第二十九話 夢の中で
「父さん!また徹夜したのー?もう朝だぞ!」
「お?あぁシロナ。もう朝か?いやぁ、はは、どうも熱中しすぎたみたいだね‥‥今片付けるよ」
私と父は村の端っこの小さな家に住んでいて、決して裕福とは言い難いが、十分私は幸せに過ごしていた。
父さんはいつも机にかじりついて何かを作ってる。
沢山の薬品や素材を溶かしては混ぜての繰り返し。
その完成品が一体何なのかは、子供の私には教えてくれない。
でもたまに手伝いくらいはしていた。
そんなある日‥‥。
父さんが私に紹介したい人がいると連れてきた。
長いクリーム色の髪を風になびかせて、綺麗な洋服を着た女性。
「あなたがシロナちゃんね?」
私の名前を何故知ってる??
その疑問を父さんが晴らした。
「シロナ‥‥紹介するよ。僕の新しい妻。シロナの母さんになる人だよ」
「かぁ‥‥さん?」
私の実の母。
一緒に過ごしたこともなければ、顔も見たことがない。
唯一知っているのは【レイナ】という名前だけ。
私を産んですぐ亡くなったらしい。
だから私にとって母とは、よく分からなかった。
「シロウさんとお付き合いさせて頂いてます。カルダって言います。これから一緒に住むことになるけど、始めはなんでも好きな呼び方で良いからね」
当然‥‥最初からこの女の人の事を母とは思えず、私はカルダさんと呼んだ。
父さんも少しずつ慣れればいい。
そう言ってくれた。
カルダはなんでも出来た。
掃除
洗濯
料理
裁縫
私と父ではこなせなかった家事も全部してくれた。
‥‥そんな彼女に私は尊敬、憧れを抱き、次第に不器用ながらも
母さん
と呼べるようになっていった。
母さんがいる生活は、こんなにも暖かくて賑やかなのか‥‥。
小さい家で仲良く3人。
こんな風に過ごす日が来るとは、夢にも思っていなかった。
ご飯を食べる時も3人
寝る時も3人
いいことが沢山増えて。
誕生日プレゼントだって一つ多く貰えるようになった!
夢に描いていた、幸せな日々。
カルダが私をいつもの様に寝かしつけて、父さんの研究机にお茶の入ったコップを置く。
「あぁカルダさん、すまないね」
「フフ、いいのよ?これくらい気にしないで‥‥シロナちゃんはさっき眠ったわ」
「そうか、ありがとう」
カルダは近くの椅子に腰掛ける。
「‥‥その薬、だいぶ完成してきたみたいね」
「もうあと少しってところかなぁ〜。‥‥‥‥なぁ、カルダさん。僕との約束覚えているかい?」
シロウは、手元の魔石を専用道具でゴリゴリと砕きながら口を動かす。
「えぇ、覚えてるわ‥‥。シロナちゃんが私に懐いたらと、あなたのその薬が完成したら‥‥‥‥‥‥出て行くよね?あなた一人、この村から‥‥その理由はやっぱり話せない?」
動かしていた手がピタッと止まり、シロウは俯き呟く。
「‥‥すまない‥‥カルダさん。‥‥詳しい事は話せない。けど、僕は‥‥探しに行かないといけないんだ。その為に僕にはこの薬が必要なんだよ。‥‥魔力の才能に恵まれなかった僕に‥‥」
探しに行く。
一体誰を?
どこへ?
そうカルダは思ったはず。
でも、彼女はそこから深くは足を踏み入れなかった。
「‥‥分かったわ。シロナちゃんの事は私に任せてちょうだいね。じゃ、そろそろ私も寝るから‥‥夜更かしも程々にするのよ?」
カルダはコップをシンクに置き、寝室へ向かった。
そして、シロウは誰にも聞こえないくらいの声で
「レイナ‥‥」
と呟いた。
そんなやり取りがあって数日後の事‥‥。
カルダは外に買い出しで出掛けて、父と私の二人で留守番をしていたある日。
その時は、来てしまった。
「あっ、母さん財布忘れてる!」
玄関先に落ちている財布を発見したシロナは、研究中のシロウの元へ駆け寄る。
しかし、シロウの研究も終盤に来ており、今日完成するかどうかという大事な時期であったため、シロウは研究から目が離せなかった。
「父さん!母さんが財布忘れてったんだけど、私届けに行ってもいいかな?」
「え?あ、あぁ、駄目だよ?商業街に子供一人で出歩くのは危ないから‥‥僕が後で行くよ」
行くよ‥‥と言いつつ。
父さんが机から離れる気配はなし。
私はほっぺたをプーっと膨らまし、反抗した。
「もう私6歳だよ!それくらいのお使い一人で出来るから!」
横から必死に訴えかけるが、シロウは目すら合わせず駄目駄目しか言わない。
そこで、一旦諦めたふりをしシロウから離れるが、研究に熱中している父さんの目を免れ外に出るのは容易だった。
父さん‥‥行くとか言っときながら絶対行かないんだから!
母さんも財布が無いと困るだろうし‥‥
私が行くしかないな!
財布を片手に、商業街へ向かって走り出した。
確かに、商業街に子供一人で歩き回るのは危険。
何故なら、たまに魔物が紛れ込んでいる事があるかららしい。
そして、結構野蛮な人間もウロウロしているので、喧嘩なんてしょっちゅうある。
路地裏で人が倒れているシチュエーションなんて、日常茶飯事だった。
そんな商業街は、子供達にとって刺激的な非日常が味わえる憧れの場所でもある。
商業街の入口のアーチを潜り、人混みをかき分けカルダを探しながら走っていた。
すると突然誰かとぶつかってしまい、相手も私も転けてしまう。
慌てた私はすぐ起き上がり声を掛ける。
「だ、大丈夫??!」
ぶつかったその人は、帽子を目深に被り着物を着ていた。
少し年上のお姉さんで、サラサラとした銀髪が輝いていてとても綺麗。
手を差し出すと一瞬躊躇ったが、手を取り立ち上がることが出来た。
「ごめんなさい。私ちゃんと前見てなくて‥‥」
お姉さんは地面に落ちた財布を拾い、私に渡してくれた。
「私もちゃんと見てなかったから‥‥ごめんね。はい、これ貴方のよね?」
「ありがとう!‥‥お姉さん1人?」
「ううん。お父さんと来たんだけど、はぐれちゃって‥‥探しながら歩いてたの」
「そうなの?私も母さんを探してるんだ!良かったら一緒に探そうよ!」
「え?いいの?」
「うん!私も一人で少し怖かったから‥‥」
ワクワクしていた半分、不安もあったので同じような境遇の彼女と出くわし
友達になれたら‥‥
なんて事を考えていた。
少し悩んでいたが、一緒に探す事に同意し商業街を二人で歩き回る事になった。
話を聞くところによると、お姉さんのお父さんは薬師らしく。
ここにはその材料を買いに来たそうで、お姉さんは反対を押し切って一緒に着いてきたらしい。
「案の定迷子になっちゃったから、きっと見つかったら叱られちゃうね」
微笑みながら私に話しかけてくれる。
この人はいい人だ!
「私も。父さんの言うこと無視して来ちゃったから、今頃カンカンだろうなぁ」
私達は顔を合わせ笑い合った。
そんな感じで子供が2人歩いていると、当然目立つわけで、背後にいかにもヤバそうな男達。
四人の男が私達を囲み睨みつけてきた。
突然の展開に私は半泣き状態。
そんな私をお姉さんは前に出て私を隠すように立つ。
「嬢ちゃん達〜俺らちょっと金落としちまったみたいでさ〜。その財布とかさ、俺達に恵んでくんないかな〜?」
財布。
それは私がカルダに届ける財布の事を指していた。
怖くて下唇を噛んだ。
するとお姉さんが男達に向かって言い放った。
「これはこの子の物!あなた達に恵むものなんてありません!!そこを、退いて」
「お姉さん‥‥!」
勇敢なその姿に、私は少し安心した。
でも、男達が素直に従うはずは無く‥‥。
「んだとぉ?!この餓鬼!!」
お姉さんの腕や頭を鷲掴みにする。
すると、その拍子に帽子が脱げてしまった。
全員が驚いた顔をする。
美しい銀髪の頭に獣耳が現れたからだ。
そう。
彼女は
魔物だった。
「コイツっ!魔物?!」
「‥‥っ!君!早く逃げて!」
固まっている私を突き飛ばす彼女。
彼女は私を逃がそうとして、男達を殴ったり蹴ったりしている。
それなりに相手は怯んでいる。
やっぱり魔物だから人間より力が強いんだ。
でも、、
「お姉さんは?!」
その問いに、彼女は笑い答える。
「私は大丈夫。ごめんね黙ってて。さぁ!早く行って!」
すると、やられて地面に倒れていた男が私を追いかけようとするので、私は怖くなり一目散にそこから逃げた。
‥‥彼女だけを残して。




