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「……わざわざ陛下に問わずとも、こちらの言い分が正しいとおっしゃってくださる。悪いのは、そちらだ」

「うっわ、メッチャ頭悪っ」

 あ……思わず言っちゃった。

 将軍が、頭痛を堪えるみたいに、額に指先をギュッと当ててる。母さんは苦笑い。父さんは、後ろ向いて絶対笑ってる。肩がメッチャ、プルプル震えてるし。

「……わかった。この失礼な小娘一人で、今回の件は不問にするとしよう!」

 お貴族様がそう言って、あたしの腕をつかんだ。瞬間に、将軍があたしを後ろからギュッと抱き締めて、母さんがお貴族様の腕をスパーンって弾き飛ばした。

 母さん、怖い。ホント怖い。

 だって、お貴族様の腕、すっぽ抜けそうな勢いで吹っ飛んだんだけど……。あれ、腕か肩が抜けてない?

「この子の向かう先は、この子自身が決めることよ。あなたが勝手に決めていい話じゃないの」

 ……へぇ。マーハルニーファのお貴族様の娘にはケンカ売るけど、メアンラーエのお貴族様にはしないんだ? それとも、ホントに戦争になるとまずいから? こっちから攻め込む宣言は、やっぱできないよね。

「ああ、やっぱりアリスティドだ」

 ひやっとした。すっごい冷ややかなリアムの声で、その辺の空気がみんな、パキンって凍った気がする。

「十年ぶりかな? あれだけやっても、十年で戻ってこれちゃうんだね」

 ……あ、ひょっとして、リアムが再起不能にしたお貴族様って……あーあ、本気でかわいそー……とは思えないね。自業自得。

「国境線が変わったことは、私は覚えているよ? でも君は、忘れてしまったのかな? ああでも、俺のことも忘れてしまったみたいだから、しょうがないね」

「……えっと、あのさ、多分、覚えてると思うよ? あのお貴族様、メッチャガタガタ震えてるし」

 あたしも、寒くないのにガタガタしてるけどね。

「ああ、そう? まあ、覚えてても覚えてなくてもかまわないけど。今度は三十年くらい、大人しく引っ込んでてもらおうかな。もう目障りすぎて、二度と会いたくないし」

 本気だ。リアム、メッチャ本気だ!

「というわけで、できればみなさん、少し遠くに行っていてもらえますか?」

 ニッコリ笑ってるけど、ひんやりしてる。

 父さんが真っ先に動き出した。母さんも、グレースを引っ張るイハル(にぃ)も、リディを促すおじさんも、みんな逃げるように。将軍も、あたしをつかまえたまま、ゆっくり下がってく。

 何してるのかはわかるけど、何を話してるのかはわかんない。声も、すっごい大声じゃないと聞こえない。そのくらい離れて、あたしたちはリアムを見守ってた。

 最初は、お貴族様も、ちょっとは強気だった。んでも、あっという間に顔がググッと歪んで、すぐに半泣きになって、とうとう泣き出したよ。しかも、へなへな、って感じで座り込んだ恰好のまま、涙だけダバダバ流してんの……。

 それでもまだ、リアムは動かない。

 父さんは、何でか木にもたれて寝る体勢。もうすぐ夜だってば。帰りどうするの?

「あ……」

 お貴族様、とうとう引きずられて逃げてった。引っ張ってった従者っぽい人たちも、何かものすごいへっぴり腰だったけど。

 でも、まだリアムはこっち向かない。

「……あのリアムを、もう一度怒らせるなんて……あの貴族、人生終わったわね」

「……そーだよねぇ……」

 ボソッと呟いたリディに、思わず頷いちゃったよ。

 だって、自力で逃げ出せないわけでしょ? 完全に腰抜けちゃって、もう自分じゃ動く気力もないって、そんなレベルにされてると思う。

 直撃じゃなくっても、地味にダメージあるみたいだし。

 急にクルッと振り向いたリアムが、すっごいいい笑顔でさぁ……。

「今回は向こうが悪かったと謝っていたので、問題はないでしょう」

 スタスタ歩いてきたリアムに言われて、あたしは顔が引きつったのがわかった。

 で、その、すっごいいい笑顔のリアムが、こっち来るんだけど……逃げていい? 正直、将軍が腕、解いてくれたらすぐ逃げたい。

「ヴァージル将軍……権限を持っているなら、しっかりしてくれないと困るんです。ユノちゃんの危機に、守りに入るだけだなんて……そんなことは、セイガ隊長にでも任せておけばいいじゃないですか」

 うっわ……リアムが怒ってる。

「それにしても、慣れないことをするとストレスがたまるね。明日は朝から、エレンちゃんの空中散歩につき合わせてもらおうかな」

 ……へ?

「ねえねえ、ドナで空中散歩って、ストレス解消になんの? つーか、リアム、何でエレンさんとそんな仲良くなってるわけ?」

「ん? ほら、祝賀会でちょっと……ね。そのお礼にって、一度乗せてもらったんだけど、気分がいいよね。何だか、空を支配したみたいな気持ちになって」

 あー、うん、リアムはリアムだよね。

 まさか、あの空中散歩で、空の支配者気分になれるなんて。

「だから私は、権力を持っている人間がきっちりできないのが、とにかく嫌いなんだよね。ヴァージル将軍は、自分が何を持っていて、何が足りないのか。少し考えたらいいと思いますよ?」

 やっぱまだ怒ってるっぽい?

 んー、違うかな? 呆れてる感じが、するかも。

「そうします」

 きっぱりと、将軍が言い切った。

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