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おじさんにはああ言ったけど、決心ってなかなか固まらないね。
もう、三日経っちゃった。
暇なのか、それともわかってんのか知らないけど、あたしがフラッと散歩に出ると、いっつもおじさんがいる。でも、何にも言わない。ただニコニコ笑って、他愛のない話をしたりする。
「そういえば、ユノさんは、リアムという青年を知っているかな?」
……エレンさんだけじゃなくって、おじさんも? リアム、大人気だね。
「知ってるよ、同じ隊だし。ってか、エレンさんにも前に聞かれたけど、おじさんもリアムに興味あるの?」
「ほら、先日の祝賀会で、どうやら貴族相手にきつい啖呵を切ったと聞いたのでね。どんな青年なのか、興味を引かれない理由はないだろう?」
おじさんってさ、エレンさんとか将軍っぽいしゃべり方なのかと思ってたけど、慣れてきたら違ってた。
まあ、騎士様だって、みんな好き勝手しゃべるわけだし、そうだよね。
……ってか、リアム、何やってんの?
「それは多分、リアムに啖呵切らせた方が悪いよ。リアムは怒ったら死にたくなるくらい怖いらしいけど、怒らせなきゃ、解放軍で旦那様にしたいナンバーワンだもん」
正直、何言ったらそこまで怒らせるのか、知りたいけどね。
だって、あたしにすら、敵にならなきゃ何もしないって言う人だよ? 敵に回すの、どうやったらできるんだろ? って、気になるっしょ?
「んでも、お貴族様なら、世間的な抹殺はないと思うから……精神的に再起不能になるくらい、ボロボロにされたくらいじゃない?」
「何でも、エレンより恐ろしいと評判になっているようでね」
「今さら? あたしは絶対、リアムはエレンさんよりえげつないって思ってたよ? ってかさぁ、ホント、何言ったわけ?」
まあ、おじさんが詳細を知らないって可能性もあるけど。でも、あたしに話を振ってくる時は、ちゃんといろいろ知ってる時。
それは、この三日でよくわかった。
「エレンにちょっかいをかけた貴族に、一切手を出さず、言葉だけで叩きのめしたと聞いたかな。もっとも、その貴族も、昔からエレンにちょっかいをかけてはすげなくあしらわれているのだから、いい加減諦めてもいいのにねぇ」
「あー……リアムって、あれで結構、女の子には優しいからね」
ただし、あくまで、自分より年下の、完全独り身の女の子限定。相手のいる子は、その相手にしっかり庇ってもらうべき、っていう信念なんだって。
そういう意味では、グレースはもう手を離れてるって認識だろーね。
「っていうか、たくましいお貴族様だね。あのエレンさんに、何度も向かってくなんて。根性だけは買ってもいいんじゃない?」
「いやいや、それが、ひと言でバッサリ切られては、その場でいつまでもいじけている情けない男でね。それならまだ、ヴァージルの方がマシと、エレンが言うくらいにはダメな男らしいよ」
「……ってか、あれだけ仲の悪い将軍のがマシだなんて、そのお貴族様ってどんだけひどいの?」
ちょっとだけ、見てみたくなるじゃん? 怖いもの見たさってやつでさ。
そりゃあ、エレンさんって、相手の顔に流されたりしないし、ちょっとカッコ悪いとこ見せたら即幻滅しそうな人だけど。でも、評価するとこはきちっと評価してると思うんだよね。
じゃなかったら、ベネットは、竜騎士の心得を叫ばれるんじゃなくって、存在そのものをバッサリ無視されてるはず。
大事な竜が拾い食いして具合悪くなるなんて、エレンさんにとっては、本気で最低な行為だと思うし。騎竜を剥奪、とか言い出してもおかしくないじゃん?
いろいろ考えてたら、おじさんがいきなりプッて噴き出した。
「ははっ、いやいや、失礼したね。いや、エレンやヴァージルが、考えていることがすべて顔に出ると言っていたが、ここまでとは」
ちょっ……エレンさんだけじゃなくって、将軍まで? ってことはだよ? いっつも一緒に訓練してた騎士様たちにも、そう思われてる可能性大ってことだよね?
あーもう! この時間に中庭なんて、ますます行けないじゃん!
「この間、ドレスとか見せてもらった時も、エレンさんやリディに、顔に全部出てるって言われたのに……」
ちなみにグレースは、口を挟めなかっただけらしい。
グレースって、ホント優しいよね。とにかく言葉を選びに選んで、最終的に「ユノさんを見ているだけで、楽しかったので」だったんだから。
「騎士団は、笑顔できつい嫌味を言う、貴族の不条理な文句に慣れているからね。ユノさんのように、感情に裏表のない人といると、癒やされると思うよ」
「んー……あのお祝いも、面倒くさそうだったもんね。早々に絡まれて、将軍置いて帰りたくなったもん」
あの時、実行してればよかったのかな。
そしたら、大っ嫌い、なんて言わなくて済んだかもしれないのに。
「ああ、あれは仕方がないよ。何しろヴァージルは、戦争で棚上げしているとはいえ、カルヴァートの名を継ぐ者だからね。代々優秀な騎士を何人も輩出する家の、本家の跡取りだ。狙わない貴族はいないだろうね」
……ふーん。
お貴族様の世界って、ホント面倒くさいよね。エレンさんとか将軍って、すっかりなじんじゃってるから、全然気にならないんだろうけど。
「アルヴィンは……もうほぼ決定だな。陛下が庶子であることで、元々選択肢は少ない。だが、陛下はアルヴィンを望んでいる。これに異を唱えているごく少数さえ、素直に頷けばいいものを」
そっか。王女様、アルヴィン様とちゃんと結婚できるんだ。よかったよね。
まあ、まだ、エレンさんが言ってた障害ってのは、いくつか残ってるみたいだけど。
「あとはエレンとヴァージルさえ片づけば、私も思い残すことなく引退できるんだがね」
「んー、将軍はともかく、エレンさんは無理っぽくない? だって、あたしやグレースを口説きにかかる人だよ?」
前に、グレースに公開プロポーズしたって話は、ちゃんと騎士様から裏を取ったよ。ホントだって。
そんな人が結婚って……あり得ないでしょ?
「……なるほど。あの二人は、意地でも私を引退させたくないようだね」
「そりゃあ、今は貴重な指導者っしょ? 簡単に引退されて隠居でもされちゃ、困るんじゃない?」
「昔から少々変わっているエレンはともかくとして。ヴァージルは、ちっとも本懐を遂げる気にならないようだしね」
「へ? 将軍って、本気出したらやり遂げる人じゃないの? 腹が決まったら、なるようになるでしょ」
ただ、本気出すまで、ちょこっと時間がかかるってだけじゃない?
「祝賀会ですら本気を出せん男が、いつになったら腹をくくるやら」
意地の悪そうな、ニヤッとした笑みが、おじさんの口元に浮かんだ。
……あたしさ、ちょっと思うんだけど。エレンさんのあの性格って、実はこのおじさんを見習ったんじゃ……。だって、やけに似てるっていうか、雰囲気そっくりだし。




