表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/61

満天姫は大根おろしがお気に入り

 が……計算とは時に狂うものである。

 夕刻から始まった月路の儀。

 第二幕。

 広い中庭にしつらえた競技会場。それぞれ机を中心とした仮の台所で料理を作る。

 正面には今回の審査をする五人。

 能登守にご隠居。能登守の生母である高徳院。秋葉藩家老の五木大善。

 そして初顔合わせの人物。

 秋葉藩の食客という立松寺九郎(たてまつじくろう)という男。

 歳は十八歳の能登守より二、三歳上かと思われる青年である。

 たかが食客が秋葉藩の正室選びの行事に関わるのは不思議であるが、雪乃が三女中から聞いた話で納得した。

 この立松寺九郎(たてまつじくろう)という青年。どうやら、幕府から直接遣わされた訳ありの人物らしい。

 表向きは剣術指南役として、各大名家に一年毎に渡り歩いているとのことであるが、幕府の密命を受けてお目付け役として監視しているのではないかと言われていた。

 もしくは先代将軍の落としだねで、気ままに大名家を渡り歩き、勝手気ままな生活をしているとも言われている。

 だから、能登守をはじめ、秋葉藩の人間は腫物を扱うようにしてこの九郎という青年に接しているとのことであった。


(まあ、そんな秋葉藩の事情はさておいて、今回をどうしのぎましょうか……)


 雪乃の関心はその一点である。

 料理対決で一位を取る必要はない。それは主人公であるお栄に任せる。この世界で悪役姫ポジションの主君を目立たないような順位でスルーする。

 これが雪乃の使命である。


(目標は二位か三位。二位なら惜しい二位よりも平凡な二位。できれば三位がベスト。下手に最下位を取ると何か起きそうな気がするので避けるべし)

 

 最下位はそれだけで目立つというものだ。

 悪役姫はどこでお手打ちフラグを立てるか分からない。目立たないようにすることが生き残るための必須なのである。

 しかし満点姫は全くやる気を見せていない。あの人斬りとの対決は目を輝かせ、やる気に満ちていたのであるが、料理対決はあくびをいてぼーっと立っているのみ。

 雪乃の目の前には何とか町で買いこんで来た食材が置かれているが、この時点で何を作るか決めていない。


(まあ、汁物でも煮物でもできる。おでんを作るお栄さんとは被らないようにしないと……)


 ところが、事態は大きく動く。

 月路の儀が始まると料理を作る場面で、公家出身の燈子姫と旗本の姫澄姫のところで騒ぎが起こったのだ。

 料理を手伝う女中を交えて、なにやら相談を始めているのに雪乃は気づいた。

 お栄と香姫だけは順調に準備を進めている。

 雪乃は満天姫に合図を送られ、そそくさと両陣営のところへ聞きに行く。燈子姫も澄姫も満天姫のことを悪く思っていないので、事情を話す。


「どうしたのじゃ?」


 満天姫は様子を伺いにいった雪乃に尋ねた。

 両陣営から騒ぎの原因を聞いた雪乃は報告する。


「両陣営とも用意していた材料が盗まれているそうなのです」

「盗まれたじゃと?」

「はい。燈子姫様は鳥肉。澄姫様は根菜類がないそうです」

 

 燈子姫は鳥肉ミンチと大根を絡めたふろふき大根を出す予定。

 澄姫はけんちん汁を作る予定だという。

 盗まれたものは重要な食材。なければアウトである。


「なら簡単じゃ。お主はそれらの材料をもっておるじゃろう」

「はい。町で仕入れましたから……えっ、まさか?」

「燈子姫と澄姫に与えるがよい」


 満天姫はそう涼しそうな顔で言った。雪乃は開いた口がふさがらない。

 確かに二人の姫に食材を提供すれば、二人は予定したものを作ることができる。

 満天姫が邪魔をしたという噂も立ち消えになるだろう。


(が……しかし……)

「満天姫様、それでは私たちは何を作って出せばよいのですか?」


 根菜類と鶏肉を渡せば、ほとんど何もなくなる。料理ができない。


「だから、大根おろしを出せばよい」

(大根おろしかよ!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ