目の前で起きた惨劇
「おい。そこの魔導植物だが」
私は問答無用の攻撃に警戒しつつ、3人の前に姿を現す選択をした。
「ん? これはこれは! ルシアさんではありませんか!」
私が声をかけると、3人はこちらに振り向き、ガタイのいい2人は即座に警戒体勢を取る。
一方その2人に比べて一際ガリガリなヒョロガキは、私の姿を見るなり満面の笑みを浮かべ、声を弾ませる。
ガタイのいい2人はこのヒョロガキの護衛なのかもしれないが、気配を消すという器用なことができない私をここまで接近させた時点で護衛失格だと思う。
そもそも、3人の姿が見えた時点で私の攻撃範囲に入っているのだから、私がもし目的のために手段を選ばない極悪人なら、既にこの3人の頭は撃ち抜かれている。
もしかして、この3人はただの遊びでやってきたのかな?
でも私のことを知っているみたいだが……
誰だ?
私は常々身嗜みには気を付けており、自他共に認める美少女である。
そのため数々の男にナンパをされることがあるのだが、その中にこんなヒョロガキがいただろうか?
私の魔導研究の役に立ちそうにない奴はあまり覚えてないからなぁ……
「見てください!
あなたのご所望である魔導植物ですよ!
僕はあなたにプレゼントするためにやってきたのです!」
「な……あ! やめ!」
私を知る人物。
魔王戦争時代の魔女の擬態。
勇者の子孫。
過去、私に煮湯を飲まされた人物……
などなど、私に関わる人物を思い出していたのが命取り。
ヒョロガキの行動を理解するのが少し遅れ、魔術も使用できず……
「さあ! お受け取りください!」
私の一瞬の隙をつき、ヒョロガキはおもむろに『セイヴィアーク』に手を伸ばして引き抜いてしまう。
そして決めポーズのように、私に跪き、差し出す。
「…………あ」
私の目の前で起きた悲劇。
数百年、待ちに待った瞬間が、こんな愚か者によって一瞬で水の泡に……
こんな衝撃的な惨状に意識が飛びそうになるが、こんなところで気絶でもしたら怪しい場所に連れて行かれかねない。
なんとか気力を振り絞って立ってはいるものの……
「この手のプレゼントには、やはりコレでしょうか」
ヒョロガキは私の気持ちを一切汲み取らず、装飾された花用スリーブを取り出し素早く包み込む。
「おや? このタイミングで花を咲かせるとは。
まるで僕たちを祝福しているようですね」
「あ……あぁあぁぁぁぁ……」
暖かな日差しを遮る木々に囲まれた静かな森の中。木漏れ日は見るものを魅了し、思わず息を飲むほど神秘的だ。
しかしそんな神秘的な光景を背景に、今まさに行われた残酷な出来事に、私はその場に膝から崩れ落ちた。
『魔王戦争』時代、散々見てきたが、何も対策を施していない『セイヴィアーク』を引き抜くと、程なくしてため込んだ魔力を解放し、その量に見合った花を咲かせる。
直後にはその魔力は、まるで蛍のように虚空に飛び去っていく。
つまり、これはもうただの植物……いや、魔力は全て飛び去ってしまうので生命体ですらない。
数百年、待ちに待ったこの瞬間を奪われたショックからか、この場に到るまでのことを少々思い出してしまった……
……あぁ、色々なことがあったな……
勇者によるセイヴィアーク根こそぎ事件。
鉱夫連中と魔導鉱石争奪戦。
魔女の血を狙うヴァンパイアクーンを自称する、頭のイカレタ女もいたな……
魔力を失う、といえば、魔導要塞に対して、それまでため込んだ魔力を満載させた魔導装甲車を特攻させたこともあったっけ……
そんな色々あった私の人生は『魔王戦争』から数百年の間に起きたこと。
そんな長い期間、私は未だに『セイヴィアーク』に触れたことがないというのに……
……こんんんのヒョロガキは……




