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「そういやさぁ、リディって、エスコートしてたおじさんを知ってたんでしょ?」

 たった今、フッと思い出したんだよね。そういえば、リディにどんな知り合いなのか、聞いてみようって思ってたこと。

 おじさんは聞いても、いっつもはぐらかすんだよ? しかも、変な方向に話題をすり替えちゃうわけ。

 まあ、リディがそうしないって保証はないけど。

「おじさんって……ジャレッドさんのこと? まあ、ユノから見たらおじさんよね」

 リディはクスクス笑う。

「ああ見えて、三十を二つばかり過ぎたところだそうよ。あたしが覚えてるのが、ヴァージル将軍くらいだったから……そのくらいよね」

 えー? 将軍って、確か二十三でしょ? リディの話が十年前として、急に老け込んだってこと? それとも、マーハルニーファとかじゃ、それで当たり前なの?

 ってか、三十二だと、ユウガ兄(にぃ)よりちょこっと年上なだけじゃん。

 ……あ。

「攻め込まれて、生き残ったから?」

 思わず呟いちゃった。

 いっぱい苦労したから、一気に老け込んじゃったってこと……だよね?

「正確には、前の騎士団長に、生き残れと命令されたそうよ。団長に後進を導け、と厳命されてしまったら、騎士(エクエス)は従うしかないんですって」

「……そうだよねぇ」

 あたしだって、父さんに命令されたら、嫌でも従うしかないもん。それが、集団で動く傭兵の、絶対の掟だから。

 みんなが好き勝手に動いて、隊長の命令を聞かないんだったら、バラバラで動けばいい。統率を取るなら、命令は絶対に守るもの。

「でさぁ、リディとはどこで会ったの?」

「あんたって子は、しんみりとさせてもくれないのね。……まあいいわ。あたしが八歳くらいだったかしら……運悪く、機嫌の悪かった貴族と目が合っちゃったのよ。従者に引っ張り出されて、理由もなく殴られて……死を、覚悟したわ」

 ひどい。

 お貴族様なんて、やっぱり嫌いだよ。

 そういうひどいこと、平気でしていいって思ってるんでしょ? やりたいなら、戦場に行けばいいじゃん。あそこなら、何を使って、どれだけ人を殺したって、勝利のためって大義名分に許されるんだから。

 たとえ、人間としては、もう救いようがないとしてもね。

「まあ、顔は頑張って守ってみたけど、諦めかけたところで、いきなり痛みがなくなったのよ。飽きたのかと思ったら、ジャレッドさんがあたしに覆い被さって、守ってくれてたの」

 おじさんって、本物の騎士様なんだね。

 年が近かったら、そこから始まる恋のお話、とか、物語じゃなくってもホントにありそうだけど……リディとはいえ、十歳以上も年が離れてたら、さすがに無理かな?

「その貴族とずいぶんもめたそうだけど……ヴァージル将軍のお父様が出て、話を丸く収めたらしいわ。貴族には、さらに上の立場の人間をぶつけると、話が早いそうよ」

「あー、立派な立場があるなら使うべき、って、将軍も言ってたっけ」

 あたしは使いたくないけど。

「ケガの手当てをしてもらって、孤児院に送ってもらって、それっきりだったんだけど……顔を見たら思い出したのよ。雰囲気っていうの? あんまり変わってなくて、すぐにわかったわ」

 んー? ってことは、おじさんも、リディがすぐわかったってことだよね?

「八歳のリディって想像できないんだけどさぁ……リディのことだし、ずいぶん変わったんじゃない? それでも、わかるもん?」

「そりゃあ、あんたに比べたら、誰でも大きく変わると思うわ」

 ひどっ。確かにあたしは、イハル兄にも、まったく変わってないとか言われたけど。でも、十年前からしたら、背も伸びたし、ほんのちょこっと、女の子っぽくなったんだよ?

 いくら何でも、もう、男の子と間違われないもん!

「でも、ジャレッドさんはわかったみたいね。いきなり、十年前よりずっと綺麗になりましたね、見違えました、なんて言われたら、誰だって動揺するでしょ?」

 へぇ……おじさん、そんなこと言ったんだ? で、リディってば、照れたんだ?

 だけど、リディだから通用する言葉だよね。そりゃあ、八歳のリディも、綺麗な子だったと思うよ? お貴族様がグルッと見回して、パッと目につくくらいにさ。

 その分、やっぱりすっごく変わったと思うんだよね。背も伸びるし、体型だって変わるし。顔も、言われてみれば何となく面影があるなぁ、って勢いで変わっちゃう人もいるし。

 ……それを見抜くおじさんって、実はすごいんじゃないの?

「そういうあんたは、ヴァージル将軍とケンカしたって?」

「へっ? ……って、何でリディがそんなこと……」

 だって、おじさんは多分、まだあの時は知らないはず。他に知ってそうな人って……。

「あ、あの……ケンカは、よくないと思いますから、早く仲直りをした方がいいと思います。私、ニコニコしているユノさんが、大好きです」

「……今のあたし、笑ってない?」

「笑いますが、あまり楽しそうではありません」

 グレースって、言う時は言うよね。

 あー、そうだよね。だって、自分の力が怖くて、戦場に出ない選択肢を実行し続けたんだもん。すっごく強い心を持ってて、だから、言いにくいこともズバッと言えちゃうんだよね。

 今のあたしには、そんなグレースが、かなりありがたいかも。

 それに、情報源だって、将軍でもおじさんでもなかったら、イハル兄かエレンさん辺りだろうし。

「ケンカっていうか、あたしが八つ当たりしたの。悪いのはあたしだって、わかってるけど……どんな言葉で謝ったらいいか、わかんないんだよね」

 大っ嫌い。

 それは嘘だって、嫌いじゃないって、はっきり言える。でも、じゃあ、どう思ってるのかって聞かれると。

 正直わからない。

 多分、将軍に母さんが正しいって言われたんじゃなかったら、こんなに気にならなかったと思う。ふーん、って流しておしまい。

 引っかかって、突っかかったのは、何でなのかな?

 その答えが出てないけど、ただ「ごめんなさい」って、心から謝ったらいいのかな?

「ユノさんが悪いことをしたと思っているのでしたら、思い切って謝るべきと思います」

「そうよねぇ……エレンさんは、面白いことになっているから楽しみたい、とか言ってたけど、長引けば長引くほど、謝りにくくなるわよ?」

 グレースとリディが、あたしの背中をドン、と思いっきり突き飛ばした。そんな気分がして。

「よし、今から行ってみる!」

 とりあえず、八つ当たりしたことは謝る。で、理由はわかんないから、わかんないって言えば、多分オッケーでしょ。

 善は急げ、って言うし、あたしはそのまま、部屋を飛び出した。

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