道場訓 百三 邂逅
「ケンシン師匠、ご無事ですか!」
俺がエミリアの入れられている檻の柵に掴まっていると、檻の中にいたエミリアが慌てて声をかけてきた。
「ああ……俺は大丈夫だ」
もちろん、決して強がりではない。
今の俺は魔法の水弾を受けたダメージ以外はほとんどなかった。
そんな俺でもカムイが最後に放った、〈紅蓮剣〉とやらをまともに受けていたら危なかっただろう。
その証拠に俺とカムイが闘っていたリングの半分は崩壊していた。
凄まじい威力と衝撃である。
俺は何とか〈紅蓮剣〉の魔の手から逃れるため、咄嗟にエミリアの入れられていた檻へと飛んだので無傷で済んだものの、〈紅蓮剣〉の衝撃波と爆風に巻き込まれた観客たちは大慌てしている。
無理もない。
〈紅蓮剣〉の衝撃波と爆炎は観客席の障壁さえ吹き飛ばし、高見の見物に興じていた観客たちの一部に尋常ではない被害を出していた。
間違いなく多くの死傷者が出ている。
ぱっと確認しただけでも、ぴくりとも動かない観客たちが何十人はいた。
そして、観客席からのあちこちからは悲鳴と怒号が沸き起こった。
もはや俺たちの闘いを笑いながら見ている場合ではないと察したのだろう。
観客たちは我先にと出入り口へと逃げ出している。
もうこれでは闇試合どころではない。
こうなるとどうなるんだ?
俺は未だ朦々とした黒煙に包まれているリングから特別席へと顔を向けた。
あのハザマ・マコトという女がいる特別席も、かなりのパニックになっている様子がはっきりと見て取れる。
だとしたら、こういう派手な闘いを普段はカムイもしていないのだろう。
もしもこれほどの闘いを決勝戦でいつもしているのなら、あそこまで主催者側が混乱するはずがない。
俺は再びリングへと視線を移す。
ちょうど黒煙が晴れてきたこともあり、無事に残っていたリングの上には堂々と仁王立ちしているカムイの姿があった。
そんなカムイは俺を見てニヤリと笑う。
「お~い、大将! いつまでもそんなところにおらんと、はよう戻って続きをしようや!」
何て呑気な奴だ……。
自分が放った攻撃で大勢の死傷者を出したのに、カムイはまったく気にした様子もなくウキウキとした顔で俺に手招きをしている。
異常なまでの戦闘狂振りだ。
俺も武術や闘いのことになると周囲が見えないほど熱くなってしまう面があるが、今のカムイからはもっと異質な雰囲気がありありと伝わってくる。
などと俺が背筋に冷たいものを感じた直後だった。
「――――ッ!」
俺は我が目を疑った。
突如、カムイの目の前に円形状の黒い影が出現したのだ。
しかし、俺が真に驚いたのはその影自体にではない。
その円形状の黒い影の中から1人の人間が飛び出てきたからである。
まさか、どうしてあいつがここに……。
カムイの目の前に降り立ったのは金髪の男。
その金髪の男は俺を勇者パーティーから追放したキース・マクマホンだった。
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