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「くっさーっ!」

 中に入った瞬間、あたしは思わず叫んだ。

 ちょこっと顔をしかめてたリアムとベネットが、ほとんど一緒に噴き出す。

 でもさ、さすがにちょっとこれは……って臭いだよ? 何て言うか、あんましお風呂入ってないおっさんが、とにかくいっぱい集まってます、って感じの臭い。おっさん臭いのと、汗臭いのが、メッチャ強烈に混ざってる。

 しかも、入り口から一歩入ったら、もうくっさいの。んで、一歩進むごとに、もっとくっさくなるわけ。

 あたしさ、別にすんごい綺麗好きってわけじゃないけど、これはない。あり得ない。

 っていうか、頭痛い。ちょっと死にそう。

 チラッと見たら、エミールのやつ、口と鼻にリネン当てて、ちゃっかり鼻つまんでるよ。ずっるい!

「ユノったら、相変わらずねぇ」

 クスクス笑いながら、あたしの頭をポンポンと優しく叩くのは、母さん。

 ユウガ兄(にぃ)の母親ってのが納得の、なかなかの美女。つーか、何で母さんが父さんを選んだのか、気になるレベルの顔の格差。父さんと母さんが逆の可能性は、多分ない。

 もし逆だったら、あたしにも希望があるってことだけどさぁ……やっぱないわ。

「ユノ、行くぞ! マノ、無事を祈っているからな」

「行ってらっしゃい。あなたも、どうかご無事で」

 ニコニコ笑顔で手を振る母さんに、あたしは背中を向ける。そんでもって、歩き出してる父さんの後ろをついてく。

 入って右の通路。その最初の分かれ道を、父さんは入ってく。進む前に、二重丸の上下左右にトゲのついた絵を、壁に描いた。

 多分これ、入ったって目印だ。

 ここはかなり入り組んでて、一人くらいは迷子になるかもって話、聞いたし。

「ねえ、ユノ」

「なぁに?」

 エミールから話しかけてくるって、めっずらしー。ってか、やっぱ、ねぼすけ雪さんでも降るわけ?

「その辺の壁から、何か出てくるよ。気をつけてって、セイガ隊長にも伝えて」

「げっ……ホント? 父さん、壁の中に伏兵だって!」

「そうか……わかった」

 さすがはエミールだけどさぁ。

 っていうか、帝国兵だって、生きてんだよね? どうやって壁の中に入ってんの? 何か、全っ然想像できないんだけど。

 壁を警戒しながら、あたしたちは進む。分かれ道は、とにかく全部調べてつぶすんだって。んで、最後まで行けたら戻る。そうやって、戻ってこないとこが多分アタリだから、みんなで一気に攻め込む作戦……らしいよ?

 まあ、みんなちゃんと最後まで行って、生きて戻ってこれたらいいね、って話だけど。

「セイガ隊長!」

 分かれ道の一本で、エミールが叫んだ。みんなの緊張が、一気に高まる。

 だって、エミールの「敵がいる」って、外れたことないんだもん。この間、あたしが狙われた時は、向かってくる敵の殲滅に気を取られてたんだって。うっかり言い忘れたんだって。

 ……とかなんとか言ってるけど、絶対魔法使ってんのが楽しくなって、我を忘れてたんだよ。だって、エミールだもん。

 まだ十三歳なのに、人殺すのにちっともためらわないし。戦いが終わるくらいに、ちょうど魔力空っぽにしちゃうし。ある意味すごいよ。

「ユノ、下がれ!」

 父さんに言われて、あたしはこっち向いてる父さんの背中側へ移動する。つまり、あたしのいたとこが、一番危ないってこと。

 今は右手になった壁が、バタン、って倒れてきた。耳が痛い音と、もわもわの砂埃を大量に連れて。

「エミール、壁に向かって風だ!」

「はーい。すべてを切り裂く風よ(テル ウェントゥス)!」

 エミールは右手を左肩にグッと寄せて、勢いよく前に振り払った。動きに合わせて、ゴオッて音と一緒に、風の固まりが駆け抜けて。

 壁が粉々。ますます埃が舞い上がって、ちょっと咳き込んだ。

 っていうかさぁ、何でいきなり上級魔法ぶっ放すわけ? せっかく無事だった壁も、あちこちヒビ割れてんじゃん! しかも、何? あの、やってやった感満載の、むかつく顔!

 魔法って、風と雷(いかずち)と炎とあるんだけど。それぞれ下級、中級、上級があって。エミールが言うには、中級は下級三つ分くらい。上級は、中級二つ分と、下級二つ分くらいの魔力がいるんだって。

 それがどんくらいなのか、あたしにはさっぱりなんだけどね。

 あと、人を傷つけらんない光と闇の魔法ってのがあって、それは王女様が使えるんだって。んでもさ、建物の中で急に眩しくなったり、いきなり暗くなったりすると、ビビるじゃん? 十分、使えると思うんだよね。

 ちなみに、エミールはかなりゆがんでて、風だけ完璧な上級で、雷と炎はたまに失敗して下級になる中級。普通はもうちょっと、バランスがいいんだってさ。

 それと、魔法ってのは、魔力がないと使えないんだって。だから、あたしには無理。

「ほい、殲滅完了っと」

「助かった」

 ……さっすがエミール。上級魔法一発で、隠れてた敵、全部やっちゃったみたい。

 そういや、何か、血の臭いがするね。元々の臭いと混ざって、メッチャ気持ち悪い臭いになってる。

 もう、あんま気になんないけど。

「あと十回は上級撃てるから、任せといて」

 こっわ。エミールってば、ホント怖っ。


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