71
「あ、あのさぁ……ここって、騎竜がいるんだよね?」
思い切って聞いてみたら、美人さんがあたしからバッと離れてパァッて感じで笑った。
「竜……見る?」
「見る! 見たい!」
っていうか、竜が見れると思って来たんだし、見なきゃ損じゃん?
「竜……危ない……ヴァージル」
「……私が、ですか?」
「エレン嫌い……邪魔」
相変わらず露骨な言い草なんだけど……美人さんも将軍もエレンさんも、全然気にしてないっぽい。
っていうか、将軍、実は美人さんのこと苦手っしょ? 美人さんも、エレンさんよりはまだ将軍のがいい、って程度じゃないの?
「あら、奇遇ね。私もジリアンが嫌いだし、邪魔だと思ってるの。だからユノ嬢は、私が責任を持って運ぶわ。だいたい、ヴァージルに任せられると思って?」
「ダメ……ヴァージル」
「じゃあ、ユノ嬢に決めてもらえば?」
へっ? 何でいきなりあたしに選択権が? っていうか、竜ってそんなに危険……あー、ベネットの竜みたいなのがいっぱいだったら、確かに危ないよね。
あれ? でも、エレンさん、運ぶとか言わなかった? どういうこと?
「あたし、一人で行っちゃダメなの?」
「危ない……ダメ」
「あたしで危ないと、美人さんも危なくない?」
「大丈夫……ユノ危ない……ダメ」
むー。危ないの、あたしだけ? 何で?
「ユノ嬢、騎竜になっていない幼い竜は、小さなものを見ると食べ物だと思っちゃうの。ユノ嬢は間違いなく、確実に食料と間違われるから、私が近くまで運ぶわ」
「ダメ……エレン強い……わたし強い……ヴァージル」
……あ。今、美人さんが何言いたいか、何となくわかった気がする……気がするけど……それ、そんなにはっきり言っちゃっていいの?
「まあ、仕方ないわね。槍を取ってくるから、少し待ってて」
あっという間にエレンさんがドナに乗って、槍を握り締めてヒラッと下りてきた。軽々と乗り降りしてるけどさぁ……竜って、結構おっきいよね? 手綱あっても、あたしだとだいぶ苦労しそうなんだけど。
しかも、鎧着てるし、槍持ってたら、もっと大変だと思うんだけどね。
「……ってか、槍?」
武器持ってくの? 何で?
「万一襲われた時は、これで威嚇するのよ」
「竜……エレン怖い……槍……必要」
「そうなんだ……さっすがエレンさん……」
子供っていっても、竜だよ? それが怖がるって……。
「では、失礼します」
「へ? ……わわっ!」
すごい! 将軍、あたしを片手でひょいって持ち上げたよ! しかも、体も使ってるけど、左腕にあたし乗っけてちゃんと支えてる!
割としっかりしてるけど、グラグラして落ちたら嫌だから、将軍の肩に右手でしっかりつかまって……っと。
今日の将軍は、いつもの隙のない鎧じゃなくって、胸と肩と腰だけ守る形の、ちょっと軽い鎧着てるんだよ。エレンさんと同じ形のやつ。だから、肩当てをギュッとつかんでるわけ。
「うわぁ……」
すっごい、景色が違うよ。いっつも見上げてる将軍の顔、あたしより低いとこにあるし! エレンさんたちも、みんな見下ろせちゃう!
「ああ、それなら確かに、ユノ嬢は襲われないわ」
「そうなの? 何か、すっごい背が高くなった気分!」
見晴らしいいね! 将軍とかイハル兄って、いっつもこんな感じに見えてるんだよね? いいなぁ……。
「……ねえ、ヴァージル。もしユノ嬢を落としたら、あなたをここから突き落とすから」
「ユノ落とす? ……ヴァージル攻撃する」
えっ、二人がそれやったら、将軍が死んじゃわない? ってか、こっから落ちたら、どこまで落ちるの?
そーっと覗いてみようと思ったけど、足元見なくっても、ずいぶん高いとこにいるのはわかった。無理無理、落ちたら絶対死ぬよ、これ。
「私が落とすとでも?」
「だから、もしも、の話でしょ?」
何か、バチッて火花が散ったような……ううん、多分、きっと、あたしの気のせいだよね? うん。
「竜……見る?」
パッて目を逸らした先で美人さんが、こてん、って感じで首を傾げて聞いてきたから、あたしは思いっきりおっきく頷いた。んで、ちょっとバランス崩して、落ちそうになっちゃったよ。
慌てて将軍にしがみついたから、落っこちないで済んだけどね。
「あー、びっくりした。思いっきり頷くの、不安定になるからダメなんだね。そういえば、竜って、しゃべってたら襲ってくる?」
「あまりない……ユノ小さい……可愛い……未知数」
とりあえず、襲われる可能性はそんなにないってことかな? んでも、最後の未知数って、どういうこと?
……ひょっとして、あたしが小さいから、しゃべってるとそこにいるってわかって、餌って認識で襲ってくるかも、ってこと?
「恐らく、私たちのそばにいる間は大丈夫でしょう。絶対に、一人にならないようにしてくださいね?」
「……あのさぁ、竜って、そんだけ危険な生き物なの?」
「危険というよりは、まだ分別がついていない竜ばかりですので、人を襲うことがあるだけです。それでも、より恐ろしい存在には刃向かわないので……ああ、危険を感じたら、エレンかジリアンのそばに行けば問題ないでしょう」
そこで将軍じゃなくって、エレンさんと美人さんって辺りが、もう……。
宮廷騎士団の団長なのに、何か情けないよね、将軍って。




