口説く方法
さて、乱れた心が落ち着いたところで、改めてヒョロガキの姿を見てみる。
その体は非力な私でも思い切りぶん殴れば、骨が折れてしまいそうなほど細く、顔も頰がこけている。
ただ、ちゃんと肉をつければそこそこイケメンになるのではなかろうか?
では私の好みか? という話になると、興味がない、という話に行き着く。
今まで恋愛感情というものを持ち合わせたことがないと思うので、どういう気持ちが恋愛感情なのかがわからない。
一つ言えることは、男女関係なく魔導研究の材料として使えるかどうかの一点だけ。
そういう意味でなら惚れ込んだ男は昔いたが、顔は別にイケメンではなかった。
あいつは様々な実験に付き合わせたので、もしあれが恋心だというのなら、頭おかしい、と言われても反論もできないかな。
実験材料的に言えば勇者も合格点どころか、史上最高レベルではあった。
ただ立場的に近づくことができなかったのが残念なところだ。
そんなわけで、今このヒョロガキから向けられる好意に対しては興味がない。
単純に、好意を向けられることに対しては、私が素晴らしい女性、と再認識できることでもある。
迷惑かどうかでいえば、度を越した行為を行わなければ自由にしてもらって構わない。
ただこいつ、度を超えた迷惑をかけてくれたからな……
では、怒りが少し治ったところで、改めてしっかり見ても、やはりこのヒョロガキには見覚えがない。
服装は上下ジャージであるが、よく見ればディオーというハイブランド。
腕時計、こちらもパティリックというハイブランド。
金持ちのボンボンなら、その好意に漬け込んで慰謝料をいただくところだが。
「私は君と面識がないはずだが、どこかで会ったか?」
考えても答えは出てこないので、直接聞いてみることにした。
ないとは思うが、実は『魔女狩り』だった、ということを見越して、一応迎撃用の魔術を即座に発動できる準備だけはしておく。
「そうですね。言葉を交わすのはこれが初めてです」
そんなことを言われると、ますます怪しく思えてくるんだが……
「ぼくがあなたに出会ったのは昨日の午前。
あなたは屈強な男に絡まれていましたが、全く臆することはなく、笑みを浮かべて華麗にかわし、あまつさえ男たちに冷や汗をかかせて撃退した。
その勇姿はまるで女神様。そんな姿に僕は一目惚れしたのです」
ヒョロガキは昨日の私を思い出し、天を仰いで恍惚な表情を浮かべる。
「ふーん」
こうして一目惚れされるのは、実はよくある話なのだ。
なんと言っても私、自他共に認める美少女だから。
しかし容姿を褒められるのは何度聞いても悪い気はしない……と気持ちが緩んだりはしない。
そもそも容姿を褒め称えるのはナンパにおける常套句であり、もはや聞き飽きた。
そもそも事実であり、そんな当たり前のことを言われても照れたり心が揺れたりすることはない。
私に興味を持たせたいなら『1000年前に発見された魔術があるんだけど、それを譲るから食事でもどうだい?』とか言わないと。
それなら警戒しつつも一応ついて行くというのに。
私が『本当の学生』時代にはそんなこともあり、何度か食事をおごってもらったことがある。
いただいた魔術はガラクタばかりだったが。
そんなある日、業を煮やした男子学生に強い力で腕を掴まれ、強引に連れて行かれそうになったことがある。
しかし相手はただの一般学生。
それに対して私は既に『魔女化』していたのだ。
ボッコボコにしてやったら、次の日から声がかからなくなった……ということはなく、むしろ逆。
あの時代は『魔女至上主義』を掲げるものが多く、優秀な魔女に仕えることは男にとって栄誉とされていた。
しかし私は、そうやって魔導実験の役に立たない男どもがすり寄ってくるのが好かなかったので、あえて公表はしていなかった。
しかし魔女バレしてから、従者希望がくるわくるわ。
なので面倒ではあるが『私の役に立ちそうな野郎選手権を開催』してみた。
しかしまぁ揃いも揃って役に立たないこと役に立たないこと。
私の従者たる者、30メートルぐらいの高さから飛び降りられなくてどうする。
魔導実験用のクソ重い機材を運べなくてどうする。
と、昔の本当の学生時代を思い出してしまったが、結局のところ、このヒョロガキでは私の役には立たないのだ。
つまり、恋愛対象にはならない。
残念でした。




