これからを生きていくために
アリスの教育方法に悩みつつ、今度は私がシャワーを浴びる。
私は魔導関連について、不審に思われない程度にベラベラ喋るのは好きだし、人に物を教えるのも嫌いではない。
だが、ことアリスとなると、どうやら初等部1年生クラスの子供に教えるレベルでないといけないようだ。
しかも現状のアリスだと、いくら教えても右から左だ。
……どうしたものかな?
まぁ、アリスに逃げられさえしなければ、時間もあることだし、ゆっくりと教えていけばいつかは理解してくれるだろう。
それはさておき。
アリスに対する魔力検査では、他の人間……いや、生命体としての人間との違いはなく、正体が上位魔女ということを除けば、私や他の一般人と同じである。
もっと大規模な検査用魔術を使用すれば違った結果が見えるかもしれないが、今それを用意するためにはどこかの研究所を乗っ取る必要がある上に、最新の設備が必要だ。
どこか乗っ取れそうな研究所なんてあったかなぁ? 昔みたいに研究員に偽装して、研究内容を盗み……借りるのとはワケが違うしなぁ……
となると、自分で検査用魔術を開発して、場所の確保をするのが一番手っ取り早いか。
……100年計画ぐらいになりそう……
ふふ。楽しみすぎる。
「ふぃー。さっぱりっと」
計画もまとめたところでシャワーを終えて、アリスと同じように拭き上げて、魔法で乾かす。
私がシャワーを浴びている間、タオルで身を包んだアリスは小屋の中でじっと座っていて、私の荷物を持って逃げるような素ぶりを全く見せなかった。
かといって、アリスという『上位魔女』を信じ切ったわけではないが。
「アリス。魔法の使い方は教えるから、今後入浴設備がないときは自分でやるんだぞ。
これは乙女の義務だ」
私がそういうと、アリスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「お……お勉強ですか……昔からちょっと苦手で……」
先ほどの態度を見ていれば、だろうな、とは思うが、ここで強要するわけにもいかないからなぁ。
教養を強要……ぷ……
「まぁ、無理せず、おいおい覚えていけばいいさ。アリスも魔女なんだし、やろうと思えば絶対に使えるんだからな」
あまりも馬鹿馬鹿しいことを思い浮かべて、それを利用した笑顔をアリスに向けておく。
「は、はい……努力は……その……はい……」
それでもアリスは浮かない顔だ。
そんなに勉強嫌いなの? 漫画は読むのに?
面白いと思うんだけどなぁ。
さて、もちろんこのままバスタオルを巻いたまま一夜を過ごすことなんてない。
私はバッグから白とグレーのシャツとショートパンツを取り出し、グレーをアリスに渡す。
それと新品の下着だ。
アリスの身長はおそらく……145センチぐらいで、私より10センチほど低いが、体型は同じなので問題はないだろう。
「アリスには少し大きいかもしれないが、今日はそれで我慢してくれ。
また後日、アリスに合った新しい服を買いに行こう」
「あ、ありがとうございます。こんなきれいな服を着るのって、多分50年くらい前に運良く拾ったとき以来です」
わかってはいたけど、やっぱり私の逃亡生活よりも過酷な生活してるよな。
「なら、この服とベルトは、その当時のもので何か思い入れとかあるのか?」
アリスが先程まで着ていた、魔力処理もされていないボロボロの衣服だが、特別なものであるなら捨てるわけにもいかないだろう。
それによって情緒不安定になっても困る。
「いえ。それは2年前ぐらいに拾ったもので、特に思い入れとかは。
まだまだ着れそうだとは思いますが」
はい、廃棄確定っと。
これで明日出発するとき、その服じゃなきゃ嫌、と駄々をこねられる心配もないな。
「ところで、アリスは身体的にもう少し成長してから魔女になりたかったとか思うか?」
アリスの身体は12歳相応の見た目をしている。
魔女も体重の増減や体調によって見た目の変化は起こるが、基本的には魔女化した時点のものだ。
もしアリスが成長に興味があるのなら、その話題を利用した研究に持っていけるが……
「いえ。村の胸の大きな人を見ていても、重くて動きづらそうと思っていましたし。
けど、もっと身長が伸びていれば木の実が取りやすいのに、とは思っています」
……なんと純粋な、そして少女っぽい意見なんだ……心が浄化されてしまいそうな気がするが、これに負けては魔導研究なんて続けていられない。
だが、身体変化の研究については、積極的に進められそうにないな。
決して、私の胸がアリスより小さいからといって嘆いているわけではない。
あくまでも、魔女の身体変化についての研究なのだから。
まぁこの話題は今はいいか。アリスの体についても、これ以上調べられる設備も魔術もないし。
次は今後の生活準備だな。
「アリスは身分証を持っているか?」
無駄な質問だとはわかってはいるが、一応聞いておく。
「いえ、持っていません」
だろうな。
「持っていないと、やっぱり大変ですか?」
「まぁなぁ。現代社会の必需品だからなぁ。
昔はセキュリティもゆるゆるだったから、当時の魔女も簡易的な偽造身分証でもなんとかなったけど、今では高精度魔術を利用した魔導認証システムがいたるところで採用されているからな」
「よ、よくわかりませんが……つまり、私はやっぱり一人森の中でひっそり生きていた方がいいのではないでしょうか?」
私の言葉の羅列に、アリスは理解できていないようだがそれでも不安そうな表情を見せる。
「心配するな。
この身分証問題って現代に生きる魔女の課題とも言える難題ではあるが、私はひっそりと魔法だけ使って暮らす『魔法至上主義魔女』ではないからな。
この私なら、現代のセキュリティを突破する超高精度偽造身分証を作るなんて容易いことなんだよ」
そう、私は他の場所では大きな声では言えないが、魔女相手ならスタンディングオーベーションされるほど賞賛を受けるレベルの身分証偽造技術を身につけているのだ。
さぁアリスよ。私を褒めちぎるといい。
「よくわかりませんが、凄いんですね!?」
アリスはパチパチと拍手してくれるが、その首を傾げていたので、よくわかっていないのだろう。
……自慢のしがいがない……
まぁ、どこかの誰かに『ルシアさんってすごい身分証作るんですよ!』と話さなければ、それでいっか……
でも言いそうだから、あとで釘刺しとこ。
さてと、準備準備っと。




