満天姫、賭場の不正を暴く
そして予感は当たる。
次の日から、夜に抜け出しては賭場に通うことになったのだ。
いつも新次郎の隣に座り、彼のうんちくを聞きながら博打をする。
そういうことが三日ほど続いた。
満天姫はトータルで四両の勝ち。雪乃も二両ほど勝っていた。初日から満天姫は四倍、雪乃は十六倍になっていたが、賭け金が少ないから目立ってない。勝ち負けを繰り返しながら、少しずつ積み上げてきた成果だ。
新次郎もあれから勝ち負けを繰り返し、結局は十両ほど凹んでいた。勝つときはわずかで負ける時は大きく負ける典型的な破滅パターンとなっていた。
四日目。また夜抜け出して賭場へ行く準備を手伝いながら、雪乃は満天姫にこの後のことを聞く。今日あたり、満天姫が動きそうな気がしたのだ。
「雪乃、ここまであの博打をやってきて、気づいたことはないかや?」
逆にそう満天姫が聞いていた。
(気づいたこと?)
雪乃は少し考える。
「私が思うに、壺振りの人はかなりの確率で丁か半を出すことができます」
これは四日間通った雪乃の見解。素人の雪乃でもそう思うくらいだから、賭場に来ている客は全員そう思っているだろう。
「そうじゃな。八~九割は思いどおりに出せそうじゃ」
満天姫も同意した。しかし、これは不正にはつながらない。
壺振りが丁、半を任意に出せても賭ける客はツボに入った状態で選ぶのだ。
壺振りが任意の客を負けさせたり、勝たせたりすることはできない。
むしろ、客もそれを承知していて壺振りの心理を読むという戦略で勝とうとしていた。
それで勝って帰る客もいる。
そうでなければ、連日連夜通っては来ないだろう。
新次郎についても、この四日間は勝ったり、負けたりを繰り返していた。初日はわずかな勝ち。
二日目は二十両の負け。
三日目は二十五両の勝ちで取り返すが、昨日は五両負けている。
「新次郎さんは何だか計算どおりに負けている感じがします」
どことなくそう思った雪乃はそう独り言のように言った。店側が不正をしていないのなら、それは偶然と新次郎の運のなさの結果なのだろうが。
「わらわはもそう思う」
雪乃は何気に言った言葉に満天姫が便乗してくるとは思わなかったので、驚いた。
「ど、どういうことですか?」
「賭場の連中ずるいことをして、新次郎から金を巻き上げているに決まっておろう」
そう自信ありげに姫は答える。その根拠が分からないので、雪乃は顔をしかめた。それに答えるように満天姫が自説を披露する。
「まず壺振りは丁、半を任意で出せる。これは技術。十に十思い通りに出せるほどではないが、十に九か八の確率じゃ」
これは先ほど話題に出たことの確認。問題はそれでは賭場の不正にはならないということ。
「客の半分は賭場の人間じゃ」
衝撃なことを満天姫は口にした。
「え!?」
「客の半分は賭場の人間。入れ替わり立ち代わりじゃが、ここぞというときはこれと決めた客を落とし込むために参戦してくる」
満天姫がこの四日間。注目していたのは客の流れ。
賭場には常時十人以上の客が丁か半に賭ける。これは賭博の性質上、同数でないと勝負が成立しない。
(つまり……。壺振りが丁か半を賭場の関係者が扮した客に知らせれば、不正ができる……。あたりを付けた客から金を巻き上げようとすれば……)
賭けを成立させるためにいるのが、進行を務める中盆という役。半と決まった勝負にすぐに賭場側が仕込んだ客に賭けさせ、負けさせようと思った客を丁へと導く。
賭場側の客が勝つときは賭け金を積み上げ大勝負にし、ばれないように負ける時は賭け金を抑える。
おそらく、大金をもって参戦している新次郎はターゲットにされており、まるで猫にもてあそばれるネズミのように転がされているのであろう。
満天姫はというと、目立たないように常に少額をこそこそと賭け、新次郎が勝つときは便乗し、負ける時は反対側に賭けて地味に勝っていた。
雪乃も満天姫と同じようにしていたので、四日前の二朱金が小判二枚に化けていた。四朱金で一分金。四分金で一両だから、実に十六倍の儲けであるが、四日かけての成果だから、賭場側も問題にしていないのであろう。
「そうしたら、新次郎さんにそのことを教えてはいかがでしょか?」
ここ四日間の賭場通いは新次郎と知己になることと、彼を賭け事から足を洗わせるためである。賭場の不正を話せば目が覚めるかもしれない。
「無理じゃな」
満天姫はそう即座に否定した。
「あの男は完全に賭け事におぼれておる。頭のよい奴なら、賭場を観察して今、わらわが言った推論を立てることもできよう」
(そんなことを推測できるのは、満天姫様くらいですよ!)
そう雪乃は心の中で突っ込んだ。
新次郎が負け続け、徐々に金を巻き上げられている実態は分かった。昨日までに百十両近くも負けが込んでいる。
このまま、負け続ければ澄姫が心配するとおり、旗本筆頭、大番頭の後藤家も財政破綻に陥るだろう。
「ではどうしたら……」
「心配するな。今宵で決着をつける。奴らも大きな動きをするようじゃ」




