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 いくらあたしでも、天幕の中で立ってんの嫌だし。ちょこんと、グレースの隣に座る。

「にしたって、おっかしいなー。エレンさん、いっつも来るんだし、そーゆーの、あたしに直接言えばいいのに」

「オーレリア様が、私と話してみたかったそうで、お話の流れで、なぜかそういうことに……」

「へー……どんな話からそーなったの?」

 なーんか、ヤな予感。すっごい、ヤな予感。

「えっと……私は、イハルさんやユノさんのように、戦争で起こる命のやり取りを当然と受け止められないと、その……愚痴をこぼしました。それで、いきなり、ユノさんから、将軍のお話を聞いたことがあるか、と聞かれたんです」

 ……は? 何で、将軍? イハル(にぃ)とかならまだしもさぁ。

 つーか、あたし、グレースとそんないっぱい話してないし。将軍のこと話すくらいなら、エレンさんを話題に出すっしょ。もしくは、グレースが知ってるっぽい、ベネットとかリアムとか。あと、イハル兄とかリディとか。

 あー、うん。多分、イハル兄の話ばっかになる自信がある!

「ぶっちゃけると、あたし、将軍のこと、あんま知らないんだよね。グレースどころか、イハル兄とも、将軍について語り合うことなんてないし」

 イハル兄と将軍が、割と仲がいいってのは知ってるけどね。んでも、あたしと話すことじゃないし。

「だから、気にしないでいーよ。それにあたし、十歳から傭兵として戦場に出てるし、グレースとは考え方が全然違って当然っしょ」

 まあ、初めて戦場に出て人殺した時は、泣きわめいて「傭兵やらない!」って叫んだけどね。

 だって、あんな気持ち悪い感触とか、血の臭いとか、断末魔とか。死んだ人間が、あちこちでゴロゴロ転がってるとことか。

 なーんにも、想像してなかったんだもん。

 ……今でも、慣れないけどさ。

「あ、あの……ユノさんは、他国で死ぬ覚悟も、家族の死に目に会えない覚悟も、していらっしゃるのですよね?」

「うん。できてなきゃ、傭兵続けらんないし。ダメだった人は、国に残ってるよ」

 初めて人を殺して、傭兵どころか剣も嫌んなって。

 でも、やめらんなかった。

 ──一緒に戦場を駆けてたら、助けられるかも。運よく最期を、看取れるかも。

 そう思ったら、国で待ってるなんて選択肢、なくなっちゃった。

「グレースは、家族とか、いないの?」

 ヒュッと、息を呑んだ。メッチャ固まってる。

「うわー、ゴメン! 言いたくなかったら言わなくていいから!」

 ゆるゆると、グレースは静かに首を振った。

「……三年前に、両親は亡くなって……兄弟姉妹はいないので、それから、一人です」

「え……」

 三年前って、ひょっとして。

 聞いて、確かめていいのかな? それとも、止めといた方がいい?

「……ってことはさ、グレースの両親って」

「はい。帝国に攻め込まれた際、王都に滞在していたそうで、戦死したと知らせを受けました」

 あー、やっぱり。

 もしかしなくてもさぁ、王女様の話に反応してたのって、ご両親絡みだったのかな? 実は、王女様と、浅からぬ縁があったってこと?

「戦死したと言われても、実感はなかったのですが……オーレリア様から、両親の話を少し聞いて、やっと……もう、会えないのだと、わかり、ました……」

 涙が、つうーって、グレースのほっぺたを伝って。ポタッ、ポタッて、顎の先から落ちてく。

 すっごく、綺麗。

 でもさ、話振って泣かせちゃった身としては、メッチャ焦るよ!

「わっ、ゴ、ゴメンね!」

 グレースが首をフルフル振るたんびに、ちっちゃい涙がパラパラって散って。やっぱ、ついつい思わずため息が出るくらい、綺麗なんだよね。

 んでもって、こんな綺麗な子がすぐそばにいるのに、いっつも無関心のイハル兄には、あたしから『セイ』食らわせたいくらいなんだけど! 反撃でイハル兄の『ガツ』食らったら多分即死だから、さすがにちょっとできないけどさぁ。

「ようやく、泣けましたから……もう、大丈夫です」

「はー……グレースって、強いね」

 魔力がどうとか、技がどうとか、力があるないとか。そんな目に見えるもんじゃなくって。

 心が、強い。

「そう……でしょうか……」

「うん。何かさ、ちゃんと迷ったり困ったりするんだけど。そんな時でも、自分で考えて出した結論だったら、全部まとめて受け入れるって感じの、心の強さっての? そういうの、ちゃんとありそうだなぁって」

 不安定に形を変える月じゃなくって。堂々として目立ってる太陽でもなくって。変わらずひっそり光ってる、星みたいな。

 普段はあんま気になんないんだけど、そこにいると安心する。

 それが、グレースって感じ。

「……ありがとう、ございます」

 両手を胸元でキュッと重ねて、ニコッと笑って。ホント、絵になる美少女だよね。

 ここがイハル兄の天幕の中ってこと、うっかり忘れそう。

「……あ、あの、えっと、その……実は、昨日から、寝ていなくて……安心したら、急に眠くなったのですけれど……あの、イハルさんは、どこでしょう?」

「えっ、寝てないの? うっわ……イハル兄、そんなこと言ってなかったのに! イハル兄だったら、どっかその辺で寝るって言ってたよ? あたしは十分寝たし、一緒に探そっか?」

 何か、目がぼんやりしてるし、本気で眠そうじゃん? 早めに対処した方が、きっといいよね?


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