第十四話 魔具
店への帰り道。
私とルークは、ずっと無言のままだ。
・・・非常に気まずい。
さっきまで普通に話せていたはずなのに、何を話したらいいか分からない。
ルークも一言も発さないし・・・
やっぱり怒っているのだろうか。
気になった私は、隣で歩くルークの顔をチラ見しようとした。
すると、ずっと無言だったルークがやっと口を開いた。
「シロナ」
突然声をかけられたので、少しドキッとした。
「な、何?」
「シロナ・・・ちょっと目を閉じろ」
「・・・は?何で??」
いきなりの注文。
「いいから、早く」
「一体何なんだ・・・」
よく分からないが言う通りにする。
するといきなりバシッと音が鳴る。
それと同時におでこに激痛が走った。
あまりの痛さにしゃがみ悶える私の図。
「いっっっったぁぁあああ!!!何するんだよ・・・ッッ!!!」
どうやらルークのデコピンが炸裂したようだ。
それにしても凄い威力。
「約束破った罰だ。これ位で済ませてやる事に逆に感謝しろ」
「そ、それゃあ私が悪いのは分かってるけど、するなら今するって言ってよ!心構えってのがあるだろ!」
悶えている私を心配したコハクが、側でソワソワしている。
その様子を、ルークは面白がっているのか嫌〜な笑みを浮かべている。
全く気に食わん男だ。
「一日に2回も約束破ったのは、どこの助手ですか」
う゛っ・・・
何も言い返せない‥‥。
私は俯くしかなかった。
「まぁ大体予想はつく、どうせポルクに無理やり連れ出されたんだろ。後でアイツにもデコピンの刑だ」
そう言いながら私に手を差し伸べた。
手を取り立ち上がる時ルークの顔を見たが、怒っているようには見えなかった。
「早く帰ろう。ポルクのやつすごく心配してたからな」
「・・・うん」
この時、聞こうとしたことがあった。
私を守ってくれた時、また間に合わないかと思ったって言っていたルークの台詞が気になって・・・。
過去に何があったのか・・・。
知りたい・・・。
でも、気軽に触れていい話題なのか分からず、結局悶々と考えていたら店に着いてしまった。
店を出発した時、まだ真上にあったはずの太陽は落ちてしまい、もう空は赤く染まってしまっていた。
今日一日だけで色々ありすぎて、私はもうヘトヘトだった。
そして、店の玄関を開ける。
「た、ただいま〜‥‥」
店に入るとずっとウロウロしていたのか、ポルクが椅子にも座らずに立って私たちの帰りを待っていた。
帰ってきた私達に気付くと、目に涙を浮かべ私に飛びついて来た。
「シロナぁぁぁああ!生きてる?!生きてるよね!?幽霊じゃないよね?!良かったァァァァァ」
泣きじゃくっているポルクの頭を、そっと撫でる。
あの時、もしポルクを逃がせれてなかったら、二人共死んでいたかもしれない。
アイツを引き付けて逃げるのは、凄く怖かった‥‥でも‥‥。
ポルクも、怖かったんだよな‥‥。
「ポルク‥‥ゴメンな‥‥心配してくれたんだよな」
ポルクはしがみついたまま、絞り出すような声を出した。
「当たり前じゃないか‥‥ッ。僕が巻き込んじゃったようなもんだし。僕のせいでシロナが死んじゃうんじゃないかって‥‥凄く‥‥凄く怖かったんだ」
僕のせいで‥か‥‥。
その気持ち私にもすごく分かる‥。
私は目線をポルクの高さに合うようしゃがみ、ポルクの手を握る。
ポルクの顔は涙でグチャグチャだ。
「巻き込まれてなんかない。私が手伝うって決めたんだから、ポルクのせいなんかじゃないよ。それに‥‥今私がここに居るのは、ポルクが頑張って走ってルークを呼んできてくれたおかげ‥‥。ポルクが居てくれたから、私は生きてるんだ‥‥だから‥‥」
「ありがとう」
そう言うとポルクは泣きながら笑った。
それにつられ、私も笑うとコハクがポルクの肩に飛び移り、涙を舐め始めた。
きっと、コハクなりの励ましなのかもしれない。
そうこうしていると、店の奥からエレティナが作業着姿で頭にはゴーグルをつけて出てきた。
さっき会った時はワンピースを着ていたのだが‥‥全く違和感がない。
「シロちゃ〜〜ん!出来たわよ!あなたの最高傑作魔具がぁ‥‥‥‥どういう状況かしら??」
ポルクの大泣き現場に出くわしたエレティナは、ずっと今まで工房にこもっていた為、何が起きていたか全く知らないのである。
私とポルクは一回目を合わし、ニコッと笑い合うと。
「「なんでもないよ!」」
と、声を合わせた。
「えー?絶対何かあったでしょ?!」
「師匠冗談ですよ〜。後でちゃんと説明しますから」
「ポルク絶対よ?」
あぁ、本当に師弟関係だったんだな‥‥。
信用してなかった訳じゃ無かったけど、エレティナがお師匠様なんて想像がつかなかったから、ちょっと見直したかな。
と、勝手に私はエレティナを好評価していた。
「で?シロナの魔具が出来たんだろ?」
ルークはまだか?と言わんばかりに師弟会話に割り込んだ。
「あ、ごめんなさいね!」
エレティナはハッ!と思い出し、ポケットから革の輪っかを二つ出した。
「シロちゃん、利き手はどっち?」
「え?右手だけど‥‥」
「じゃぁ右手を出してくれる?」
言われた通り右手を出す。
エレティナは革の輪っかの紺色の方をシロナの手首につけた。
それには透き通った青色の魔石が埋め込まれている。
きっとこれは、母ドラゴンの魂魔結晶だろう。
「綺麗‥‥」
しかし私は不思議に思った。
何故二つ?
もう一つは何のため??
「はい!じゃぁ次は子ドラゴンね」
そう言うとポルクの肩に乗っているコハクの所へ行き、朱色の革の輪っかを子ドラゴンの首につけた。
その首輪にも、丸い青色の魂魔結晶が埋め込まれている。
「何でコハクにも??」
「コハク‥‥?あーこの子の‥‥ふふ、いい名前付けてもらえて良かったわね〜コハクちゃん」
クークー!と嬉しそうに返事をするコハク。
エレティナはコハクの頭を優しく撫でた。
「ふふふ、シロちゃん、この魔具にはね、ある秘密が施されているのよ〜」
「秘密?」
「そう!他の魔具には無いすごい機能!それは‥‥‥‥‥‥魔力共有よ!」
「共有?」
「えっと、簡単に説明するとね‥シロちゃんの魔力が入ったタンクと、コハクちゃんのタンクを1本のパイプで繋げるって事。つまり、コハクちゃんが魔力供給を自分で好きな時に出来るようにする機能ってところね」
おぉ〜‥‥。
エレティナが職人みたいなこと言ってる‥‥さすが伊達に師匠してないな。
と感心していると、ルークが腕を組んで渋い顔をしている。
「そんな事可能なのか?そんな魔具の機能聞いたことがないぞ」
え?そうなの?
そーゆーものなの?
少し不安になってきた。
「そりゃそうよ〜!こんなの作ったの今回が初めてなんだから。まず、魔力を共有したがる人なんていないしね!」
うわ〜‥‥めちゃ不安になってきたぞ。
「師匠‥‥大丈夫なんですかそれ」
ポルクも呆れた顔で師匠を見ている。
「大丈夫よー!きっと!とりあえずほら、やってみてよ」
何だか、実験されてるようで不満だったがやってみるだけやってみるか。
ポルクの肩に乗ったままのコハクを、テーブルの上に移動させた。
「コハク‥魔力供給してみて」
「クゥッ」
私は何もしていない。
特に魔力の集中もしていない。
それなのに、私の魔力がコハクに流れていくのが分かる。
その証拠に、コハクの魔具の結晶が淡く光っていた。
「すごい‥‥凄いぞエレティナ!」
「ふふ、成功みたいね」
これで一安心だ。
「良かったなコハク!」
「クゥ〜‥‥‥‥!!!?!」
一安心だと思ったその時、順調に魔力を供給していたコハクだったが、突然コハクの毛がブワッと逆立ち、目もこれでもかってくらい見開いていた。
「コハク‥‥?どうした??」
しかし、それも数秒でいつも通りのコハクに戻った。
今のは何だったのか‥‥。
コハクはシロナの中の、別の何かを感じ取っていた。
でも、その事はコハクにしか分かっていなかった。