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「……っ!」

 将軍から目が離せなかったんだけど、あたしの背中にいきなり誰かがくっついてきて。ガタガタ揺すられてさ。

 それであたし、我に返れたよ。

「ちょっと、近づかないで!」

 リディが叫んだ。そっちを見たら、あたしがよーく知った顔。

 気がついたらしくって、さりげなーく、リディがあたしの背中からグレースを引きはがす。んで、代わりにグレースを支えてくれてる。

「リアムとベネット。いい? 今すぐそこから、とりあえず三歩下がって。いーから下がって。とにかく下がって。下がんないと『セイ』をお見舞いするよー」

 言いながら、あたしは腰の剣を抜いた。

 うーん、この、剣と鞘がこすれる変な音。緊張感が高まっていいよね!

「ちょ……ユノ、俺たちに本気の『セイ』かよ!」

「あ、できればベネットだけにしてね。私はすぐ下がるから」

「おい!」

 顔を引きつらせながら、ケンカしながら。両手を顔の横にあげたリアムとベネットは、大きく三歩下がった。

 チラッとグレースを確認したけど、今は平気そう。ガタガタが収まったみたいだし、とりあえず、こんだけ開いたら大丈夫なんだね。

「さすがに、将軍じゃ、隊長みたいにはいかないのね」

「だからさぁ、グレースはイハル(にぃ)に任せちゃうのが一番だって」

 あたしは剣をしまいながら、リディに答える。

 フッと将軍を見たら、リアムとベネットを睨んでた。刺すような、とか、射貫くような、って、こーゆー目を言うんだろうなぁ。

 怖くって、あたしならもっと遠ざかっちゃうよ。

「……リアムさん、ベネットさん、お久しぶりです……」

 リディの影から、グレースが話しかけてる。何も知らない人が見たら、メッチャ変な光景だろうね。

「お久しぶり。グレースちゃん、本当に解放軍に入ったんだね。ユノちゃんから、イハル隊長のところにいるって聞いたけど……大丈夫なの?」

「あ、はい……リディさんもいらっしゃいますし、イハルさんがご一緒の時は、ある程度は近づかれても平気なので、今のところはどうにか……」

 リアムの目がおっきくなった。

 うん、そうだよね。あたしも、いくらイハル兄が恩人だからって、そこまで特別になるもん? って思うし。

 ベネットは、驚きたいのか泣きたいのか怒りたいのか嘆きたいのか、よくわかんない顔してる。あー、ホントに本気だったんだ。

 んでも、こいつら、このまま置いといても面倒だよねぇ。

 あたしはため息をついて、ひょいと肩をすくめてみた。

「ちょーどいいからさぁ、あたしはリアムたちと天幕に戻るよ。イハル兄の天幕行ってからだと、将軍も二度手間っしょ?」

 っていうか、リアムたちが一緒じゃない限り、帰り道がまたあの拷問かと思うと、さ。

 あたしにだって、選ぶ権利、あると思わない?

「決して手間ではありません。何より、殿下とエレンに、お三方をきっちり送り届けるよう言われていますので」

 真面目っぽい将軍らしい答えだけどさ。

 今は、そーやって型にはまった答えはいらないんだよね。

「だーから、あたしはリアムたちと戻るから平気だって。エレンさんにもちゃんと言えば、怒られることはないと思うけど?」

 っていうか、そこまでエレンさんは狭量じゃないはず。

 ハァ、って感じでため息をついた将軍は、いきなり跪いた。しかも、あたしの目の前で。

「どうか私に、あなたを送り届けさせてください」

「ふぇぁっ!?」

 変な声出ちゃったじゃんか! ってか、どっから出たの、今の声!

 何か、跪かれることとか、なかったからさ。いっつも見上げてる人を見下ろすのって、変な気分。

「……ねえ、ユノちゃん。エレンちゃんって、会って早々、ベネットに竜騎士(ウォラーレ)の心得を怒鳴りつけた子でしょ? 綺麗で潔い子だけど、ちょっと変わってるっていうか……。ヴァージル将軍があの子にこってり、ギチギチに絞られるかもしれないなら、素直に送ってもらえばいいんじゃない?」

「……あー、うん……そうなんだけどね」

 うん、まあ、良心の呵責とか考えたら、それがいいんだろうけど。どうしても、前の拷問みたいな時間、思い出しちゃうんだよね。

「ご理解いただき、ありがとうございます」

 スッと立ち上がって、将軍は真顔で騎士の礼を取った。

 んでもさ、あたし、送ってもらうことを承知した覚え、ないんだけど?


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