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 あたしは、王都であったことに関して、口をつぐんだ。一緒に行った人たちも、みんな話さなかったみたい。

 多分将軍も、必要最低限の報告しか、してない。

 だから、王女様もエレンさんも、何でグレースの様子がおかしいのか、知らなかったっぽくて。

「ねえ、ユノ嬢。グレース嬢に、何かあったのですか?」

 久しぶりに、ドナに乗って来たエレンさんに、開口一番言われた。

「……聞いて、ないの?」

「王都での被害状況などは、ヴァージル将軍から聞いていますよ。でも、グレース嬢の異変は、それでは説明できないでしょう? オーレリア様も、心配されているんです」

「ってかさ、グレースに、何言ったの?」

 とことん笑わないけど、当たり障りのないこととか……正直、王都でのことに関連しない話なら、グレースは普通に話せるはず。

 様子がおかしいって思われるなら、話題はグッと限られてる。

「敵にとって、文字どおり最後の砦となる、城塞都市シャラガラを攻める方法に関してなんですが……」

 うっわ、それ、今のグレースにはヤバい。メッチャ地雷。

 んでも、グレースのあれに関しては、あたしに話す権利はないかな? グレースか、イハル(にぃ)からじゃなきゃ、ダメだよ。

「……ゴメン、エレンさん。それは、あたしからは言えない」

 いくら口から先に生まれたあたしでも、それは無理。

 あたしがしゃべらないから、エレンさんも無駄だってことはわかったみたい。

「では、今日はこれで失礼しますね」

 寂しそうに笑って、エレンさんはドナに乗って、颯爽と帰っていった。

 ホント、相変わらず、下手な騎士(エクエス)様よりカッコイイよね。

 それにしても、確かに元々、ちょっと沈んでたけどさ。なーんか、もっと気分が落ち込んじゃった。

 もちろん、シャラガラが最後だって、あたしもわかってる。

 竜騎士(ウォラーレ)たちが、交代で毎日様子を見に行ってて、ベネットが行った時はいろいろ教えてくれるから。

 続々と帝国兵が集まってて、武器も運び込まれてて。城壁とか城門は、補強してるんだってさ。

 圧倒的な力のある魔道士(プラエカンタートル)は、攻めるには必須。そのくらい、あたしにもわかる。

 地上から攻めるなら、エミールでいい。門を破って、撃てるだけ、風の上級魔法、撃っとけばいいっしょ。

 でも、グレースに打診ってことは、竜騎士に同乗して上から攻めるってこと。(いかずち)の魔法は、敵と距離があっても威力がほとんど変わんないから。

 風と炎は、距離でだいぶ違うっぽいんだよね。至近距離のエミールは、ホント人間凶器って感じ。遠いと、そうでもないんだけどね。

 あーあ。どっか近くの街にでも行って、息抜きしてこよっかな。どーせなら、グレースとリディも誘って。うん、そうしよっと。


 善は急げ、ってことで、早速誘いに行ってみた。

「近くの街に、ちょちょっと遊びに行かない?」

 解放軍自体は、毎日少しずつ、シャラガラに移動してる。でも、一気に行かないのは、多分グレースが要になるから。

 待機が長すぎてダレるのを、ある程度防ぎたいんだと思う。

 まあ、今のまんまでも、ちょっとくらい士気が下がるのはしょうがないよね。

「あら、いいわね。あたしもちょうど、息抜きがしたかったの」

 リディはすんなり乗ってきた。んでも、肝心のグレースは、心ここにあらず、って感じ。

「行ってこい。お前も、少し出歩いてきた方がいい」

 グレースの頭をグリグリなでながら、イハル兄が呆れた声で言う。

 なーんか、気遣いたっぷりラブラブオーラ全開って感じで、見てて腹が立つっていうか。イハル兄が薄気味悪いっていうか。

 チラッと見たら、リディもそう思ってるっぽい顔してた。

「あらぁ、でしたらぁ、隊長もご一緒にどぉですかぁ?」

 ニヤッて笑ったリディが言ったとたん、ズン、と背中に何かがのしかかる。あんまり重くって、あたしの膝はガクッと崩れて。

 支えんのが間に合わなくて、顔面からズサーッと地面に突っ込んだ。

「そのはた迷惑な特技は、いい加減使うところをわきまえろ」

 イハル兄が、リディに説教してる。

 もっと言ってやって!

「あ、あの……ユノさんが……」

 グレースは無事っぽいね。つーか、イハル兄、自覚したとたん、グレースだけ助けるわけ?

 そりゃあ、イハル兄はそういう人間だってわかってるけどさぁ……むっかつくー。

 怒りで、あたしはグッと腕をついて、体を起こす。ついでに、勢い余って立ち上がってみたり。

「リディのそれ、ホント慣れないんだけど。だいたいさぁ、まだ若いくせにあれに無反応って、イハル兄、やっぱどっかおかしいよね? っていうか、あれが効かない男って、父さんとイハル兄と将軍と、他に誰がいるわけ?」

 とりあえず、文句を並べなきゃ。

 あ、ついでに、服についた泥、はたき落としとこっと。

「あとさぁ、リディのあれ、やられた時にさ、イハル兄がグレースを助けるのはまあ、当たり前として。ついででいいから、あたしも助けてくんない?」

 服をパタパタして、手で土汚れを叩き落として、あたしは願望を言ってみる。

 叶うなんて、思ってないけどね。

「将軍も効かないなら、年齢関係なく、別におかしくないだろうが」

「そういえば、見回りしてる騎士団とかには軒並み試したけど、あたしの完全勝利よ。あと試せてない異性は、ユノのお兄さんたちと、アルヴィン様くらいかしらね」

 ……アルヴィン様も、動じなさそうだよね。ついでに、お兄ちゃんたちも、多分何ともないと思う。お兄ちゃんたち、いろんな修羅場くぐりすぎてるから。

「だいたい、俺にユノを助ける義理も義務もない」

 それはそうなんだけど! そんなこと言ったら、身も蓋もないじゃん!

「だーから! 義務とかじゃなくって、グレースのついででいいって言ってんじゃん!」

「なぜ俺が、ついでにお前まで助けるんだ?」

「うっわ、もう、ホント、イハル兄ってばケチだよね!」

 ぷくっとほっぺたをふくらませて、口を尖らせて。あたしはぷいっと横を向く。

 向いた先で、どよーんと落ち込んでるふうのグレースが目に入った。

 ……ひょっとして、グレースって、まだ自覚してないわけ?

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