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一回凍った空気って、ちっとも戻んないもんなんだね。びみょーな雰囲気に、王女様が嫌気が差したみたいで、今日はサクッとお開き。
んで、あたしたちは、何でか将軍一人を護衛にして、イハル兄の天幕に向かってる。
先にグレースたちを送ってくのは、あたしも戦力の一人だから。
リディのお色気が、万一、将軍にも効いたら困るっしょ? で、将軍が足止めする間に、あたしたちがグレースを連れて避難するって寸法。
天幕まで結構歩くし。ずっと無言も嫌だな、って思うから、なーんか適当に話題振ってみよっかな。
「ちょっと聞きたいんだけど、将軍も、馬に乗ってる時しか槍使わないの?」
ベネットのを持ったことがあるんだけど、槍って結構重たいんだよね。それをひょひょいって軽々と使ってたから、ちょっとカッコよかったんだけど。
リアムが言うには、地上で振り回すのと、何かの上で使うのとは、勝手が違うんだって。だから、騎士様とか竜騎士は、歩いてる時は剣を使う人が多いらしいよ。
将軍も、そういう口かなって思って。ちょっとした好奇心。
「やれと言われれば、できるとは思いますが……」
「んでも、練習してないと無理っしょ?」
「もしかして、槍使いの知り合いがいらっしゃいますか? もちろん、彼らほど動ける保証はありませんが、エレンとは槍でも手合わせをさせられましたから」
「へっ? エレンさんと、土の上で、槍で?」
素手でもメッチャ強そうな、あのエレンさんと?
あ、うん、そりゃあ、竜がない方が、戦力差は縮まると思うけどさぁ……。
「ええ。……意外ですか?」
ひょっとしてあたし、すっごい驚いた顔してた? それってさ、将軍にすっごい失礼じゃない?
んでも、将軍ってば、ちょこっとだけど、笑ってる。
……ちゃーんと、笑うんだぁ。
「ベネットから、エレンさんはすっごい強いって聞いてたからさぁ」
「確かに、並の騎士よりは数段上です。殿下のためだけに技を磨き、己を鍛えたと、私は聞いていますが……三年という埋められない時間を、すべてなかったことにされてしまった身としては、ふがいないばかりですね」
「三年って……エレンさん、いくつなわけ?」
っていうか、騎士様との三年差を、帳消しにできちゃうって……ホント、すごい。
「エレンは今年二十になったところですよ。私とアルヴィンが、同い年ですから」
「そんなに若いの!?」
エレンさんがトウガ兄やイハル兄と同い年で、ベネットより年下ってことにも、もちろんなんだけど。将軍がまだ二十三ってことのが、あたしには一番の驚きなわけで。
何て言うか、将軍って、もうちょっと上っぽい落ち着きっていうか、動じなさがあるじゃん?
イハル兄も、とことん老成してるけどさ。
「あのねぇ、ユノ。みんな、あんたに年齢のこと、言われたくないと思うけど?」
「あたしはリディに言われたくない!」
「初対面で十三歳くらい? って聞いたこと、まーだ根に持ってるわけね」
「あ、それは全然気にしてないよ。いつものことだし。リディが十八で色気たっぷりなとこが、あたしとしては納得いかないってだけ」
「あら、失礼ね。あんただって、出るとこ出て、引っ込むとこが引っ込んだら、それなりに色気くらい出るわよ」
「だーから! リディはそーゆーこと言うからヤダって言ってんじゃん!」
ニッコリっていうよりは、にんまり。そんな笑みを浮かべたリディが、グニャッと歪んだ。
あ……まずい。
すぐ気がついたんだけど、これに抵抗なんて無理だから。
あたしの足は、がっくりと崩れる。体ごと、地面に向かって倒れ込んで。どうにか、腕で激突を防げた。
失敗すると、顔まで地面と仲良しになるんだよね。まあ、ケガしても、シーラに頼めば傷は消えるけどさぁ。
「うぅ……」
グレースの声がした方を見たら、グレースも同じ状態。
恐ろしいことに、将軍には効いてない。ってか、何が起きたかわかってない顔してる。
……ちょっと、ムカつく。
「あらぁ、やだぁ。ヴァージル将軍もぉ、うちの隊長と同じなんですねぇ」
「非常に申し訳ありませんが、いったい何が起きているのか、ご説明願えますか?」
「早い話、あたしの大事な武器なわけです。あ、今止めたので、グレースとユノを立たせてあげてくださいな」
はー。やっと、あの上からのしかかってるみたいな、変な何かが消えたよ。
グッと眉を寄せて、将軍は怪訝な顔してる。
うん、気持ちはわかる。あたしも最初、同じ顔してリディを問い詰めたもん。
将軍は、まずあたしを立たせてくれた。何て言うか、こう、片膝ついてスッと手を差し出すだけでも、十分様になってる。
ありがたく手を借りて、あたしは立ち上がった。で、すぐに、リディに詰め寄って。
「その大迷惑な色気、無差別に放出すんな、つってんじゃん! あたしはともかく、グレースの綺麗な顔に傷がついたらどうすんの!」
怒ってる間に、将軍はグレースを立たせてくれたみたい。
いつの間にか、あたしのすぐ近くにいて、ちょっとびっくりした。
「私は、あなたがケガを負うことが嫌ですが」
「ふぇっ?」
……何かさ、はっきりした幻聴が、聞こえたんだけど。
ってか、幻聴だよね?
将軍、あたしの顔ジッと見てたけど、幻聴……だよね……?




