乙女の年齢17歳(524)
私は魔導研究者ではあるが、現代において『表向き』に発表できる魔術はあまり扱っていない。
なので一般社会において便利な魔術の開発、発表は歓迎すべきことであり、先を越された、という悔しい感情よりも、便利魔術を作ってくれてありがとう、という気持ちになる。
そもそも大規模魔術となると材料を集めるのも一苦労なので、その手のものは一般大手魔術企業に任せるに限る。
その新たな魔術の中でも、特に乗り物の開発は革新的だと思った。
通信技術の発展にも目を見張るものがあったが、似たような技術は当時の魔法でも可能だった。
ただし、魔力消費が多いので魔女専門的なところはあったが。
魔王戦争以前はまだ一般人と魔女の交流も多くあり……というか、生活圏が一緒だった……私も何度か頼まれたことがある。
その度に通信魔術の試験を行っては、失敗していたっけ……全部ではないよ……
特にあの時なんかは火傷ですんだから良かったなぁ。あの爆発の規模だと耳が吹っ飛んでもおかしくなかったが、運が良かった。
ま、試したのは知人だが。
一方、乗り物は馬車が主流で、ちょっとお高い馬車でも長時間の移動ではお尻が痛くなる。
飛行魔法に至っては、魔力と同時に体力も消費するので、高低差を無視できるだけで普通に疲れる。
そのため、魔力消費を抑えられる分、普通に歩いた方がマシまである。
私はどちらかといえば体力はない方なので、長時間飛行しようものなら、魔力は余力十分だが、体力が先に尽きて吐く。
そしてある時、ついに待ちに待った乗り物魔術である、一般乗合旅客魔導車(通称バス)が開発され、初めて乗った時は、まるで雲の上に乗っていると錯覚するような心地よさを感じたものだ。
他の便利魔術は衣類。
魔女に限らず、昔の魔法使いのイメージは真っ黒なローブに身を包んでいるものだったが、現代では魔力処理が施されている普段着も市販され、流通している。
魔力処理のされていないのものと比べれば少々値は張るが、その中の低価格のものでも、例えば短いスカートにはのぞき見防止処理、さらにお金を積めば戦闘……は現代ではあまりないか……競技スポーツまでこなせるという、普通に見えて普通ではない衣類も多く開発されている。
なお私が普段から着用いるものは魔力処理がされていないものを購入して、自分で魔力処理を施している。
今日はオールアイボリーで、テーラージャケット、膝上スカート、ブーツだ
それに加えて、各種魔術を収納するための市販の肩がけツールバッグはコンパクトかつ利便性が高く、そして頑丈。
ただそれが故に、この無骨なデザインは私のコーディネートに合わないことが多い。というか、ほぼ合わない。
いっそのこと自作してもいいのだが、衣類も同様、畑違いとなると、なかなか気にいいったものができない。
なら専門職が作ったものを購入し、自分で魔力処理を行った方が早くて安上がりだ。
なお旅時は数着を魔術で圧縮し、着用したら洗濯をして着まわしている。
一方で研究のためにしばらく定住する際は、数十着の衣類を所持しており、旅に出るときに気に入ったものを残してあとは売る。
と、魔導研究者は根暗、というイメージは払拭できるぐらいには、その辺のことは気にかけている。
それにこれは魔女全体にいえることだが、精神は見た目に引っ張られるようで、私も実年齢が524歳とはいえ見た目は16、7ぐらいなので、純粋にオシャレがしたいと思っている。
私だってまだまだ、いやこれから先もずっと乙女だ。