番外編 お礼のクッキー 前編
~~~番外編~~~
「ルーク。これ全部市場で買えるのか?」
「あぁ、でも本当に大丈夫か?一人で買い出しなんて·····」
「大丈夫!ん〜ほら、コハクもロギもいるから!それじゃあ行ってきまーす」
「気を付けてな!変な奴についてくなよ!」
朝一に買い出しのメモを持って、勢いよく玄関から飛び出す。
今日はルークにクッキーを教えてもらう為に材料をメモに書いてもらったんだ。
何で突然私がクッキーを作ろうと思ったかと言うと·····
腰に差している翡翠色の短剣。
これはジェイトに作ってもらった!
もらったんだけど……まだ何もお返しを渡せてないんだ。
お金はいらないって言われてしまって、何をあげるか悩んでいたら、ルークが
「アイツは甘い菓子が好きだぞ」
って教えてくれた!
しかし、一つ問題が·····。
なんと、私は料理が得意じゃない!!
目玉焼きがちゃんと焼けるかなくらいの程度·····正直、お菓子なんて人生で一度も作ったことがない。
でもジェイトには喜んで欲しい。
ルークも何事も経験だって言ってくれたから、今回挑戦してみることにした。
で、いざ作ろうとしたら肝心の材料が足らなくて、私が買い出しに出たってわけだ。
「上手くできたらコハクにも食べさせてやるからな!」
「ク〜!」
と言う訳で、私達は魔物の国の市場に来た。
来たのだが……えっと……
何だこの……無塩バター?
え?バターって無塩とか有塩とかあるのか?
しょっぱくないバターってこと??
あとは砂糖に卵に薄力粉………。
薄力粉って小麦粉の事か?小麦粉属の薄力粉種?
小麦粉ってそんな種類ある感じなのか??
ヤバイ。
買出しの時点で泣きそうだっ
「はぁ……どうしよう、かっ?!?!」
市場の入り口付近でメモを片手に佇んでいると、背後からドンっと衝撃が走った。それは腰より下付近で……。
「なっ、何だ?!」
「シーロナー!何やってんの?こんなところで」
視線を下にやると、抱きついてきたのはポルクだった。
「今日はアンちゃん居ないんだね。一人で珍しい。コハクも元気そう!」
「クゥ!」
「ビックリした!何だポルクか。ポルクこそ店番はいいのか?エレティナはどうしたんだ?」
「ああ!定休日なんだよ、だから僕は家の店の手伝いで買出し中〜。シロナも買出しでしょ?メモ持ってるし……一緒に行こうか?」
ポルクは私のメモを見て察してくれたようだ。
人間である私がこの街を出歩けるようになってまだ日が浅い。
ポルクが一緒に来てくれたら心強い!
「いいのか?」
「うん!僕もこの先の店に用事があるから。ちょっとそのメモ見せて」
言われた通りメモを渡すとポルクはニコッと笑って私の腕を引っ張り歩き出した。
「あぁここか。よかったね!シロナが行く店は僕の行く店の近くだよ!ほら、行こ行こ」
「あ、ちょっ。分かったからそんな引っ張るな」
人通りが多い道を、ポルクはグイグイと引っ張って進んでいく。
ポルクはまだ小さくて子供だけど、こう見えて純血の魔物だ。
何で純血のポルクがイヂラード街に行き来しているのかは知らないけど……
まぁこの子なりの考えがあるのだろう。
あ、そういえば……。
「なぁポルク。家の店の手伝いで買出しって言ってたけど、何の店なんだ?やっぱり魔具関係?」
「ううん。一応父ちゃんが鍛治職人してるよ!」
鍛治職人?!
え、ポルクの父さんスゴい!!
「僕一人っ子だからさ、父ちゃんは僕を継がせたいんだろうけどね·····」
「何で継がないんだ?」
「んー·····何かさ、親が始めっから敷いたレールをただ走るだけって嫌じゃない?
僕には僕だけの人生があるっていうのにさ·····。好きな事させてよって感じ」
「そう·····なのか·····」
なんか、あんまり触れない方がいい話題だったかな·····。
一瞬ポルクの表情が暗く見えた。
空気を変えようとしてくれたのか、ポルクは話題を変えてきた。
「ねぇねぇ、そのメモの材料ってさ·····もしかしてお菓子とかだったりするの?」
「え?あぁ、まぁな。ルークに教えてもらおうと思って·····」
「えっ?!シロナが作るの?!」
目をカッと開いて驚くポルク。
どうせルークが作るんだろうと思ったんだろうな。
失礼だな!私がお菓子を作るのはそんなに可笑しいか?!
私は若干不貞腐れながら
「私が作ったらおかしいか?」
と呟いた。
しかし、ポルクは逆に目をキラキラと輝かせて食いついてきた。
「おかしくないよ!!僕も食べたい!!シロナが作ったお菓子!この後店に買ったもの届けたら一緒に家行ってもいい?!」
「う、うん。たぶん大丈夫だと·····」
「ほんと?!やったーー!!へへ〜お菓子お菓子〜」
なんか、凄い期待されている·····!
まさかの反応だったから咄嗟にOKを出してしまったけど、それはそれでプレッシャーだな。
が、頑張るしか·····ないぞ!!私!!
ポルクに連れられ、メモに載っている材料を買い揃えた私達はポルクの用事を済ませるためにポルクの実家に来ていた·····。
大通りから路地に入ったところにその店はあって、扉に《ブルーイン武具店》と書かれた看板が掛かっている。
店先には甲冑と剣が展示されていて、如何にも厳つい佇まい。
ギィッと音が鳴る、立て付けの悪い木の扉を開くと中も甲冑や盾、剣に弓矢など様々な武器の鉄製品が並べられていた。
そしてまだ昼前だというのに中は薄暗く、ちょっと不気味な雰囲気を漂わせている。
ここは、本当にポルクの実家なのか?
ポルクは店の奥に向かって大きな声で叫ぶ。
声は店中に響き渡った。
「父ちゃーーーん!!頼まれた部品買ってきたよーーー!」
呼びかけた直後、ズシン、ズシンと音を立てながら奥から魔物が顔を出した。
その魔物は私より遥かに大きくて、頭にハチマキを巻き、作業エプロンを着け上半身タンクトップのダボダボのズボンを着用した··········うん。これは、アレだ·····
熊だ。
「おう、すまねぇな。ん?客人か?」
デッカイ熊に驚いた私とコハクは、口をポカーンと開けたまんま固まってしまってすぐに返事が出来なかった。
だって仕方ないだろ。
茶色い大きな体で、顔や胸には無数の傷があるのだ。
ビビらないわけが無い。
とって食われるかと思う。
「前に僕が話してるじゃん!この子がアンちゃん所の新助手のシロナだよ。
あとほら、闘技場で戦ってたでしょ?」
どうやらポルクは私のことをお父さんに話しているようだ·····。
なら安心か────
安心かなっと思った瞬間におっきい手が私の頭を覆いかぶさり、ぐちゃぐちゃと撫で回し始めた!!
「そうかそうか!!お嬢ちゃんがあの人間のーー!はっはー!こりゃ驚いた!あのスカーを追い詰めてたのがこんな華奢な子だったとはなーー!」
ワシワシと撫で続けながら上機嫌に話す熊。
いやいやいやいや!
首が·····っ!
折れるから·····!!!
「父ちゃんっ!強い強い!シロナが死んじゃう死んじゃう!!」
ポルクの咄嗟のフォローによって何とか助かった。
「おおっと!悪いな!はははは!」
「い、いえ·····」
ボサボサになった頭を手ぐしで整える。
きっと悪気は無いんだ·····。
見た目は怖いけど、案外いいヒトそうなのかもしれない。
「自己紹介が遅れちまったな!ワイはここの店主をやってる。鍛治職人のアイゼンだ。
どんな武器や防具もオーダーメイドで受付けるのはこの店だけ。
お嬢ちゃんも欲しい武器があれば遠慮無く言ってこいよ」
アイゼンはこの辺では有名な鍛治職人で、魔軍の武器は大体ここで作って納品しているらしい。
私も改めて名前を名乗りよろしくと伝えた。
これから長い付き合いになりそうだからな。
~~~続く~~~




