道場訓 百二 勇者の誤った行動 ㊲
ぞわっと俺の背筋に悪寒が走る。
このとき、俺はこれまでに感じたことのない異様な迫力に顔をしかめた。
同時に俺の本能が語りかけてくる。
顔無しは本物の魔人だ、と。
ふざけんな、だったら呑気に闘っていられるか!
俺は慌てて身体ごと振り向くと、急いでこの場から逃げ出そうとした。
しかし――。
もはや空手家の女のことなどどうでもいい。
あの顔無しが本物の魔人ならば、万が一にも俺に勝機はなかった。
なぜなら、戦魔大陸の魔人に比べたら俺たちの大陸にいる魔王などスライムに等しいと言われているからだ。
なので俺は全力でこの場から逃走しようとしたのだが……。
次の瞬間、俺はガクリと体勢を大きく崩した。
そのまま前のめりに倒れてしまう。
俺は頭上に疑問符を浮かべた。
直後、すぐさま足元の異変に気づく。
「な、何だこれは!」
俺は自分の足元を見て驚愕した。
いつの間にか、俺の両足の足首から先が地面に沈んでいたのだ。
まるで沼に両足がはまってしまったようにである。
いや、それは沼にはまるというよりも影にはまると表現したほうが正しかった。
現に俺の両足は異様な影の中にはまっていたからだ。
やがてその影は不気味に大きく動く。
ズズズズズズズズズズ…………。
そして俺の身体はその影の中にどんどん吸い込まれ始める。
「うわあああああああああ――――ッ!」
俺は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
「安心しろよ」
俺の身体が半分ほどまで影の中に吸い込まれたとき、目の前までやってきた顔無しが俺の声で言った。
「てめえの代わりに俺が色々と動いてやっからよ。魔王も倒してやるし、てめえが恨んでいるケンシン・オオガミも何なら倒してやる」
ははははは、と高笑いする顔無し。
俺は顔の半分まで影の中に吸い込まれたときに思った。
目の前の顔無しは、本物のキース・マクマホンに成り代わったのだと。
そんなことを考えながら、俺の身体は底知れぬ影の中へ意識とともに沈んでいった。
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