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道場訓 四十    闘神流空手の門下に入るということ

本日、14時~16時の間にもう1話投稿します。

空手着(からてぎ)(おび)だ。それ以外に何に見える?」


 そう言うと俺はすぐに続きの言葉を口にした。


「だが、ただの空手着(からてぎ)(おび)じゃないぞ。【神の武道場】の恩恵が込められた空手着(からてぎ)(おび)なんだ」


「申し訳ありませぬ、ケンシン殿(どの)……その……(おっしゃ)られている意味が……」


「分かっている。まあ、聞いてくれ。お前たちは道場長である俺と一緒に道場訓(どうじょうくん)をすべて唱和(しょうわ)したことで【神の武道場】に一応は認められた。ただ、これだけではまだ正式に俺の――闘神流空手(とうしんりゅうからて)拳心館(けんしんかん)門下(もんか)に入れたわけじゃない。最後にもっと重要な契約を()わさなければならないんだ」


「契約?」


 3人は同時に声を発した。


 俺は大きく首肯(しゅこう)する。


「そうだ……いや、契約じゃなくて制約かな? だからこそ慎重(しんちょう)に考えて決断してくれ。お前たちは今の俺のように、ずっと空手着(からてぎ)を着たままでいられるか?」


 このあと俺は3人に淡々と説明した。


 俺が着ている空手着(からてぎ)(おび)は普通の衣服ではないこと。


 一見すると防御力のない軽装にしか見えないが、この空手着(からてぎ)を着ていれば【神の武道場】の恩恵と呼ばれる力によって様々な特殊効果が発揮(はっき)されること。


 (すなわ)ち――暑さや寒さも一定以上耐えることができるばかりか、気力(アニマ)を練れば頑丈(がんじょう)な金属鎧を着ている以上の防御力が得られること。


 他にも石や砂利(じゃり)が多い場所でも、厚底の(くつ)()いているような感覚で素足のまま歩けたりもする。


 しかし、本当の特殊な効果はこれだけではない。


 この空手着(からてぎ)(おび)こそ、俺がいなくても単独(ひとり)で【神の武道場】に入ることができるアイテムだった。


 けれども、あくまでも単独(ひとり)で入れるのは道場ともう一つの場所だけだ。


 その二つの場所以外に行くためには、道場長である俺の許可と同行が必要不可欠になってくる。


 もちろん、この道場にも普通に入れるわけではなかった。


 一定以上の気力(アニマ)を練られることと、最初は三戦(サンチン)と呼ばれる空手の型をすべて行わなければならない。


 まあ、それはさておき。


「どうだ? 無理なら無理と言ってくれ。男の俺はともかく、女のお前たちには(こく)な条件だろう。だが誤解(ごかい)しないように伝えておくと、その空手着(からてぎ)を着たら二度と脱げなくなるとかそういうものじゃない。あくまでも純粋に闘神流(とうしんりゅう)空手(からて)をこの【神の武道場】で俺から学べなくなり、上達するごとに【神の武道場】自体から与えられる恩恵技(おんけいわざ)(もら)えなくなるということなんだ」


 とは言ったものの、やはり空手着(からてぎ)をずっと着ている条件は(きび)しいだろう。


 そうである。


 正直、この条件を飲める人間は極端(きょくたん)に少ない。


 過去において祖父に弟子入りを志願してきた者たちも、この条件が飲めずに祖父の元から去って行った者が多かったという。


 それもそのはず。


拳聖(けんせい)】と(うた)われた祖父に弟子入りをしたかった人間は、ただ単純に〝力〟だけを求めた人間が多かった。


 そんな人間にとって窮屈(きゅうくつ)制約(せいやく)があるのは耐えられなかったらしい。


 他にも祖父に弟子入りを求めていた人間のほとんどが常人よりもはるかに高い魔力(マナ)残量を持っていたため、この【神の武道場】に入るのも苦労する上で制限時間内に道場訓(どうじょうくん)唱和(しょうわ)まで行くのが困難だったという。


 だが、やはり一番の理由はこの空手着(からてぎ)を常に着ていられるかどうかだ。


 この空手着(からてぎ)は特別なモノであり、闘神流(とうしんりゅう)空手(からて)門下(もんか)に入った者は必ず1日に1度は着なくてはならない。


 しかも1度着て脱いでしまえばその日はもう【神の武道場】に入れず、それまでに【神の武道場】から与えられた恩恵技(おんけいわざ)がすべて消失してしまう。


 恩恵技(おんけいわざ)とは(すなわち)ち、初段になった者に与えられる〈闘神(とうしん)威圧(いあつ)〉や2段になったものに与えられる〈闘神(とうしん)真眼(しんがん)〉などだ。


 ただし、そんな制約の中でも【神の武道場】の中でなら自由に着替えができる。


 だからこそ、【神の武道場】の中には()()()()()()()が存在しているのだ。


 けれども、弟子になれない人間にはそんなことは関係ない。


 そして大多数の人間は魔力(マナ)を一定以上持っている時点で最初の条件で(はじ)かれ、加えて衣服の制限が()()()となって弟子入りは困難(こんなん)になっていた。


 キースたちもそうだった。


 ずっと空手着(からてぎ)を着ているのはダサくて嫌だと言い、ましてや社交場(しゃこうば)的な場所に出席するときも空手着(からてぎ)でいると自分たちの印象が最悪になるとも愚痴(ぐち)っていた。


 それは分かる……分かった上ですべてを受け入れた者こそ、闘神(とうしん)から受け継いだ空手(からて)の技を会得(えとく)できるのだ。


 とはいえ、俺は3人に対して無理強(むりじ)いするつもりはなかった。


 そしてたとえ断られたとしても、(うら)んだりなど絶対にしない。

 

 ただ、少しだけへこむかもな……。


 そう俺が3人の返事を待ったときだ。


「ケンシン師匠……申し訳ありませんが、後ろを向いていてくれませんか?」


 エミリアは空手着(からてぎ)(おび)を手に取ると、()ずかしそうに顔を赤らめた。


「エミリア殿(どの)、まさか師匠の前で着替えるのが恥ずかしいのか?」


「ふん、どうやら化けの皮が()がれたな。ケンシンさまの前で着替えの一つも出来んとは、一番弟子が聞いて(あき)れるで」

 

「いや……その……違います! 別に着替えの一つ二つ()ずかしくなどありません! ただ、ケンシン師匠に聞いてみただけです!」


 直後、3人は衣服を脱いで着替え始めた。


 俺は立ち上がって条件反射的に振り向く。


「この馬鹿どもが! お前たちには羞恥心(しゅうちしん)というものがないのか!」


 ガサガサと着替えを行っている音を聞きながら俺は声を上げる。

 

 そして俺は口調では怒っていた感を出したものの、本心では(うれ)しさのほうが圧倒的に(まさ)っていた。


 この3人はほとんど迷うことなく俺の弟子入りを受け入れてくれたのだ。


「へえ……空手着(からてぎ)とはこういうものなんですね」


拙者(せっしゃ)が着ていた道衣(どうい)空手着(からてぎ)の着方は似ているが、さすがに空手着(からてぎ)(おび)の結び方は分からん」


「しゃーないな。うちは分かるから特別に教えたるわ」


 そんな声が聞こえていた中、そろそろ着替えが終わった頃に俺は振り向いた。


 するとそこには俺と同じ空手着(からてぎ)姿になった3人の姿があった。


 うん、3人とも世辞(せじ)なしでよく似合っている。


「あれ? でも、ケンシン師匠。私たちの(おび)はケンシン師匠と同じ黒い(おび)じゃなくて白帯(しろおび)なんですね」


 などと聞いてきたのはエミリアだ。


空手(からて)には冒険者ランクのような等級(クラス)があるんだ」


 俺は空手全般(からてぜんぱん)というか闘神流(とうしりゅう)空手(からて)等級(クラス)(おび)の色について説明していく。


 10級~9級は白帯(しろおび)


 8級~7級は青帯(あおおび)


 6級~5級は黄帯(きおび)


 4級~3級は緑帯(みどりおび)


 2級~1級は茶帯(ちゃおび)


 ここまでの等級(クラス)色帯(いろおび)と呼ばれ、まだ基本をしっかりと稽古(けいこ)する段階だ。


 そしてここから上になると(おび)の色が〝黒〟になり、有段者(ゆうだんしゃ)等級(クラス)と呼ばれる段階に入る。


 ただし、ここからも初段(しょだん)から始まり10段まで細かく分類されていた。


 同時に初段(しょだん)からは一段ごとに【神の武道場】から特殊な技が与えられ、3段に相応(ふさわ)しいほど強くなれば冒険者のSS(ダブルエス)ランクに匹敵(ひってき)するだろう。


 だからこそ、この3人について確かめる必要があった。


 現時点でこの3人の強さはどの(おび)の色に(あたい)するのだろうか、と。


「それで、ケンシンさま。こうしてうちらは着替えたわけですけど、このあとはどうすればええですか? 基本稽古(きほんけいこ)からですか?」


 腰を手を当てながらリゼッタが()いてくる。


「せやけど、他の2人はともかくうちとしては基本は出来とると思いますよ。何せうちはゴウケンさまやケンシンさまに昔に稽古(けいこ)をつけていただいた身ですから」


 リゼッタの言いたいことも分かる。


 だが、それを言うなら他の2人も空手(からて)はともかくとして武術の素人ではない。


 いずれ1人ずつじっくりと基本を教えてやるつもりだが、少なくとも今はそれよりも純粋に3人の実力を確かめたかった。


「いや、基本稽古(きほんけいこ)はまた次の機会にしよう。今からするのは組手(くみて)だ」


 なので俺は3人を見回しながら告げた。


「とりあえず、3人まとめて掛かってこい」


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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[気になる点] >キースたちもそうだった。 ずっと空手着を着ているのはダサくて嫌だと言い、 ましてや社交場的な場所に出席するときも空手着でいると 自分たちの印象が最悪になるとも愚痴っていた。 キース…
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