第五十二話 追放者
草原を抜け、私達は山道を登っていた。
木が生い茂り、綺麗に整備された山道。
きっと商人達が頻繁に道を通るのだろう。
先程、別の馬車が通ったであろう荷車の跡が地面に残っている。
この山を越えれば目的の国に着くはず。
多分山を超えるのに一日はかかるだろうから、明日の昼前には着けるかな。
ってルークが言ってた。
その間、ただ馬車に揺られているだけじゃ時間が勿体ないので私はレヴォルに稽古をつけてもらうことになった。
「よっし!それじゃぁ始めるよー!準備はいいかい?」
向かいに座っているレヴォルは腕捲りをしてやる気マンマンだ。
「ちょっと待て。準備ってこんな狭い馬車の中でどうする気なんだ?いくら短剣だからってここで振回したら危ないぞ」
「チッチッチ〜。残念だけどシロナちゃ〜ん。お前さんが思っているような激しい指導は今はやらないのよ〜」
「え?」
どう言う事だ??
武魔装なんだから短剣は必要なんじゃないのか?
一体……どんな内容の特訓を………?
「ふふ〜ん。今からやる特訓は……これだっ!」
ジャジャ〜ン!
と効果音をつけながら、ポケットから手のひらサイズの丸い水晶を取り出した。
「…………玉?」
「ノンノン、ただの玉じゃないよ〜。う〜ん、お前さんも一度はこの水晶を見たことがあるはずだよ?」
私がこれを?
ん〜……見た事あっただろうか……。
こんな水晶………
ん?水晶??
そういえばルークの家に来たばかりの頃、魔力量を調べるために水晶を使ってテストをした事があった!
まさか、その水晶の事か?
けど、それにしてはサイズがふた回りほど小さい気がする。
「思い出したかな?
まぁ本来の物よりかは小さめなんだけどね〜。それでも今回の武魔装の特訓をするには十分なサイズだ」
「そうなのか……でも、これでどうするんだ?座りながら出来るんだろ?」
「もちろん!本当は外に出て実際にその短剣でやりたいところだけどね。それだとルーク君に置いてかれちゃうからね〜。
はい、それじゃぁこれ持って!」
ポイっと投げ渡され、水晶を落としそうになったが必死にキャッチした。
あ、危な〜〜!!
レヴォルめ……!
お、落としたらどうする気なんだっ!全く……!
「いいかい。今からソレはお前さんの武器だ」
……………は?
「なんだよ?!そのお前の頭大丈夫か?みたいな顔は!!
冗談を言ってるわけじゃないよ?あくまで頭の中で想像させてって意味だから」
「はぁ……」
「始めに言っておくけど、魔法ってのは基本頭の中のイメージで作り出すものなんだよ。
だから想像力が優れている者ほど扱える魔法も多くなる。それは闘技場で体験しているだろ?」
確か、あの時もロギが同じ事を言っていた気がする。
イメージして、それを具現化させろ……みたいな事だっただろうか。
「それで、これを短剣と想像して私はどうしたらいいんだ?」
「昨日ルーク君から聞いたけど、シロナちゃんは白判定だったらしいね」
「あぁ、一応…」
「なら、その高魔力を凝縮させてその水晶に纏わせるんだ……だが初めから形状が複雑な武器にそれを行うのは難しい。
けど、魔力を集めやすく安定しやすい素材で出来た水晶ならまだ簡単だ。
まずそれに慣れること!んでそれが出来たら……そいつの出番だ」
翡翠色に輝く短剣を指差すレヴォル。
柄の部分をそっと撫でて私はやる気を奮い立たせた。
始める前に、レヴォルは手本を見せてくれた。
片手に水晶を持ち、目を閉じて魔力集中させる。するとたちまち水晶が輝き始めた。
そこまでなら私にも出来た。でも、今回の特訓は更に上の事をするのだ。
輝いている水晶から魔力が漏れ出し、魔力が具現化し形を成していく。
レヴォルの魔力コントロールはすごかった。
具現化した魔力はレヴォルの思い描いた形に変化していくのだ。
最初は炎、次に鳥や鹿の動物。そして花などに……。
綺麗で思わず見とれてしまう。
これも彼の想像力と魔力コントロールが優れているからなのか……。
でも私だって想像力なら自信がある!
魔力コントロールは苦手だけど、9年間ただ暗い部屋で壁だけを見つめて過ごしていた訳じゃない。
小さい頃、父さんによく聞かせてもらってたお話。
青年が一人の少女と出会い、恋をする話だった。
その話の中に登場する少女は世界を旅する旅人で、青年に外はこんな世界なんだって教えてあげるんだ。
私は、そのお話が大好きだった。
そんな話を思い出しながら、扉の向こうの世界を想像する毎日。
他にやる事が無かったから仕方ないのだけど。
今、その経験がここで役に立つなんて……。
あの時間が無駄に済まなくて良かった。
「じゃぁ次はシロナの番だね。時間はたっぷりあるから、焦らずに頑張ってね〜」
「あぁ!よし、それじゃぁやるぞ!」
魔力を集中させて一気に水晶へ流し込む。
そして水晶が光を放ったと同時に突然、ガンッ!っと馬車に強い衝撃が走った!
「おおっと?!」
レヴォルはよろけるが何とか耐えた。そして私の方をジッと見るのだ。
もしかして、私のせいだと思ってるのか?!
私は咄嗟に否定する。
「ち、違うぞ!私じゃないからな!」
馬車が倒れそうになる程の強い衝撃の正体は、すぐ分かることとなった。
「クソ、厄介だな……」
ルークは驚いて暴れる馬を制御しながら前方を見て呟く。
私とレヴォルも馬車から顔を出し前方を確認する。するとそこには人間が10人以上で道を塞いでいた。
見るからに柄が悪そうで、魔法を使える人間が私たちの馬車に向かって遠近魔法を放ったようだった。
何で人間が私達に攻撃を?
何か恨みを買うような事でもしたか??
道を塞がれてしまっているため、仕方なくルークは馬車を止めると、リーダーらしき人間が話しかけてきた。
「あんたら悪ぃな〜。ここは俺達の縄張りだ。
こっから先に行きたきゃ通行料として積荷を全部置いて行きな〜!」
「通行料·····?」
そんな·····道を通るだけで金を取られるものなのか?
それでも積荷を全部ってのは、世間知らずの私でも明らかにおかしいことは分かる。
この人達は一体·····。
「ハァ·····済まないが先を急いでる。あと、お前達に渡すものなど何一つ無い、痛い目にあいたくなければさっさと失せろ」
「あぁ?んだとゴラァ?」
ルークは慣れているのか、強気な姿勢で人間に対抗する。
でも、それだと相手を逆に怒らせて大変なことになるんじゃ·····。
「シロナ、そんな心配しなくても大丈夫!あいつらはきっと、隣町にあるギルドから追放された奴らの集まりのただの盗賊だよ。
ここはルークに任せとこ」
「そ、そうなのか·····」
盗賊·····。まぁルークなら心配いらないか。
あのデッカイ兎を倒しちゃうくらいだもんな。
ただの人間相手なら·····────
「あぁ?アンちゃん達よく見たら魔物じゃねーかよー」
「いや待て待て、奥にいる赤い娘は人間じゃね?しかもまだ若ーい。
へへ、魔物なら殺しちまっても問題ねぇよなぁ?」
「殺されたくなけりゃ、積荷と娘を置いておととい行きやがれ〜」
·····おいおい。
赤い娘って·····どう考えても私·····だよな?
何で私も払う対象なんだよ??
シロナは理解が追いついていなかったが、意味を理解していたルークの顔付きは先程の呆れ顔から一変し、阿修羅のような険しい顔つきになっていた。
そして、何故か精神世界にいるロギからも怒りの感情が伝わってくる。
ルークは手網をレヴォルに渡し、馬車から降りて盗賊にゆっくりと向かっていく。
盗賊はそれぞれ腰につけている剣を抜き戦闘態勢だ。
無理もない。
歩いてくるルークのオーラが、とてつもなく威圧感を放っていたのだ。
「低脳共が·····。後悔させてやる」




