魂喰いの魔女
「貧しい村でこのような魔法が使用できたのなら、村の人たちからは感謝されたのでは?
それとも秘密にしていたのか?」
少女に優しく寄り添うことを装うためには、その生い立ちを知っておく必要がある。
少女が生まれたのが『魔王戦争』以前なら『食物創造魔法』が使える少女は、村では救世主……いや、神扱いだっただろうから、そこに付け入る隙はない。
しかし『魔王戦争』以降だと、魔女は迫害、あるいは『魔女狩り』の対象なので、少女もひどい目にあった可能性がある。
まぁ、少女の言葉の端々から『自分は魔女です』と言っているようなもので、それに少女は若干天然が入ってそうなので、気にしていない可能性もあるが。
「いえ。ちゃんと作れるようになってからは、村の人たちにも食べてもらいました。
その時はいっぱい村の人たちからも褒めてもらえて、嬉しかったです」
少女はそう言いつつ、少し誇らしげに胸を張って、えへへと笑う。
ということは『魔王戦争』以前に生まれていたのか?
「なるほど。それは素晴らしいことだな。
でも、村全体の食料を賄うのに、君だけの魔力で足りたのか?
魔力不足に陥ってめまいや吐き気とか、大きな疲労感などに襲われなかったか?」
と、少女を心配してみるが、上位魔女の底なし魔力ならおそらく問題はないだろう。
この超異常魔法にどれだけの魔力を割いているのかはわからないので、絶対とは言えないが。
「特にそのようなことはありませんでした。
むしろ村の人たちに食べてもらって喜んでいるのを見ると、元気をもらえるぐらいでした」
だよな。
やはり超異常魔法の使い手だ。上位魔女の中でも特に特殊も特殊だ。さぞ魔力の保有量も多いのだろう。
……これを私の研究に使えると考えると……っと、まだ笑うなよ……
それにしても、ここは健気な少女に感動する場面なんだろうけど、すぐに魔導素材として見てしまう私って……
やっぱり魔導研究者の鑑だよな。
間違いない。
「ですが……」
そこで少女のトーンが落ち、少し視線を落とした。
お。付け入る隙か? お姉さんの包容力で優しく包み込んでやるぞ。
私の方が年下の可能性はあるけど、そこはまぁ、見た目の問題ということで。
「村の人たちがだんだん元気がなくなっていって……
私にもどうしてかわからなかったのですが、村の人たちからは『食べ物の代わりに魂を食べている』って言われて……」
「それは……辛いな……」
私は俯く少女に寄り添うように、肩に手を置いた。
少女は結果をはっきりと口にはしなかったが、おそらく村人は餓死したのだろう。
ただ原因ははっきりしている。
魔法で食べ物そっくりのものを作り出し、幻惑魔法などで空腹感をごまかすことはできるが、とはいえそれを作り出しているのは魔力だ。
魔力に栄養なんてない。
なので、本来なら魔力で作られた食事を食べ続ければ待っているのは餓死だ。
だが、それにもかかわらず、この少女は先ほど『自身の魔法で作った食べ物で生活している』と言っていた……
ありえない。そう絶対にありえないからこそ、私の魔導欲アンテナはビシリと少女に向かってビンビンに立っているのだが……
そう。立ってはいるのだが、少女の言葉から、私の興味のベクトルは別方向へとぶっ飛んで行った。
「でも私は全然平気なので、原因は他にもあると言ったんです……
……でも全く信じてもらえませんでした……
それに、私にはそれを証明することもできませんし……」
先程見せた笑顔から一転、少女は暗く沈んだ表情を見せる。
魔導の知識がなければ答えがわからないのは仕方がない。
もちろん少女が言うような別の原因、例えば病気の可能性もあるが、今は『魔法の食事』に関する真実は伏せておこうか。
ショックを与えてトラウマになり、今後『食物創造魔法』という超異常魔法が使えなくなると、私も研究ができなくなってしまう。
そうなってしまうと、せっかく久しぶりに良い人風を装っている意味がなくなってしまう。
「なので私は怖くなって、逃げるように村を飛び出しました。
それからは、各地を歩き回りながらひっそりと生きているんです」
そう語る少女からは、同情を誘ってお金を恵んでもらう、という作戦ではないように見える。
純粋に、ちょっと辛い過去を人に聞いてもらいたかったんだぁ、ぐらいかな。
一方の私は、溢れ出る笑みを我慢するに必死だ。
少女の言葉はそこで止まり、少しの間沈黙が流れる。
なるほど。それが今日までの人生か。
さて、ここからは私のターンであり、言葉選びは超重要となる。
命を落とした村人は気の毒ではあるが、その真実を伝えて弔う方向に持っていくのは却下だ。
今後二度と魔法を使わなくなる可能性が高い。
むしろそのことにはあえて触れず、今後の人生について語るべきではないだろうか。
それに、この少女の語りが本当なら、むしろ私がぶっ倒れそうなほどの、今までの魔導人生の中でも特級の情報が混じっていたのだ。
私が見逃す選択は絶対にない。
少女の話と、過去に調べた情報を統合すると、この少女は『真の魔王』の生まれ変わりなどではなく、当時世界を震撼させた『魂喰いの魔女』という可能性が浮上してきたのだ。
今からおよそ600年ぐらい前の、真相不明の都市伝説となった極悪魔女の話だ。
文献を見つけて興味を持ったので、現場に向かってみたのだが、事件の痕跡など何も残っておらず、なんの成果も得られずがっくりしたものだ。
なので、暇があれば真相究明してみようと思っていたのだが……
まさか……まさかまさかまさか、そのご本人様……かもしれない魔女が私の目の前にいるなんて……
当時の『魔女化』は二十代前半が最も多かったらしいのだ。こんな十代前半の少女が『魂喰いの魔女』だなんて誰が思おうか……
そりゃ生き残った村人の証言だって信用されないはずだ。
はぁ……はぁ……これで興奮を抑えろというには無理がある。
その上、そのご本人様かもしれない魔女は、こんなにも優しい心の持ち主で、その辛い身の上話を勝手にしてくれたのだ。
それに、魂は肉体に引っ張られるという有力な仮説からも、私の心はまだ若いし、少女はさらに幼いはずだ。
そんな少女に対し、ここで見た目だけは少女よりもお姉さんの私が優しく包み込み、そして口車に乗せることで、超絶希少な魔導素材が手に入るのだ。
興奮が抑え……抑え……く……抑えろ私の魂!
まだだ。まだ顔に出すな……!
頬を緩ませるな! 目を輝かせるな! 寄り添い悲しみの表情を浮かべるのだ!




