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伏兵は、最初も含めて二回飛び出してきた。どっちも、壁が倒れたとたんに、エミールが上級の風魔法をぶっ放して終了。
他の隊がいたら、絶対怖がられてるよ。
「戻りました」
「イハルか……お前は、マノの印を見たか?」
「ええ、途中で見ました」
「……ということは、マノのところが当たりかもしれん」
「マノさんは、まだですか……あ」
父さんに報告に来たイハル兄が、いきなり変な声を出した。
「ユノ、悪いが、グレースを見てきてくれ」
「はぁ? あの子、男が怖いんでしょ? 何で置いてきたわけ?」
「うっかりしていただけだ」
「これだからイハル兄は!」
男が怖くてダメな子を、一人で置いてくるなんて! 今日はリディも別行動してんだし、ちゃんと責任持ってよね!
あたしが急いで見に行くと、微妙なとこでグレースがガタガタ震えてた。
……うん、あのさ、ちょっとだけ、敵を殲滅して叫ぶ前のエミールに見えちゃった。ゴメンね。
周りの男たちは、一応まだ遠巻き。でも、近づこうって考えてそうなのも、いる。
「ねえねえ」
牽制も兼ねて、とりあえず声をかけてみた。
「グレースだよね? イハル兄んとこの」
ちょっと頷くのが精一杯で、声は出せないみたい。
あーもう! ホント、イハル兄ってば、これだから!
「うっわ、イハル兄ってば、こんなになる子を放り出してきちゃったわけ? ホントさいってー。よーしよし、あたしがバッチリ守ってあげるからね!」
これは本音。
だって、すぐ近くでしっかり見たら、ホント、エレンさんが喜びそうな美少女なわけ。震えてるし、顔色悪いし、絶対守んなきゃ、って感じでさ。
どうせなら、可愛かった声も聞きたいし。距離があったら平気っぽいから、外がいいかな?
「おいで!」
あたしはグレースの腕をつかんで、グイッと引っ張る。
うっわ、腕、細っ! あたしもまだまだ細いって言われるけど、そのあたしより細っ!
グレースって、ホント華奢だなぁ。
あたしはズカズカ歩いて、建物の外に出た。門の近くに騎士様たちが見えたから、建物と門の中間くらいでピタッと立ち止まる。
グイグイ引っ張ってたから、グレースがちょっとヨロヨロしちゃった。
「ここだったら大丈夫?」
念のために聞いてみた。
弱々しく頷いて、グレースはフッと顔を上げて。
はー、やっぱ、可憐な美少女って言葉が似合うね。あたしも、こんな感じに生まれたかったなー。
うん、似合わないのはわかってるけど。
「……あ……ユノさん、ですよね?」
「うん、そうそう! あたしの名前、知ってるんだ? あー、イハル兄? あの人、こういう時にうっかりするくせに、そこらへんはちゃんとしてるんだねー」
あれ? あたしって、初対面の時に名乗ったっけ? うーん……違う。多分、イハル兄が呼んだんだ。きっとそう。
「えっと……」
「だいたいさぁー、イハル兄が離れたらこうなるって、絶対わかってんだし、もういっそ連れて歩くべきじゃん? がっちり腕つかんでさ。つーかさ、もう、縄でお互い結んどけば? イハル兄ってさ、何でそういうとこ、スッコーン、って抜けてるんだろうね」
「あ、あの……」
「男が怖くて動けなくなる上に、こーんな可憐な美少女を、あんなとこに置いといたら、それこそ餌食じゃん? ってかさ、イハル兄、うっかりしてたから見てきてくれ、じゃないよね? あたしとかリディと違って、グレースは早急に誰かの保護が必要じゃん?」
途中で、グレースの可愛い声が聞こえた気がするんだけど。そんなことじゃ、あたしの口は止まらない。
口から先に生まれたって言われてるくらい、あたしはよくしゃべる……らしい。
だから、大人しそうなグレースとは、合わないかもしんないって思ってんだけど。
「これだからイハル兄は、顔で寄ってこられて、性格で逃げられんだよね。ユウガ兄とかトウガ兄を、ちょっとでいいから見習ったらいいのに。お兄ちゃんたち、あんまりマメすぎて、逆に怒られてるのにさー」
顔は母さんに似て、なかなかカッコイイ。その上、一度でもプレゼントをくれた子のことは、ちゃーんと覚えてる。何かもらったら、お礼も欠かさない。
まあ、それを恋人とか、奥さんだけにやってくれたらいいんだけど……誰にでもやっちゃう。そんで、たまに怒られてんの。
あ、チオリ姉は、それもユウガ兄のいいとこ、なーんて言って、諦めてる。
ユウガ兄、チオリ姉がお嫁さんでよかったね。シノ姉みたいな人だったら、毎日血ぃ見てる。
絶対、毎日。




