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宿舎の階段を駆け下りて、外に飛び出す。
中庭に向かって走ってたら、向こうから将軍が走ってきた。
「あ、ユノさん、ちょうどいいところに! 申し訳ありませんが、セイガ隊長に、至急会議室へ向かうよう、伝えていただけませんか?」
「へ? うん、いいけど……」
「では、お願いします」
軽く頭を下げて、将軍はあっという間にどこかへ行っちゃった。
「……何か、あったのかなぁ?」
せっかく意気込んでいって空振りしたことより、何か問題が起きたっぽいことの方が、断然気になるんだけど。
とりあえず、父さんに伝えなきゃ!
あたしは来た道を戻って、一階にある父さんの部屋に飛び込んだ。うん、ドア叩くの忘れたあたしが悪いの、わかってるけどさぁ。
「……父さん、宿舎っていってもさ、女の子もいるんだし、やっぱ下着は履いた方がいいんじゃない?」
いくら部屋の中とはいえ、さぁ……。
「ノックもせずに入ってくるのは、お前くらいだからな。別にかまわんだろ」
「じゃあさぁ、せめてカーテン引いたら? 外から丸見えじゃん?」
「おお、そっちは盲点だった。しかし、暑い時期に窓が開けれんのは困るな……」
……ホント、こんな人が傭兵隊の隊長って、やっぱ何か間違ってるよね。剣、部屋の隅っこで、すぐに手が届かないとこだし。
って、あーっ!
「そうだ、父さん! 将軍が、急いで会議室に来て、だって」
「わかった」
言うが早いか、父さんはチュニックを手に取った。
待って、そこは下着からじゃないの? まず上から着るもんなの?
「……あたし、部屋に戻ってるから」
父さんの着替えなんて、さすがに見る趣味ないしね。
‡
昼間、父さんが呼び出されたのってさ、結構面倒くさいみたい。
父さん、母さん、リアムとあたしに、グレースとイハル兄。将軍とおじさんと、それからリディ。リアム以外は、馬に二人乗り。あたしは将軍と、リディはおじさんと。
リディは、自由自在なお色気が、確かにすっごい武器だけど……あれ、味方にも被害でるし。あたしはともかく、グレースが無力化するから、正直、使い道ないじゃん? 何でリディも?
もう夕方で暗くなってたけど、近くに来たら、行き先はすぐわかった。だって、怒鳴り合ってる声がするし。
実はマーハルニーファとメアンラーエは、王女様のお父さんの頃に、お互いに国境を越えない、って約束をしたんだって。もし越えた人間がいたら、何してもいいよ、って、とんでもない約束もついてるんだって。
で、今回はそれが問題になってる。
メアンラーエ側は、お貴族様。こっちはただの庶民。
そんでもって、お貴族様は庶民が国境を越えたって言い張ってて。庶民たちは、国境を越えたのはあっちって主張。
もめにもめて、王女様に助けを求めたんだって。
「お前ら平民じゃ話にならん! まともな人間を出せ!」
「では、私がお話を伺おうかしら?」
ニッコリ笑って、母さんが出てくし……。
「いや、ここは俺が」
ホントもう、父さんまで一緒になって、何やってんの?
「お二人とも、この場は私に一任されているはずですが……」
「あー、多分、父さんと母さんは遊んでるだけだから。気にしないで、将軍が話進めちゃって」
あの顔、本気で遊んでるだけっぽい。
そういえば、父さんも母さんも、メアンラーエのお貴族様って、マーハルニーファのお貴族様より嫌いだったっけ。
「マーハルニーファ宮廷騎士団の団長を務めております、ヴァージル・カルヴァートと申します。そちらで、話の通じる方はいらっしゃいますか?」
……さりげなく、嫌味だったりする? それとも、お貴族様だと普通の会話なの?
「やっとまともな貴族が出てきたか」
なーんか、すっごい偉そうな態度の男。見た感じ、将軍とそんな変わんない年かな?
あれ? そーいや、リアムも来てたよね? さっきから全然しゃべってないけど。
何となく気になって振り返ってみたら、メッチャ怖い顔してた……空気だけで、人がピシッと凍りそうなくらい。
ひょっとして、向こうのお貴族様って、リアムと因縁あるの? うっわ、かわいそー……。
ついでにグルッと見回してみたら、リディがいなかった。
どこ行ったのかと思ったけど、単に、リディの前におじさんが立ってて見えないだけだったっぽい。
グレースも、イハル兄の後ろにちゃんと隠れてるし。
「国境を越えたやつは、殺そうが何しようが関係ないんだろ? さっさとそこのうるさい平民どもを引き渡せ」
「お断りします。こちらで国境線を確認したところ、そちらの主張する国境とは食い違うことが判明しました。まずは、こちらをご覧ください」
父さんが紙を広げる。あ、あれって地図なんだ。何か、いろいろゴチャゴチャ書いてあるけど。
「まず、あなたが主張する国境はここ……これは、不可侵協定を結ぶ以前のものです。協定を結んだ際、国境をはっきりさせようと、地図にて明確に定義されました。それがこちらの線です」
横からひょいっと覗き込んでみたけど、ふたつの線は微妙に位置が違う。片っぽはつながった線で、もう一本は途切れ途切れ。んで、つながってる方だと、確かにあたしたちのいる場所はメアンラーエになる。でも、途切れ途切れの線だと、逆にあっちのお貴族様たちがマーハルニーファに入っちゃってる。
二本の距離は、ホントに微妙なんだけどね。
「疑問があるようでしたら、そちらの王へ問い合わせてください」
ビシッと将軍が言い放って、話は終了、って感じ。




