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 王女様の天幕を、ちょこっと遅れて出たとたん。

「ねえ、イハルくん。私の長年の夢が叶ったと、思っていい?」

 母さんの声が聞こえた。

 うっわ、イハル兄(にぃ)、つかまっちゃったんだ。

 ……こっそり、ちょこっと、聞いてみよっと。

「残念ですが、違います」

 まあ、そう答えるよね。あたしも何か言われたら、そう言うし。ってか、あたしはホント、縁がないけどね。

「……それは、まだ、という意味? それとも、あり得ないという意味?」

「お好きなように」

 これ、絶対、イハル兄は仏頂面で、母さんがあからさまなため息ついた。絶対そう。

 だって、いっつもあたしの遊び相手見ては、ハァッてため息ついてたもん。

 そりゃあ、ちょこっとは悪かったと思うよ? 男の子はみんな剣の練習相手で、普通に遊ぶのは女の子ばっかだったし。男の子からは、同じ男と思われてたっぽいし。

「私の子たちで夢が実現しそうなのは、もうユノしか残ってないんだけど、あの子はほら、あの調子だし……イハルくんも叶えてくれそうで、この二十年、ずっとずっと楽しみにしてたのよ?」

「ユノがいるなら、いいじゃないですか。俺にまで、期待しないでください」

「だって、可能性は高い方がいいでしょ? えーっと、この子が、たぶんグレースちゃんよね?」

 母さんってば、やっぱ、王女様の天幕で、グレースだって目星つけてニヤニヤしてたんだ……。

「……ユノから、ですか?」

 ちょっ、あたし限定とか、それは濡れ衣! 他にも、母さんにグレースの話した子、いるんだから!

「シーラと、他にもいるわ。イハルくんの最悪なあり得なさと、グレースちゃんの可愛い話は、娘たちからいろいろ聞いてるの」

 ……へ? たちってことは、カノ姉(ねぇ)と、ユウガ兄とトウガ兄? いや、まさか、お兄ちゃんたちが、グレースの話って……あっ、チオリ姉か! あれ? チオリ姉って、解放軍だっけ?

 あーっ、あたしとカノ姉か!

「ところでイハルくん。グレースちゃんを、可愛いと思う?」

「ふぇっ!?」

 母さん、ズバッと聞くなぁ。で、そこで変な声出しちゃうグレースが、可愛いんだけど。

「だって、今まで一度だって、イハルくんが戦場以外の場所で、こんなふうに女の子を連れて歩いたことなんてないじゃない? ああ、もちろん、グレースちゃんが、イハルくん以外の男がほぼダメってことは聞いてるわ。でも」

 あーあ。イハル兄、ヘビに睨まれたカエル状態になってんだろうなぁ……。

「理由はそれだけ?」

「……それを、今ここで話す理由こそ、俺にはないんですが」

「そう? じゃあ、後でユノとシーラを派遣するから、二人と入れ違いで私のとこへいらっしゃい」

「お断りします」

「あなたに決める権利はないわ」

 イハル兄も、ずいぶんビシッと言ったけど。母さんはもっときっぱり、ばっさり言い切ったね。

 あれは、イハル兄の負けかな。

 かっわいそーなイハル兄。

「……そういうところは、ユウガさん以下、ユノ以外の全員がそっくり同じでしたよ」

「ふふっ、お褒めにあずかり光栄ね」

「いいですか? 俺は、全然、これっぽっちも、褒めてません。グレース、行くぞ!」

 んっふふー、って感じで、母さん笑ってるんだろうなぁ。




 夕食の後、あたしとシーラはイハル兄の天幕に行った。げんなりした顔で、イハル兄は、メッチャ渋々って感じで、出てった。

「……イハルさん、大丈夫でしょうか」

 心配そうに、イハル兄が向かった方向を、グレースがジッと見てる。

 あたしが思うに、割とお互いに、って感じだよね? 何か、おっきいきっかけがあったら、ツルッとまとまっちゃいそうな。

 ……まあ、お姉ちゃんたちの受け売りだけど!

「大丈夫、大丈夫。どーせ母さんには勝てないし、適当に話合わせるか、仏頂面でだんまりで時間切れを狙うか、どっちかっしょ」

「あはっ、マノ隊長、剣も心も強いもんね。しかも美人で」

「あ、そうですよね。とてもお綺麗な方で……えっと、その……」

 グレースが言いよどむ。シーラは、横向いて、ちっちゃくプッて噴き出してて。

 言いたいことはわかるし、別に怒んないんだけどなぁ。

「うん、遠慮なく言っていいよ。あたし、母さんじゃなくって、父さんに似てんの。でも、上はみんな母さん似だから、ある意味眼福だよー」

「そうそう。トウガ隊長はまだ独身だから、狙っている子も結構いるんだよ。でも、あれ、見ちゃったら、ねぇ……」

 今度は、あたしが噴き出した。

 ってか、なんでシーラまで、トウガ兄のあれ、知ってんの? まさか、解放軍が結成されてから、どっかでやらかしてたわけ?

「……あれ、ですか?」

 そっか、グレースは知らないんだ。

 じゃあ、やっぱ、どっかでやったんだね。ホント、トウガ兄も困った人だよ。

「何ていうか、何でも放置プレイのイハル兄とは逆バージョン。まめすぎてムカつくレベルで、プレゼントの内容とか、話した内容とか、覚えててくれるんだって。んで、モテすぎてたまに修羅場」

 グレースがぽかーんとしてる。

 うん、まあ、気持ちはわかるよ、うん。あと、想像つかないってのも。

「……イハルさんは、放っておく人なんですか?」

「そ。基本的には、助けておしまい。お礼とか、欲しくないって人だからね。追っかけてきたの、実はグレースが初めてなんだよ?」

 しかも、かなーり強い魔道士(プラエカンタートル)っぽいし。芯はしっかりしてるけど、気が強いってわけじゃないみたいだし。

 そういうとこもあって、イハル兄は、グレースには割と興味を持ってる。あたしは、そう思うんだよね。

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