変態狂人勇者の行方
そもそも勇者は人間だったのか?
勇者は魔王を討伐するために異世界から召喚された。
という記録が残っており、当時もそんな話を聞いことがある。それに『勇者伝説』とかいう数々の書物にも似たようなことが書いてあった。
私はその現場を目撃したわけではないので、本当か嘘かはわからないが、いろんな意味で異常者なのは確かであり、もしかすると魔女を超えたバケモノだった、という可能性もある。
あるいは勇者が使用していた魔力を奪う魔術『王家の秘宝』によって、魔女と同じ性質、つまり不死へと変化したのか?
そうなれば奪われた私の魔力が一向に戻らないことついて、一応納得はできる。ただ、今までの歴史上、私が知る限りでは男性が『魔女化』したという記録はない。
やはり魔導研究者としては、あの時に『王家の秘宝』は何としでも手に入れておくべきだった。
ま、変態狂人勇者が肌身離さず使用していたようなので、奪い取ることは不可能だったわけだが。
そういえば『王家の秘宝』の能力を知らない頃、私は時間稼ぎのために魔導植物をけしかけたが、あっという間に魔力を奪い取られた様子を見て唖然としてしまったのが懐かしい。
それはさておき、勇者が行方不明になった原因もわからないので『王家の秘宝』の行方も追えなくなってしまった。
魔王討伐後、あまりにも危険な人物となってしまった勇者を国は恩を仇で返す形で勇者を封印した。
という説が現在最も最有力となっており、勇者が異世界から召喚された国は今でこそ国名が変わったり分断化したりしているが、勇者と国が争った形跡がないので、勇者の隙をついた、という説は信憑性は高い。
まぁ魔力文明全盛時代、あんな魔力大好き変態狂人者を放置しておいたら何をしでかすかわからないので、私が現場にいたら封印には賛成だ。
とまぁ勇者に関しては色々なことがあり、今は伝説の存在で、様々な物語が展開されてはいるが、勇者が結局何者だったのかはもはや知る由もない。
私ももっとそこらへんのことを当時のうちに調べたかったのだが、魔力の大半を失った上、国を挙げて魔女の残党狩り、通称『魔女狩り』が横行するようになり、結局身を隠し、逃げ回るしかなったため、そんな余裕はなかった。
魔女狩りが『表向き』に禁止されたのは、それから二百年後ぐらいで、やっと動きやすくはなったが、その歳月は勇者の痕跡を消すには十分な時間だった。
村、町と様々な場所が開発され、当時の面影を残す場所は少なくなってきている。
当時の記録や物証も博物館に貯蔵されたりと、なかなかそれらに触れる機会もない。
なお『なくはない』だけで、機会そのものは作り出せる。全てが合法的にとはいかないが。
まぁそれでも主に魔術を研究しているわたしからすれば『魔王戦争』がきっかけとなり、魔女は表向きに衰退し、魔力を中心とした『魔力文明』から、魔力を動力とした仕組みを中心とした『魔術文明』へと変換し、世の中は魔力の弱い人間でも便利に暮らしやすくなっているのはいいことだ。