500年経った現在
勇者から逃亡して500年ほど。
辛い日々を過ごしてきた私だが、今は表向き平和な時代となった。
なので、いきなり魔女狩りに襲われることもなく、健やかに眠れる毎日だ。
私がボロを出さなければ、だが。
そしてそのための努力を怠ってはならない。
見た目が17歳ぐらいの私の今日のコーデは、グレーのニットセーター、ホワイトの膝上スカート、ブラウンのブーツだ。
これなら誰が見ても自他共に認める現代の美少女だ。
ただ、人に見られたくない違法魔術の数々を収納するための肩がけツールバッグは、コンパクトかつ利便性が高く頑丈ではあるが、私のコーデに合わないことが多い。
というか、ほぼ合わない。
それはさておき。
そして今日も私は大好きな魔導研究に勤しむ。
この500年で色々なものを研究、開発してきたが1番重要なのは、勇者に奪われた私の魔力を取り戻すこと。
だがこの500年、微塵も魔力が戻ってないことを考えると、勇者から魔力を取り戻せる可能性は極めて低い。
もちろん完全に諦めているわけではないが、別の手段として、何かから魔力を補充する研究、開発も同時に行なっている。
対象は何でもいい。魔法、魔術、そして食べ物など。
そして今回私が目につけたのは、クレープ。
私は現在、情報屋との待ち合わせのため公園のベンチに腰掛けており、その目の前ではクレープの移動販売を行なっている。
焼きたての生地の香ばしい匂いに、ホイップクリームとチョコレートソースが重なり、思わず誰しもが立ち止まってしまう甘い誘惑。
乙女としては体重との葛藤をしつつも、この誘惑に負けてしまうものだろう。
だが私はあまり食に興味がないので、その心配は無用。
そのおかげか、500年もの間、苦しい時期もあったが、ちゃんと生まれ持ったこの美しい体を維持し続けている。
しかし、美味しい食べ物には魔力が多く含まれているというのは、世界の常識。
魔力を取り戻すためなら、自分の限界まで食す覚悟だ。
しかし問題が1つ。
今回のこのクレープ。この街で1番美味しいと噂の移動販売クレープ屋。
そのため朝も早くから行列ができることは必至。
その対策として、屋台が止まる場所を推測し、足元に幻惑魔法を応用した魔術を設置することによって、あたかも私が先頭に並んでいるかのように見せることに成功した。
あとは隠れたところで本でも読み、販売開始時間になったら隠蔽魔法を使って、バレないように幻惑と入れ替われば朝一でクレープが手に入るという寸法だ。
では、早速手に入れたクレープを口に……と、その前に。
このクレープの含有魔力を調べる必要がある。
これを知らずに、思い込みだけで食べたらただ太るだけ。
この私がそんな愚かなことをするはずがない。
まず自作の魔力測定魔術(通称テスター)をバッグから取り出し、テスト棒をクレープに突き刺し測定開始。
…………
ほほー。普通より若干多いな。やはり腕利きの魔導料理人は信用に値する。
もしかするとあのクレープ屋。もとはいいところで働いていたのではないか? と思わせる数字だ。
ではテスト棒を抜き、ハンカチで綺麗に拭いてからバッグに戻してクレープを一口。
確かに美味しい。うん。美味しいよ。
……とはいっても、魔力が戻ってくるような感覚はない。まぁいつものことだから、気にしすぎても良くない。
とりあえず捨てるなんて選択肢は絶対ないから、少しずつ食べ進めつつ、次の手を考える。
やっぱりなんでもいいから『異世界』から手に入れるしかないだろうか?
私は召喚の現場にいたわけではないから信じてはいないが、勇者は『異世界』から召喚されらしい。
そして『魔王』つまり私を討伐した後、元の世界に帰ったらしいが……
それが本当の話なら空間を渡る技術が必要になるんだよなぁ。
それは移動系魔法の最高峰といっても過言ではないから、今の私じゃ到底開発なんてできない。
それどころか、目の前のクレープ屋からクレープを転移させる方法だってないのだ。
『異世界』なんてとてもとても。
あとは勇者が使っていた魔術『王家の秘宝』だが、これも謎すぎて、同じ魔術の開発どころか解明の手がかりすらない。
いや、勇者に狙われて唯一生き残った魔女、という凄い私が知る情報が1つ。
魔力を奪い取って自分の力に変えること。
でもそれだけ。まず現代の魔導理論では不可能なのだ。
なので同じものなんて作れないし、仕様なんてもってのほかだ。
行き詰まってんなぁ……私の目的。
せめて大容量の魔導研究用の魔力が手に入れば、もっと踏み込んだ研究ができるんだけど……
買うにしたってかなりの高額だ。
どうにしかして研究施設を乗っ取ったりできないものかなぁ……?
「あんたが依頼者か?」
「んぐ……」
急に後ろから声をかけられ、思わずクレープを喉に詰まらせるところだった。
その声に振り返ると、金髪短髪サングラス、派手なシャツを着た、いかにもチンピラっぽいにーちゃんが立っていた。
こいつがこの街の情報屋か。聞いた通りのやつだな。
さてさて。今回こそ有益な情報が手に入ればいいんだけどなぁ。
そう思いつつ、私はバッグから取り出した水を飲んで、喉をスッキリさせる。




