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今、解放軍の陣営がある場所から、竜に乗って空に上がったら、王都が見えるんだって。エレンさんが言ってた。
地上からは残念だけど、森とか、ちょっとした山とかあって、全然見えない。
こっから王都まで、だいたい、歩いて半日くらいかな?
今日の夕方、王都で公開処刑がある。それに間に合わせるために、あたしたちはまだ暗いうちに出発してて。
みんな無言で真剣に歩いたからかな? 昼過ぎには、王都が見えるとこまで着いた。
王都って、攻め込まれる前は、綺麗な街だったんだって。
街を走る石畳の道は、きちっとしてて。マーハルニーファ独特の、赤茶けたレンガ造りの家が、道の両脇にずらっと並んで。おっきな窓が上下に、通りに面してついてて。つんつんした三角屋根は、街によって色が違うらしいけど、王都は青。すっごい綺麗な、目の覚めるような青。
父さんにそう聞いてたから、あたし、ずっと楽しみにしてたんだよね。
まあ、ちょこっとくらいは壊れてるかな、って覚悟はしてた。でも、これはない。
青いはずの屋根は、何か薄汚い。んでも、一応青かったのはわかる。赤茶色の家の壁も、まだ大丈夫。おっきい窓も、ガラスはなくなってるけど、あった場所は何となくわかる。
だけど、どの家も、無傷じゃない。
壁が壊れてるとこ。屋根が半分、落っこちてる家。ひどい家だと、壁が一面、ぜーんぶ崩れてる。
「何これ……ひっどい……」
あたしがボソッと呟くと、隣でリディが頷いた。やっぱりキョロキョロしてたグレースは、イハル兄の服の裾をギュッてつかんでる。
今日だけあたしは、イハル兄の隊に混ざってるんだ。父さんの隊は殿。
何でかっていうと、エミールが興奮して敵に突っ込んでくのを防ぐため。あの子、自分の命も惜しまずに、いきなり敵の真っ只中に入っていったりするからさ。
どんな罠があるかわかんないし、やっぱ、危ないじゃん?
んで、あたしは、いざって時の伝令。ヤバッ、って時に、急いで父さんに伝えにいく係。あ、もちろん、ちゃーんと戦うよ?
ちなみに、街の中は、気持ち悪いくらいしんとしてんだけど。でも、人の気配がたくさんある。
先陣を切ってるのは、将軍率いる騎士団。
王都に詳しいし、最初に助けに行きたいだろうし、まあ、当然だよね。
公開処刑があるっていう広場は、王都のどの門から入っても、真っ直ぐ進んだら着くんだって。
王都の中心なんだね、って将軍に聞いたら、微妙に中心じゃないっぽいこと言われた。ホントのど真ん中にあるのはお城で、広場はその前にあるんだって。
黙々と歩いてたら、ちょこっと広場っぽいのが見えてきた。っていっても、白っぽい道の向こうに、茶色が見えたってだけなんだけど。
ここまで、人の気配はしてても、何も仕掛けてこなかったんだけど……逆に、嫌な感じするよね。
何ていうかさぁ。あたしみたいな単純な人間じゃ思いつかない、えげつない罠がいくつもありそう。そういう感じ、しない?
そんなことを考えてたら、いきなり、カッ、って馬の蹄が強く蹴った音がした。
「戻れ!」
将軍が叫んでる。でも、蹄の音は遠ざかってって。
金属同士が当たった、甲高い音。耳障りだけどよく知ってる、鈍い音。それから、あれ、死にそうな人があげる、苦悶の声だ。
騎士様たちの隙間から、見えちゃったんだよね。広場に、何があるか。
むき出しの地面。そこにドンと突き立てられてる、杭代わりの丸太。その丸太から、ロープが何本かつながってて、その先には、人がいる。
首にロープを結ばれて、丸太とつながれた、人間。
あれってさ、身動きができないようにした捕虜、ってことだよね?
んでもって、矢とか槍が体を突き抜けちゃった、三人の騎士様たちと、馬。
馬は、ちょっと無理。もう、動いてない。でも、騎士様たちは、まだ動いてる。今なら、まだ助けられるかも。
……ああ、これが、罠なんだ。こーゆー、罠なんだ……。
ホント、帝国ってさいってー。こんなひどいこと、人間ができるなんて、あたし……知らなかった。
これに疑問を持たずにやっちゃうやつらが、敵……なんだ。
……なーんか、ガチガチうるさい。
そう思ったけど、あたしの歯が鳴ってる音だった。チラッと見たら、あたしの手、ガタガタ震えてる。そういや、膝もガクガクしてるかも。
動いて、父さんに知らせに行かなきゃ。
頭じゃわかってるけど、体が全然動かない。
「あ……」
グレースの声が聞こえた。
目の隅っこで、淡い緑色がふわっと揺れた気がする。その色は、あっという間にあたしの横を通り過ぎていく。
お、追いかけなきゃ!
あたしが思った瞬間、イハル兄が動いてた。
「グレース!」
グレースの足が広場に入っちゃう前に、イハル兄が追いついて。ちょっと乱暴なくらい、勢いよく、グレースをこっちに引き戻してくれた。
その直後に、グレースがいたとこに、ザクッて音と一緒に矢が刺さってて。
「何をしているんだ!」
イハル兄が怒ってる。
でも、何かさ……グレースが、変。おかしい。
「……とりあえず、この矢を放った敵の居場所はわかりました」
相変わらず可愛い声だけど、感情がないっていうか。ひやっひやに冷えすぎてて、薄気味悪いっていうか。
見た目も声も、人間っぽくない、っていうか。




