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灰色ノ魔女  作者: マメ電9
第二章 迫り来る敵の手
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第四十二話 君が幸せなら


子供達の私『人間』に対する態度の変化。



これは、周りの大人達の私に対する認知が変わった事で子供達にも影響が出ていたのだ。


あの戦いは、これ程にまでに影響力があって、歴史を変えてしまうほどの革命だった。


私は全くそのつもりはなくて、ただコハクと私が生き残る方法を取っただけで、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかった。



そして子供達が口々に、『魔女』だの、『ドラゴン使い』だのと言っていた。


ジェイトによると、私はいつの間にか魔物達に‥‥




《ドラゴン使いの灰色の魔女》




と呼ばれているらしい。

それを聞いた時、益々元始の魔女の母さんに寄っていってるような気がして、嬉しいような、嬉しくないような‥‥複雑な気分だった。





私の周りを取り巻いていた子供達は、保母さんが部屋の中へ連れて行ってくれて何とか身動きが取れるようにしてくれた。


コハクも子供達にベタベタと触られていたせいでグッタリしている。


「つ、‥‥疲れた‥‥」


「アイツら超元気だろ?俺もあの体力について行くのに必死なんだよな〜。まっ、おかげで鍛えてもらってるようなもんだけどな〜!」


ははは、と笑うジェイトの服を見ると、相当子供達と暴れたのだろう‥‥所かしこに土汚れがついていた。



「ジェイトは凄いな‥‥。でも何でジェイトがここに?仕事とかじゃ無いだろ?」


「俺と姉貴は養護施設の出だって言ったろ?それ、実はここなんだ。だから恩返しっつーか。ちょっとでも役に立てればなって思ってさ!」



そういえば‥‥。

ルークの過去を話してくれた時、施設から抜け出してルークの家に行ってたって‥‥。

あれは、ここの話だったんだ!


ヘラヘラしてるように見えて、結構いい所あるんだな。


「っと、それよりルーク達は何しに来たんだ?また納品か?」


そうだ。

私もそれが知りたかった!

さっきは何故か教えてくれなかったから…。



「ちょっと届け物だ。ジェイト、ナディアは何処にいる?」


「ナディア‥‥。あぁ、新入りのお嬢ちゃんか!あの子ならあそこだぜ」


ジェイトは庭の奥を指さした。

その方向は、前にナディアと一緒にぬいぐるみを洗っていた場所だった。


言われた通り、その方角を歩いていると少女が小岩に腰掛けているのが見えた。



以前は包帯やガーゼが身体中にあったけど、その数が少し減っているような気がした。

彼女がいじめられることが無くなってきたのかもしれない。

もし、それがあの戦いの影響なのだとしたら‥‥。

彼女の助けに少しでもなれたってことだ。


誰かの為に、何かを返していきたいって目標が少しだけ近づけた。



彼女の傍に近づいていくと、声をかける前にナディアが私に気づき、満面の笑みで私に抱きついてきた。


「シロナお姉ちゃん!!!良かった‥‥っ!帰ってきてくれたっ!」


「ありがとうナディア。あの時応援してくれて‥‥おかげで助かった。ナディアこそ傷はもう大丈夫か?どこも痛くないか?」



ナディアは凶暴化魔物に襲われた。

致命傷の傷だった。


でもそれをモノンが治したとか‥‥。

詳しい事は知らないから、ずっとそれが心配で仕方なかった。



「‥‥?傷?何のこと?」


キョトンとした顔で首を傾げるナディア。




まさか‥‥。




「ナディア‥‥‥‥覚えてないのか‥‥?外に出てしまった時の事」


「‥‥外?‥‥‥‥ごめん‥‥よく覚えてない。気づいたら医務室で寝てたから‥‥」



やっぱり記憶が‥‥。


「多分だが、先生の仕業だな‥‥。まぁ、忘れてしまった方が良かっただろう。あれはトラウマになる」


「モノンが?」



何でわざわざ記憶まで‥‥。ナディアを思っての事か?

まぁ確かにモノンならやりかねない気もするし‥‥彼なりの気遣いだったのかもしれないな‥‥。



考え込んでいるとナディアが袖を引っ張った。

そして見慣れたローブを突き出してきた。


「これ!ずっと返そうと思ってて。これお姉ちゃんのでしょ?」



モフモフの銀白色の毛並み。

私が着ていた時よりも、そのモフ感がアップしている気がする。

それに、洗剤のいい匂いだ。


「目が覚めたら傍にこれがあって。すぐにお姉ちゃんのだって分かって返そうと思ったんだけど、魔軍に捕まったって聞いて‥‥保母さんにお願いして連れてってもらったの。

それで、少し汚れちゃったから、お姉ちゃんに教えて貰ったやり方で洗ってみたの!」



洗いたてのローブを受け取り、私はナディアの頭を撫でた。


「そうだったのか‥‥わざわざありがとうな」


へへっと笑みを浮かべ、彼女は続けて言った。


「目が覚めた時、何でか震えが止まらなくて、お姉ちゃんのローブを触ってたら落ち着いたの!だから、お礼を言うのは私の方‥‥。


あとね!私ここを出ることになったの!」



「えっ?!そうなのか!?ど、何処に?!」



「へ〜。珍しいな!こんなすぐに里親が見つかるなんて事あんまねぇのに」


「あぁ。俺も初めてだな」



ジェイトとルークも驚いている。

ここに詳しいはずの2人が驚く程だ。

本当に珍しいことなんだろう。


「ここの近くに村があってね。そこのおばさんが私を引き取ってくれるらしいの!

保母さんが言ってた」



この近くの村?


‥‥もしかして‥‥私のいた‥‥。




脳裏に過去の出来事が浮かんだが、それは私の過去にすぎない。


あの村にも心の優しい人がいたんだ。



それで、いい‥‥。



それで、彼女が幸せを掴めるならいい。




私はナディアから受け取ったローブに目をやった。

このローブが、ナディアの心の支えになるのなら‥‥。


そう思いローブを差し出そうとしたその時。

ルークが私の手を掴んだ。


顔を見上げると、「それはお前のだ」と呟いてナディアの前出しゃがむ。

そして、袋から荷物を取り出した。



「ナディア、これは俺からのプレゼントだ。魔物が怖いのに闘技場まで来てくれてありがとう。その礼だ」



ナディアが袋を開けてみると、中身はシロナとお揃いのモフモフの獣耳ローブだった。


羽織ってみると、ちゃんと子供サイズになっていてナディアにピッタリだ。


ナディアは頬を赤らめ、目をキラキラさせた。


「い、いいの?!これ!」


「あぁ、それを羽織ってれば大抵の魔物はお前を人間だと気付かない。何かあればそれを使うといい。

元気でな」



届け物ってナディアのプレゼントの事だったのか。

ルークがそんなものを用意しているなんて、ちょっと意外だ。



相当嬉しかったんだな‥‥。

飛んではしゃぐナディアを見て、私達は笑いあった。




ナディアが村に行くのは三日後。

村人との交渉は、頭の耳を帽子で隠して保母さんが取り合ってくれたそうだ。



会おうと思えば会える。

永遠の別れじゃない。


悲しむ必要なんて‥‥無いんだ。




笑って見送ろう。



そう心に決め私達は施設を出た。


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