12.任せたんは、わしじゃ――なら、最後まで見んといけんのよね
予約投稿、し損ねてました。m(_ _)m
選ばれた男は、
思ったより若かった。
二十そこそこ。
日に焼けた顔。
手のひらは、ごつい。
名前は――
「……伊助です」
少し緊張した声。
でも。
目は、泳いどらん。
(……やっぱり)
山縣は、小さく頷いた。
昨日。
皆が高杉につられて前へ出かけたとき、
この男だけは、横を見とった。
敵も。
味方も。
逃げ道も。
(見えてた)
だから、呼んだ。
でも。
(呼んだだけじゃ、終わらん)
ここからじゃ。
⸻
「お前が、前を見る」
山縣は、まっすぐ言った。
伊助の喉が、小さく動く。
「……はい」
「迷ったら」
一拍。
「止めろ」
「勝てそうでも?」
思わず出た問い。
(……いい質問)
山縣は、少しだけ笑いそうになる。
「勝てそうでも、じゃ」
一拍。
「お前にしか見えんもんが、あるんじゃろ」
伊助が、少しだけ目を見開く。
でも。
次の返事は、さっきより深かった。
「……はい」
⸻
そのとき。
「待て」
低い声。
振り向かんでも分かる。
あの武士じゃ。
例の、四十くらいの。
「百姓に」
一歩、前に出る。
「武士が従うとでも?」
空気が、また張る。
(……まだ終わってないよね)
山縣は、小さく息を吐く。
でも。
(ここ、わしが言うんじゃない)
そこで、止まる。
(……あ)
初めて、そう思った。
(任せるって)
(こういうことか)
山縣は、一歩下がった。
ほんの半歩。
それだけ。
でも。
伊助の肩が、ぴくっと動いた。
武士の視線が、伊助に向く。
「おい」
武士が、睨む。
「答えろ」
一瞬。
伊助の喉が、動く。
(……頑張れ)
山縣は、思わずそう思う。
(ここで助けたら)
(意味ない)
数秒。
でも、長い。
そのあと。
「……従ってください」
伊助が、言った。
少し震えとる。
でも。
逃げてない。
「なんじゃと」
武士の眉が、動く。
伊助は、息を吸った。
「わしは」
一拍。
「百姓です」
空気が、止まる。
「でも」
視線が、真っすぐ上がる。
「死ぬんは、武士だけじゃない」
完全に、場が止まった。
(……っ)
山縣の背中に、何か走る。
(……強い)
伊助は、続ける。
「なら」
一拍。
「見えとるもんを、言わん方が」
少しだけ、息が揺れる。
「卑怯じゃと思います」
沈黙。
重い。
でも。
(……崩れてない)
そのとき。
「はっ」
横から、笑い声。
――高杉晋作。
「ええの拾ったのう」
にやにや笑っとる。
(……人ごと)
でも。
武士の男が、少しだけ視線を外した。
完全に納得じゃない。
でも。
(折れた)
そのとき。
「任せたんじゃろ」
後ろから声。
大村益次郎。
「なら、口を出すな」
短い。
でも。
山縣に向けて、言っとる。
(……あ)
山縣は、そこで気づく。
さっき。
助けそうになった。
(……危な)
任せたのに、
途中で守りに入る。
(それ、一番ダメじゃん)
文化祭でも、いた。
任せるって言いながら、
最後だけ全部持ってく先輩。
(……あれ、嫌だったな)
ふっと、そんな記憶がよぎる。
山縣は、小さく息を吐いた。
(……任せたんは、わし)
(なら)
(最後まで、見る)
口は出さずに。
責任だけ、持つ。
山縣は、静かにそう思った。




