17
いくらあたしでも、天幕の中で立ってんの嫌だし。ちょこんと、グレースの隣に座る。
「にしたって、おっかしいなー。エレンさん、いっつも来るんだし、そーゆーの、あたしに直接言えばいいのに」
「オーレリア様が、私と話してみたかったそうで、お話の流れで、なぜかそういうことに……」
「へー……どんな話からそーなったの?」
なーんか、ヤな予感。すっごい、ヤな予感。
「えっと……私は、イハルさんやユノさんのように、戦争で起こる命のやり取りを当然と受け止められないと、その……愚痴をこぼしました。それで、いきなり、ユノさんから、将軍のお話を聞いたことがあるか、と聞かれたんです」
……は? 何で、将軍? イハル兄とかならまだしもさぁ。
つーか、あたし、グレースとそんないっぱい話してないし。将軍のこと話すくらいなら、エレンさんを話題に出すっしょ。もしくは、グレースが知ってるっぽい、ベネットとかリアムとか。あと、イハル兄とかリディとか。
あー、うん。多分、イハル兄の話ばっかになる自信がある!
「ぶっちゃけると、あたし、将軍のこと、あんま知らないんだよね。グレースどころか、イハル兄とも、将軍について語り合うことなんてないし」
イハル兄と将軍が、割と仲がいいってのは知ってるけどね。んでも、あたしと話すことじゃないし。
「だから、気にしないでいーよ。それにあたし、十歳から傭兵として戦場に出てるし、グレースとは考え方が全然違って当然っしょ」
まあ、初めて戦場に出て人殺した時は、泣きわめいて「傭兵やらない!」って叫んだけどね。
だって、あんな気持ち悪い感触とか、血の臭いとか、断末魔とか。死んだ人間が、あちこちでゴロゴロ転がってるとことか。
なーんにも、想像してなかったんだもん。
……今でも、慣れないけどさ。
「あ、あの……ユノさんは、他国で死ぬ覚悟も、家族の死に目に会えない覚悟も、していらっしゃるのですよね?」
「うん。できてなきゃ、傭兵続けらんないし。ダメだった人は、国に残ってるよ」
初めて人を殺して、傭兵どころか剣も嫌んなって。
でも、やめらんなかった。
──一緒に戦場を駆けてたら、助けられるかも。運よく最期を、看取れるかも。
そう思ったら、国で待ってるなんて選択肢、なくなっちゃった。
「グレースは、家族とか、いないの?」
ヒュッと、息を呑んだ。メッチャ固まってる。
「うわー、ゴメン! 言いたくなかったら言わなくていいから!」
ゆるゆると、グレースは静かに首を振った。
「……三年前に、両親は亡くなって……兄弟姉妹はいないので、それから、一人です」
「え……」
三年前って、ひょっとして。
聞いて、確かめていいのかな? それとも、止めといた方がいい?
「……ってことはさ、グレースの両親って」
「はい。帝国に攻め込まれた際、王都に滞在していたそうで、戦死したと知らせを受けました」
あー、やっぱり。
もしかしなくてもさぁ、王女様の話に反応してたのって、ご両親絡みだったのかな? 実は、王女様と、浅からぬ縁があったってこと?
「戦死したと言われても、実感はなかったのですが……オーレリア様から、両親の話を少し聞いて、やっと……もう、会えないのだと、わかり、ました……」
涙が、つうーって、グレースのほっぺたを伝って。ポタッ、ポタッて、顎の先から落ちてく。
すっごく、綺麗。
でもさ、話振って泣かせちゃった身としては、メッチャ焦るよ!
「わっ、ゴ、ゴメンね!」
グレースが首をフルフル振るたんびに、ちっちゃい涙がパラパラって散って。やっぱ、ついつい思わずため息が出るくらい、綺麗なんだよね。
んでもって、こんな綺麗な子がすぐそばにいるのに、いっつも無関心のイハル兄には、あたしから『セイ』食らわせたいくらいなんだけど! 反撃でイハル兄の『ガツ』食らったら多分即死だから、さすがにちょっとできないけどさぁ。
「ようやく、泣けましたから……もう、大丈夫です」
「はー……グレースって、強いね」
魔力がどうとか、技がどうとか、力があるないとか。そんな目に見えるもんじゃなくって。
心が、強い。
「そう……でしょうか……」
「うん。何かさ、ちゃんと迷ったり困ったりするんだけど。そんな時でも、自分で考えて出した結論だったら、全部まとめて受け入れるって感じの、心の強さっての? そういうの、ちゃんとありそうだなぁって」
不安定に形を変える月じゃなくって。堂々として目立ってる太陽でもなくって。変わらずひっそり光ってる、星みたいな。
普段はあんま気になんないんだけど、そこにいると安心する。
それが、グレースって感じ。
「……ありがとう、ございます」
両手を胸元でキュッと重ねて、ニコッと笑って。ホント、絵になる美少女だよね。
ここがイハル兄の天幕の中ってこと、うっかり忘れそう。
「……あ、あの、えっと、その……実は、昨日から、寝ていなくて……安心したら、急に眠くなったのですけれど……あの、イハルさんは、どこでしょう?」
「えっ、寝てないの? うっわ……イハル兄、そんなこと言ってなかったのに! イハル兄だったら、どっかその辺で寝るって言ってたよ? あたしは十分寝たし、一緒に探そっか?」
何か、目がぼんやりしてるし、本気で眠そうじゃん? 早めに対処した方が、きっといいよね?




