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イハル兄の天幕に行くと、やけに騎士様を見かける。そんな今日この頃だったんだけど。
グレースとリディといたら、イハル兄が来た。んで、あたしとグレースに、軍議に参加するように、だって。
あたしが、ってことは、多分、公開処刑の絡みだよね。んでも、何でグレースまで?
よくわかんないけど、とりあえずってことで。あたしはグレースと並んで、イハル兄にくっついて、王女様の天幕に向かう。
中に入ると、王女様にアルヴィン様、エレンさんと、将軍。ここまではよくある。ってか、いっつもいすぎて慣れたけど。
「えー、母さんもいるの?」
軍議だから、父さんはわかるけど、母さんも?
「セイガさんたちが呼ばれたということは、何かあったんですね?」
ん? ひょっとしてイハル兄、何にも知らないっぽい? 誰も教えてないのかな? それとも、イハル兄の、いつもの癖発動してたとか?
チラッと見たら、グレースってば、イハル兄の服の裾、ちゃっかりつかんでる。まあ、多分、父さんが怖いんだろうなぁ。顔はそんなに怖くないけど、雰囲気が怖いっていうか。
ゲンコツ、ホント痛いし。
「そうか、イハルはまだ聞いていないか」
……単に、父さんが伝え忘れてただけっぽいね。あたしと一緒で、たまーにうっかりするから。
「やだ、あなたったら。イハルくんが知ってるわけないでしょ? 街中公認の話をちっとも知らないし、女友達の一人も連れてこないし、色恋沙汰なんてひとつもないし。昔っから、ちょっと変わった子だったじゃない」
うっわ。母さんってば、こんなとこで暴露しちゃダメだって! 王女様やエレンさんもいるのに。イハル兄にだって、プライドあるんだしさぁ。
「……マノ、とりあえず黙っていてくれ」
はあってため息ついて、父さんが言う。母さんはニッコリ笑って、キュッと口を結ぶ。
まあ、だいたい、いつもの風景かな。
母さん、父さんから、あたしと同じこと言われるんだよ。ホント、あたしって、顔は父さん似で、中身は母さんなんだね。
ほら、イハル兄、恥ずかしがって完っ璧な仏頂面じゃん。ってか、母さん、絶対何か企んでる。今、ニヤッて笑ったし。
「近々、正確には、二日後の日没後。王都の広場で捕虜の公開処刑を行うと、かなり広い範囲で噂になっているようだ」
淡々と父さんは話す。まあ、慣れてるからね。
へぇ……あの話、あちこちで出回ってんだ? ってことは、すっかり後手に回っちゃった感じかな?
「……罠、か」
イハル兄が、ボソッと呟いた。
まあ、普通に考えたらそうだよね。やるよー、ってわざわざ宣伝してんだし。
「罠だからと、放っておくことはできないわ。私は、捕虜となっている者を、できるだけ助けたいの。それに、本当に処刑されてしまったら、解放軍はいったい何のために存在しているのか、わからなくなってしまうでしょう?」
うん。捕虜をばっさり切り捨てちゃえば、こっちに人や物の損害はない。でも、信頼とか、期待とか、そういう目に見えないものに、大打撃。
何しろ、解放軍がその話を知ってて、それで助けなかったっていう、噂を肯定しちゃうから。それが、王女様を始めとした解放軍の総意だって、決めつけられちゃう。
被害を出して捕虜を助けるより、容赦なく見捨てる。
みんなからそう思われちゃったらさ。これからどんなに頑張ったって、帝国兵を残らず追い出したって、意味がない。
やるなら、被害が少なくできる、少数精鋭での突撃。多分、父さんはそう考えてる。だから、母さんとイハル兄がいるんだろうし。で、攻撃の要になりそうなグレースに、覚悟を決めてもらいたかったんだろうね。
……きっと罠だから、相当えげつないことになると思うし。
エミールは放っといても、勝手に敵に突っ込んでって魔法ぶちまけてくるから、覚悟とかいらないけど。
グレースは違う。繊細で、優しいから……心が、死んじゃうかもしれない。
あたしは、そっちが心配。
「万一を考え、こちらの損害を低く抑える目的も含め、少数の傭兵隊で出向こうと考えております。今のところ、我が隊とマノ隊、それからイハル隊に、あと二、三隊を選ぶつもりです」
確定の三隊で、十六人。魔道士は二人で、僧侶もいる。竜騎士に槍使い、射手だって、そろってる。でも、数はちょっと足りないかも。だから、魔法とか弓とか、遠距離がいる隊が入るのかな?
ってことは、ユウガ兄はお留守番かぁ。まあ、本陣の護衛もいるし、悪さするやつがまた出てくるかもしんないし。誰か、信頼できる人が残ってくんないと。
「……たったそれだけで、乗り込むつもり?」
王女様は不満そう。ま、そうだよね。あたしだって、普通に聞いてたら、正気じゃないって言っちゃうかも。
王都はとにかく広いし、それっぽっちの人数だと、さすがにちょっと大変かもね。
父さんもイハル兄も、何も言わない。ってことは、何か考えがあるってこと。もしくは、他に戦力のあてがあるはず。
……あー、わかった。
「傭兵隊だけに、行かせるわけにはいかないでしょう」
ほーらね。
「我々は、王女殿下を盟主とした解放軍です。騎士団も所属している以上、騎士団からも出しましょう。そうすることで、敵にも民にも、決して使い捨ての駒ではないと主張できるはずです」
騎士様たちを引っ張り出すつもりだったから、平然としてたんだね。
将軍の、説明っぽいけど決定事項の報告みたいな話を聞いて、王女様がパアッて感じで笑った。目もキラキラしてて、ホント嬉しそう。
「じゃあ、騎士団の編成は、将軍にお任せするわ。でも、傭兵隊の主要な隊長たちに、恐らく将軍も出るでしょ? タガが外れる者が出る可能性を考慮し、残される者をしっかり守れるよう、将軍もセイガ隊長も編成をきちんと考えてね」
「はっ」
「承りました」
父さんと将軍が、ほとんど一緒に返事をする。それを聞いて、王女様は満足そうに、ニッコニコのいい笑顔になった。




