『魔導研究者ルシア・ガルブレイ』の『設定』
「そんなルシア・ガルブレイは可憐なお嬢さんで、部隊の皆が惚れており、それはそれは激しいアピール合戦をしたものじゃよ。
ワシも『嫁に来い』と言ったのじゃが、アピールが足りんかったのか、相手にされなくてのう」
……あったな。そんなこと。
イケメン成分多めの部隊で、やたらと筋肉自慢し合うクッソむさ苦しい部隊だと思っていたら、あれ、アピールだったのか。
それ、私のトラウマだから逆効果な。
ただそこは魔女狩り部隊。見てくれのボディビルダーとは違い、強さは本物だった。
悪徳教祖を護衛する傭兵部隊を物ともせず、私がどさくさに紛れて魔術を見繕う暇もなく、あっという間に制圧してしまった。
「それで仕方なく、その後出会ったロージィと結婚したんじゃよ」
妥協の末の結婚となれば、普通なら嫁からすれば気のいい話ではないだろうけど、よほどこのジジィに惚れたのか、あるいは別の目的があったのか。
私なら断然後者。
魔女狩り部隊は、このジジィのように表向き傭兵としても活動しており、かなり稼いでいたらしい。
それに加えて、意図した冤罪魔女裁判ともなれば、依頼料はかなりの高額だと聞く。
つまり、この家、この魔術を見てもわかるように、ジジィは金持ちなのだ。
「それにしても、よく似ておる」
ジジィはよほど嬉しいのか、先ほどよりも私をまじまじとねっとりと凝視しつつ、口角を上げる。
ただ、先ほどよりも少し雰囲気が違うというか……エロ目的もあるが、何か疑っているような……
「そういえば、魔女は膨大な魔力で若さと美貌を維持している不老生物、という話を魔女狩り部隊入隊時に聞いたことがある」
……それ正解だよ……
ジジィ入隊時の魔女狩り部隊となれば、魔王戦争時における魔女の正確な情報は伝わらないと思っていたが……
代々伝わる口伝、あるいは当時を書き記した正確な書物でもあるのか?
ちょっと興味あるな。
いや、今はそんなことよりも、誤魔化すために私に関する『設定』の話をしておいたほうがいいだろう。
「もしかすると私のことを魔女だと疑っているのかもしれないが、私は『ルシア・ガルブレイ』という魔導研究者の名を世界に轟かせるための、正当後継者だ。
この計画はおよそ200年前から実行され、同じく魔導研究者だった私は『ルシア・ガルブレイ』の理念に感銘を受けて名を注いでいるので、本名は捨て去った。
なので私が失敗しても同じ理念を持つ弟子に引き継ぎ、いつの日か『ルシア・ガルブレイ』の名は世界中の人間が知ることになり、未来永劫語り継がれるだろう。
そのため、私の後継者となる人物も、今は世界中で修行中のみだ」
という設定であり、もちろん弟子なんていないし、表向きに発表できる魔術の開発は行なっていない。
まぁ魔導研究は私の生きがいなだけなので、どこかに発表するつもりもない。私が満足すればそれでいいのだ。
この見た目で弟子とかいうと疑われるかもしれないが、私ぐらいになれば高精度の偽造身分証も作れるので、見た目年齢と設定年齢は一致していない。
現在の身分証上の設定年齢は24歳。
「ほほ。当時のルシア・ガルブレイも同じことを言っておったな。ということは、お前さんも孤児院出身で親はいないんじゃろ?」
「…………そうだ」
設定の話をすることは滅多にないから、ちょっと忘れてた。外見が似たような親なしの子供を引き取り育てる、という設定。
設定年齢上でも無理があるかもしれないが、そこは無理でも押し通すので、意外となんとかなる。
「そこで、じゃ。ワシの愛人になるのなら家族として迎え入れるし、となれば当然ワシの遺産の一部を分け与えることも可能じゃが?」
む……
私の心が再び揺れる。




