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雪乃、病気の原因を考える



「香姫の病気の原因が分かったじゃと?」

 

 座敷牢に座っている雪乃の説明を聞いて、満天姫は驚いた。

 海の魚などを生で食べると寄生虫が体に入り、それが体に悪さをするという話だ。


「火を通すか、凍らせせれば死にますが、そうじゃないと虫は体内に入ります。虫によっては、胃を食い破ろうするので激しい痛みを感じる場合があります」


 雪乃が説明したのは『アニサキス』という寄生虫だ。サバやアジ、ブリなどに寄生する虫。烏賊にも寄生する。


 通常は内臓にいるが、魚が死ぬとそこから抜け出し肉の方へと移動する。だから、漁師は魚を採るとすぐに内臓を取り去る。

 特に足が速いサバはすぐにそれをしないと身がアニサキスだらけになる。

 北陸の名物であるサバ寿司は、酢でしめるのでアニサキスは死ぬが生で食べればアニサキス症になる。


「たぶん、烏賊が原因でしょう。北陸で採れた烏賊を運んできたのでしょう。いくら雪で埋めて運んだとはいえ、鮮度としては新鮮とはいえない。それに処理もしてあったけれど、完全じゃなかったのでしょう」


 烏賊そうめんを食べたのは香姫とその侍女たち。十人を超える人数で発症したのは香姫だけ。 

 運が悪いと言えばそうだが、香姫が倒れたおかげで雪乃は座敷牢にいる。


「なぜ、お主がそんなことを知っておるのじゃ。雪乃は医者なのか?」


 不思議そうに満天姫が聞く。

 雪乃はドキッと心臓がなって言葉に詰まった。

 雪乃は転生者である。

 もとは生活クラブの所属する女子高生。生活クラブでは、料理も本格的に行い、市場で買ってきた魚を卸すこともしていた。

 一年生の時に先輩に連れられ、魚市場の魚上という店の大将に教えてもらった知識である。

 烏賊には寄生虫がついていることがあるから、よく見て取り去るようにと実際に寄生虫も見せてもらった。

 雪乃も同じクラブに入った友達も『ぎゃ~』と叫んだが、魚屋の大将にとってはそれが毎回のご褒美らしく、嬉しそうに虫を突き出してきた。


(あの変態親父に教えてもらったことが役立つとは……)


 アニサキス症は激しい痛みと嘔吐。発熱に意識混濁という症状が出るが、それは一時的なもの。アニサキスは人間の胃の中では生きていけないのだ。

 アニサキスの最終宿主はイルカやシャチなどの海洋生物。イカやサバ、アジなどの魚は中間宿主。人間ではないのだ。


 やがて胃液に溶かされて死滅する。そうなれば痛みは引くが、この痛みがとんでもない。

 苦しんだアニサキスが胃壁の壁を食い破ろうとするから、針で内臓を突き刺された痛さである。

 アニサキスを駆虫する薬はない。治療としては内視鏡で除去する方法しかないから、香姫にやってあげられることはない。


(しかし……)


 雪乃はネットで調べたことがある。


(40%以上の高濃度のアルコールを飲むとアニサキスの動きが止まることがある。そうしておいて胃の中を全部吐き出せば……)


 何の根拠もない情報かもしれないが、やらないよりはマシだと雪乃は考えた。やらなければ自分は濡れ衣を着せられて、明日には拷問を受けて死罪だ。


(40%以上となるとウイスキーとかジンなどの蒸留酒だけど。ないわなー)

「あれがある」


 そういって満天姫が口にしたのは『古酒くーすー』である。

 焼酎も蒸留酒であるが、アルコール度数は20%ほどと強いわけではない。しかし、長年寝かした焼酎は度数が40%くらいまでになることがある。


「それでいきましょう!」


 雪乃は満天姫に耳打ちをした。


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