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インティーヴァスの収容所は、何か、見た目からして薄汚い。
ほら、もうすぐ雨の降りそうな雲。全体的に、あんな感じの汚さなんだよね。青空が背景だから、余計にきったなく見える。
指示は途中で出してたみたいで、森に隠れながらみんなは配置につく。途中で、イハル兄んとこのリディが、外壁に近づくのが見えた。いくつかある門のひとつを、お得意の鍵開けで開けるんだろうなぁ。
まだ明るいから、暗い色の服を着てるリディって、変に目立ちそうなんだけど……案外バレないもんだね。
むしろ、すぐそこにいる将軍のが目立ちそうじゃん? いくら森の中とはいえ、白い馬に白銀の鎧だもん。
あたしたちが待ってる、正面の門が開け放たれた。無言で父さんが飛び出して、ほぼ同時に、将軍も森を出る。あたしも急いで、父さんの背中を追う。
木の扉の向こう側には、襲撃に驚いてる帝国兵。
騎士様みたいな鎧を着てるけど、あれで突っ込んでくるんだよね。こっちだと、鎧着てる人って、騎士様じゃなきゃ、迎撃が基本だからさ。
きっちり倒しきれないと危ないから、力がちょっと弱いあたしには、結構怖い。
父さんやイハル兄みたいに、力押しできる『ガツ』が使えたらよかったんだけどね。
自分が弱いってわかってるから、複数は相手にしない。そういう状況にならないように、ちゃんと父さんたちにくっついて行動しなきゃ。
「助力します」
頭上から降ってきた声を見上げたら、将軍だった。相変わらず、戦場には不似合いの、優しそうで爽やかな人だね。
馬上だからかな? ベネットやリアムみたいな、おっきな槍持ってる。
……将軍って、暇なのかな? それとも、ここの一団だと、あたしが一番弱そうってこと? うん、まあ、戦える中だったら、否定はしないけどさぁ。
正直、助けてもらえるのは嬉しいし。
「ヴァージル将軍、ありがとね!」
あれ? 何か、すっごい驚いてるけど……。
「あのさぁ、あたし、何か変なこと言った?」
「……あ、いえ」
将軍ってさ、真面目で優しそうだけど……ちょっと変わった人なのかな?
チラッと見上げた視界の隅で、何か動いた。同時に、あたしの体も勝手に動く。
「夜空に瞬く、星のごとくぅ!」
とりあえず一人!
吹っ飛んで、地面に倒れて、動かないのをちゃんと確かめて。あたしは次を探す。
ただ、奥義はあんま使えないんだよね。やっぱ、消耗するし。起きて寝るまで、十回使えたらいい方。
キン、って剣戟が聞こえて見たら、将軍が戦ってた。
うっわ、すごい! ちょちょいって槍で受け止めて、ひょいって払ったら、相手がよろめいて。サクッと軽い感じに槍で刺して、もうおしまい。すぐに違う敵の剣を、軽々と受け止めて。
やっぱ、将軍ってだけあるよね! メチャクチャ強いじゃん!
別のとこでは、父さんとかベネットとかリアムとか、ガンガン戦ってる。
うーん、あたしも頑張んなきゃ!
……とか思ってる間に、こっち側はあらかた終わっちゃったみたい。あちこちに敵がゴロゴロ転がってる。味方のケガ人は、僧侶たちが治してるね。
「セイガ隊長、外はほぼ鎮圧しました」
あ、ユウガ兄だ。そっか、外、終わっちゃったんだ。
ユウガ兄は、母さんの息子って顔してる。ホントそっくり。あたしは、どっちかっていうと父さん似。だから並ぶと、ユウガ兄とはあんまり似てない。性格は逆だけどね。
んでもさ、顔の違いがちゃーんとわかるのは、同じセイライ国の人だけ。他の国の人たちは、全然区別がつかないって言うんだよ? ちょっとひどくない?
父親似の女の子って、将来美人になるって言うしさ。あたし、すっごい期待してんのに。
「そうか。被害は出ているか?」
「死者はいません。ケガ人十数名は、現在、僧侶たちが治癒に当たっております」
うわー、ユウガ兄がちゃんと隊長してる! こーゆーとこ見てたから、チオリ姉はユウガ兄と結婚したのかな?
あたしのお兄ちゃんだし、いつも以上にカッコよく見えるもん。