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「おい、ユノ!」
「ふぇっ!?」
な、なーんだ、イハル兄かぁ。いきなりおっきい声出して、びっくりさせないでよ!
しかも、何か顔怖いし。
「何? 何かあった?」
「お前と俺は、仲がいいのか?」
「はぁ?」
何それ。つーか、何で今、そんなこと聞かれなきゃいけないわけ?
……ははーん、グレースかぁ。
でもさぁ。自覚してなくってその質問をぶつけるって、なかなか高度だよね! グレースって、ひょっとして、すっごい天然だったりする?
イハル兄がメッチャ怖い目で見てくるから、ついついニヤッてしちゃったんだろうなぁ。
「ってかさぁ、トウガ兄といっつもつるんでて、うちで毎日ご飯食べてて、お兄ちゃんたちとお風呂まで入って騒いで、ひどい時はうちで雑魚寝してたイハル兄と、あたしの仲が悪かったら、それこそおかしいじゃん?」
だいたい、それ言ったら、母さんとも仲良しって言われなきゃおかしいっしょ。
「そもそも、あたしだけじゃなくって、母さんとかエレンさんとか、リディとか、他にもいっぱいいるじゃん?」
「ああ、そうだ。お前だけじゃなくて、マノさんもエレンも、王女殿下も、よりによってリディも、一緒くただった」
お姉ちゃんたちとグレースが接触してないだけ、まだマシだって。特にカノ姉。中身はともかく、外面だけは完璧だからね。
中身も完璧のグレースには、やっぱ負けるだろうけど。
「別にいーじゃん。どーせイハル兄、全員気の強い女で好かん、とか言ったんでしょ? グレースにはちゃんと伝わるし、そんでよくない?」
「いいわけあるか!」
「えー? 印象最悪、マイナススタートってわけじゃないしさぁ。あたしが見るに、自覚してないだけで、グレースはイハル兄のこと、好きだと思うけど?」
うっわ、見事な仏頂面!
ってか、認めたね。イハル兄、グレースが好きなこと、認めたね? そうなると、ちょっと落ち込ませてみたいよね、ねっ?
「んでも、あたしもグレースに大好きって言われたから、どのくらいかは知らないけど」
「お前なら別にいい。どうせ愛玩動物的なものだろう?」
「まあ、そんな感じだよね。一緒にいて元気になれそう、って言われたし」
落ち込んでて、浮上したい時は最適だけどさ。ゆっくりしたい時にはメッチャ不向き。それがあたし!
っていうか、イハル兄への攻撃にもなんなかったみたい。
「あ、そーいえば、イハル兄もよくモテてたけどスルーで、将軍も、どっちかってーとそうだよね?」
この間、街に行った時にそんな感じだったし。
「私服でもわかるくらい、顔が知られてるって、ちょっと大変そうだよねー」
あー、でも、そんくらいじゃないと、やっぱ慣れないのかなぁ。
イハル兄も将軍も、興味ないことへのお誘いのあしらい、上手そうだもんね。
「意外と、将軍一人で行った方が、情報とかいろいろもらえるかも? 見た目で二十過ぎた男の人とあたしがいると、いろいろ変な疑惑かけられたりすんだよねー。悪い意味で目立つし」
「ああ……人身売買か、変態か、悪趣味か……他にもなかったか?」
「なーんかあったと思うけど、ありすぎて覚えてないっていうか。だいたい、そんなとこだったし」
いつだったか、イハル兄が警備の人に声かけられて、人身売買疑われてたっけ。セイライ国じゃなかったから、あたしが「うんと年の離れた、あたしの一番上のお兄ちゃんなんだけど!」って言い張って、何とかなったけど。
父さんと母さん、あの頃にはもう、メッチャ有名だったなー。母さんの美人っぷりと、イハル兄がカッコイイってのも、多分ある。
ってか、セイライ国なら別に何も言われないか。ある意味、イハル兄は有名だし。
えーっと、イハル兄が一緒によその国行ってるなら、あたしがまだ本格的に傭兵してない頃かな? 偵察とかに、一緒にくっついていっただけってやつかも。
……あれ? もし、もしもだよ? 偵察だったら、目立っちゃダメなのに、あたしってメッチャ邪魔じゃん?
「ってかさ、何であたしが一緒だったわけ? イハル兄がいた頃って、あたしまだ傭兵してないじゃん?」
「子守だ、子守。シノさんとカノに押しつけられてな」
「……うっわ、ゴメン。お姉ちゃんたちがゴメン」
とりあえず、偵察じゃなかったみたいでよかった。イハル兄には悪いけど、ホントよかった。
「そういえば、人身売買と間違われた時、お前がセイガさんとマノさんの名前を出したものだから、マノさんが先につかまって確認取られたんだぞ。まあ、マノさんでよかったがな」
ああ、うん、わかる。
母さんだから、絶対、「この子はうちの長男よ! こんなに美少年なんだもの!」って主張したに決まってる。で、あたしも「似てなくてもお兄ちゃんだもん!」で援護射撃して。イハル兄は無言。多分、きっと、何にもしゃべってない。
「それってさ、最後は、あたしと母さんがうるさいから解放してくれた、ってオチ?」
「よくわかったな」
「さすがにわかるよ! ってか、あたしじゃなくっても、あたしと母さんを知ってる人だったら、今のは確実にわかるっしょ」
リディはもちろん、グレースだってわかりそうじゃん?
あれ? そーいえば、イハル兄がここにいて、じゃあ、グレースは? 今、何やってんの?
「ねね、イハル兄。グレースはどうしてんの?」
「ああ、今は寝ているから、リディに少し任せてきた」
「そっか……寝れたんだね」
全然寝てない顔色で、フラフラ歩いてたもんね。
よかった。ホント、よかった。
「自分なりの戦い方を考えると言っていたな」
「ふーん。じゃあ、無理して悩みすぎないように、気をつけとくね」
「リディにも言っておいたが、お前も頼む」
「任せといて! あたしもグレース、大好きだから!」
イハル兄は、「一緒にするな」とか言わなかった。ただ、ちょこっと笑って、スタスタ帰っていった。
「……あ、将軍、見回りの時間、大丈夫?」
今の今まで、すっかり忘れてたけど。将軍がいるってことも、うっかり忘れかけてたけど。
「かまいませんよ。たまには少し時間が違う方が、油断も大きいでしょうから」
「……将軍ってさ、たまーに言うことがエレンさんだよね」
あ、しまった。また禁句言っちゃったかも。
恐る恐る見上げてみたけど、今日の将軍は笑ってた。何ていうか、逆に薄気味悪いくらい、爽やかでいい笑顔してんだけど。
何? 何なの? 明日は、お天気雨さんでも降るの?
あ、お天気雨さんって、太陽が出てて、青空が広がってんのに、バシャーッと降る雨のこと。あれ、前触れも何もないくせに、結構思いっきり降ってくれるからさぁ。いっつもずぶ濡れになるんだよね。
この辺で、ねぼすけ雪さんはもう降らないだろうし。あるなら、多分お天気雨さん。
「よくも悪くも、エレンとは、あなたとイハル隊長のような関係ですからね。嫌でも、似ているとは思いますよ」
あー、やっぱ嫌なんだ。んでも、なーんか、将軍がまぁるくなったよね。
何となくだけど、そんな気がする。
丸くなったっていうか、吹っ切れた? そんな感じ。




