は、ゆっくり息を吸った。
「今回は」
一拍。
「置いていきます」
場が、凍る。
(……言った)
でも。
目は逸らさん。
「なぜじゃ」
低い声。
怒っとる。
当然じゃ。
でも。
山縣は、逃げんかった。
「強いです」
一拍。
「でも」
まっすぐ言う。
「戻れません」
完全に、静かになる。
(……っ)
胃が、きゅっとなる。
でも。
(これが、任せるってこと)
⸻
そのとき。
「ええ」
後ろから声。
大村益次郎。
「軍とは」
一拍。
「強い者を集めるものではない」
静かに続ける。
「勝てる者を集めるものじゃ」
短い。
でも。
重い。
(……助かるなあ、この人)
⸻
そのとき。
「おもろいのう」
高杉が、にやりと笑う。
「お前」
一歩、近づく。
(だから近いって)
「ちゃんと、切れるんじゃな」
山縣は、少しだけ黙って。
小さく息を吐いた。
(……切りたいわけじゃない)
でも。
(回すって)
(そういうことなんだよね)
山縣は、静かに頷いた。




