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灰色ノ魔女  作者: マメ電9
第一章 灰色から虹色世界へ
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第三十話 愛してる


「よーーーーし!やっと出来たーー!」


シロウは娘が居ないことに気付かず、研究に没頭し続けた結果‥‥


ついにその薬が完成したのだ。


ぐいーっと伸びをして立ち上がる。


「よいしょっと。シロナー!お待たせ。そろそろ行こうか〜」


呼びかけるも、返事は一向に返ってこない。



「シロナ〜?行くよー?シロナー」


各部屋のドアを開けてみたものの、どこにも居ない。


ん?おかしいな‥‥

さっきまでここにいたと思ったのにな


「遊びに行ったのかな‥‥なら僕一人で行くか」


シロウは財布が置いてあった場所を見たが、財布さえも見つからない。



そこで、シロウはようやく察した。


「まさか‥‥!」


一人で商業街に行ったんじゃ‥‥っ!?


シロウは血相を変え、出来上がった薬を専用の筒型持ち運び注射器に入れて家を飛び出した。




その頃、娘シロナも走っていた。

お姉さんのおかげで無事商業街入口アーチ前まで逃げ切れたのだ。


息を切らしながら振り返る。



お姉さん‥‥大丈夫かな??

怖くて思わず逃げちゃったけど‥‥。


でも、お姉さん怖い人たちと戦えてたし‥‥大丈夫‥‥だよね?






《 ごめんね 》






お姉さんの言葉が頭の中で響く。





そしてシロナは覚悟を決め、財布を握りしめた。




やっぱり戻ろう!!


お姉さんが心配だっ!


魔物だろうがなんだろうが、お姉さんは私を守ってくれた良いヒトだった!


このまま帰るなんて‥‥絶対嫌だ!



人混みをかき分け、来た道を再び走り戻る。


彼女の無事を願って‥‥。




表通りを走り抜け、もう少しでさっきまでいた路地裏近くまで来たところで異音がする。


男の叫び声が轟く。




次の瞬間。


さっきお金を取ろうとした男が宙を舞った。


路地裏の影から飛んできた男は、表通りの壁に背中を強く打ち、ぐったりとして動かない。

胸には大きな切り裂かれた傷が出来ている。


「な‥‥何?これ‥‥何なんだ?!」


周りにいた人達が騒然とする中‥‥。

その犯人であろう人物が、男が飛んできた道の影からヌッと現れた。



キャーッ!





女性の叫び声。


私も恐怖に体が震えた。


現れたそいつは、狼の魔物。


目は血走り、体に飛び散った血液、鋭い爪と牙。


四足歩行で、銀色の毛並みも逆立てている。



初めて見る魔物だった。


「ま、魔物だ!魔物が街に入ってきた!」

「にげましょ!早く!!」

「おい!誰か戦えるやつ呼んでこい!」


大人達が散り散りになって逃げる中、私は恐怖で動けない。



怖い‥‥怖い!

お姉さんは?!

お姉さんは逃げれたのか?!

無事なの?!



震えていると魔物は視線を私に向けて叫んだ。


「その匂い‥‥っ!!!貴様‥‥!人間!!よくも‥‥!私の‥‥!!よくもーーっ!!!」


瞬間

魔物が飛び掛かる。





あぁ‥‥


私‥‥死んじゃうんだ。




時間がスローモーションで流れ‥‥


そして


魔物の爪が私目がけて振り下ろされた。






すると、突然体に衝撃が走り後ろに突き飛ばされた。


「?!」


ザザザザァーっと地面を転がり、痛みを堪えながら顔を上げ‥‥。






私は‥‥言葉を失った。




「‥‥シ‥‥ロナ。大丈夫‥‥かい?」



赤い。


目の前の色が赤く染まる。


垂れた血液が地面を伝って、私の近くに流れてく。



「‥‥と、父‥‥さん?」



父はうつ伏せになり倒れた。



あの大好きだった背中に、大きく切り裂かれた傷が出来ていた。


そこから血がドクドクと溢れてくる。


なに?


これ‥‥



こんなの‥‥嘘だ、嘘だ


嘘だ!!!!



「父さん?父さん?!父さん!!!」



それはもう、動かない。



頭の中がグチャグチャになる。


鼓動は早く。


呼吸も荒々しくなって。


何か胸の奥から溢れてくるものを





抑えられなくなった。



「父さん‥‥嫌‥‥そんなの。私のせいで‥‥!父さん!!嫌だ!私を置いていかないで!!‥‥‥‥‥‥



ああ‥‥ああ‥‥ああああああああああああああああ!!!!」



シロナの中で何かが弾け飛ぶ。


その瞬間。


茶色い髪の色素が抜け、徐々に灰色へ変わっていく。




小さな体から大量の黒い魔力が周辺を覆い尽くし、その黒い影は刃と化した。


ありとあらゆる建物に傷をつけ、地面さえもエグれていく。


そして、父を殺した魔物の胸には‥‥


影の刃によって風穴が空いていた。



魔物であろうと、その傷は致命傷。



命あと僅かという刹那に。





「シズク‥‥」





と呟き血を流しながら倒れた。




シロナはというと、意識が吹っ飛んだ状態で力を発散させ、更に突然の魔力解放により小さな体に負担が大きく、そのまま気を失い地面に倒れる。


そこへ体を引きずりながら何かが近づいてきて、シロナの頭を撫でた。





シロウはまだ生きていたのだ‥‥。





‥‥しかし、その生命は消えかけていた。


「シロナ‥‥っ。うっ、まさか、自力で封印を‥‥はは、流石レイナの子だよ‥‥」




その時、ロギアンはシロナの中で目覚めていた。


精神世界からの声は契約者以外の者には届かない。



それでも、彼は訴えかけた。


「《シロウ!!何してやがる!早く誰かに治療して貰え!!テメェ死ぬぞ!!シロナを一人にさせるつもりか?!そんなの俺は許さねぇぞ!レイナだってどーするつもりだ!!》」



シロウには聞こえない。


でも、シロウは何となく感じ取っていた。

ロギアンはきっとこう言っているだろうと‥‥。


「ロギ君‥‥すまないな、僕はもう駄目みたいだ‥‥。でもせめて、君を‥‥」


そう言って取り出したのは、先程完成させた薬。


「《おいテメェ‥‥何するつもりだァ》」



「ロギ君‥‥君には申し訳ないけど、シロナに‥‥うっ、‥‥シロナに平和な日常を送らせてやるには、‥‥君を封印しなくちゃならない‥‥。レイナからは、術式を預かってる‥‥悪いけど、僕の‥‥‥僕の下手な封印をかけさせてもらうよ‥‥」


「《シロウ!!!やめろ!!そんな状態で‥‥っ!本当に死ぬぞ!!‥‥シロォォォオウ!》」



しかし、その願いは届かず‥‥。


シロウは注射器を胸に突き刺し、薬を投与した。


元々、彼は魔力がほとんど無かったが、その薬の影響でか魔力がどんどん増幅していく。



その薬は

魔力増幅剤。


魔力を底上げさせる薬だ。


しかし‥‥



デメリットもあった。


「本当はレイナを助ける時に使う予定だったんだけど‥‥ごめんよ‥‥先に使わせてもらうね‥‥。君の生きる希望‥‥僕達の、愛しい光を絶やさない為に‥‥。僕の命と引き換えにして‥‥守るよ‥‥。


心残りはあるけど。


死ぬ前に‥‥君にもう一度‥‥会いたかった‥‥



レイナ




シロナ‥‥








‥‥愛してる‥‥。」



「《シロォォォオオウ!!》」



シロウは封印術を展開し、魔法陣が足元に広がった。


光が天まで差すほどの力だった。



その魔法陣はシロナの元へ集まり、次第に光も弱まり、シロナの左頬にあった縦模様は薄く消えていった。



封印は成功‥‥。


だが、彼の温もりは‥‥無くなってしまった。

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