ロージィの指令
「ほほ。では向かうとするかの」
私の即答を聞いたジジィは満面の笑みを浮かべて、仕草だけは紳士的にドアを開ける。
いい加減、服着てくれないかな?
私の魔導衣服がいくら速乾に優れているとはいえ、その汗を飛び散らせ付着させるのは勘弁して欲しいんだが。
「では僕は寝具を新調します。
それに僕とルシアさんの門出を祝う準備もしなければ」
なぜそれで真っ先に寝具なのか。イグナード家は性欲一族かよ。
ヒュン……
……わずかに聞こえた風切り音に、私は固唾を呑む。
この音はヤバイ……
昔も体験したことあるが、攻撃を認識できない音だ……
「シルヴァよ。お主ではワシを止められんと、何度証明すれば諦めるのかの?
じゃがお主の正式な雇い主はロージィじゃ。その命令には逆らえぬか。
しかし今回はこれでよかろう。
お主はいつも通りワシを止めようとして攻撃したが、いつも通り失敗した。
それだけのことじゃ。
さぁ、道を譲りなさい」
先程までの豪快エロジジィから一転、現役軍人もビビって腰を抜かしそうなほどの圧力。
その眼光は鋭く、それだけでチビリそう……
「何度でも」
しかしその威圧の中であっても、シルヴァはあくまで事務的な、無機質とも言える表情で姿を現わす……
って、メイドが見えないところから攻撃するのヤメて……
「それは構わぬが、こんなオモチャではワシを止められぬことは、お主も分かり切ったことであろう?
無駄じゃ無駄。武器が勿体無いだけじゃぞ」
ジジィはそう言って、左手の人差し指と中指で挟みとった狩猟ナイフを、そのままへし折る。
ジジィの見た目通り『魔女狩り』は、こういう脳筋を極めた奴が多い。
なので、今更ナイフをへし折るぐらいでは驚かない。
しかしなぜ、シルヴァはジジィに攻撃をしたのだろうか?
ロージィの命令、ということは嫁の癪に……?
まぁ、そりゃそうだろうな。
旦那の浮気癖にブチギレる嫁。
修羅場としてはありがちな構図ではあるが、私を攻撃しなかったということは、魔女だとバレていないな。多分。
でもこんな状況だ。3日も魔術を選定している時間はない。
とっとと逃げないと、私まで被害を受けてしまう。
「ガルド様にこの程度の攻撃が通用しないのはわかっています」
私の目に見えない攻撃が通用しないんだ……
「これはルシア様、あなたに対する警告です」
「え? 私?」
やっぱり魔女だとバレて……?
いやそれなら警告という回りくどいことなどしないだろう。
何が目的だ?
やはり『お前みたいなメスガキにライセルは渡さん』という意思表示なのだろうか?
でも、マジでいらないぞ?
「あなたは私のナイフに反応することができませんでした。
つまり、私はいつでもあなたを始末することができる、ということです」
確かにその通りだ。
先ほどの毒殺クッキーより確実で、ナイフが私の額に向かって飛んできていたら、私はすでに肉の塊となって床に転がっていたはず。
「あなたは『イグナード家には全く接触していない』と、誰に何を聞かれてもそう答え、口を固く閉ざしていればいいのです。
もし聞き入れていただけなければ、ロージィ様からは『ジジィが他の女に手を出し、遺産を分け与えるようなことがあれば容赦なく始末してしまえ』と仰せつかっておりますので、そのおつもりで」
……ふむ。
シルヴァの言葉から察するに、ロージィは『遺産』を分け与えることに激怒しているように思える。
気持ちはわかる。
私だって、自分で手に入れた魔術ではなくても、手元にある貴重な魔術を誰かに無断で渡そうとしているやつがいたらブチギレる。
それでも一応『警告』を入れる分『魔女狩り』とはいえイグナード家は、問答無用の殺戮者ではないのか。
しかし、ジジィには何度も攻撃しているみたいだが……
もしかして、どさくさ紛れの遺産狙いか?
それを理由に結婚していたのなら、その狙いは理解できる。
私の今回の狙いだって、ライセルにすり寄って魔術をいただく、ことだったが、結果はコレだ……




