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「まあ、俺もその程度だと思ってはいたから、エレンやリアムには言ったんだ。お前は絶対、トウガのような軽くて浮ついた行動に怒っているだけだとな。まったく、これっぽっちも、納得しなかったが」

「えー、何で?」

 イハル兄(にぃ)の言い方、メッチャわかりやすいじゃん?

 そうなんだよね。あたし、お兄ちゃんたちが巻き起こす修羅場見てきたから、ああいうの、苦手でさぁ。

 だって、関係した女の子たち、みんな目が血走ってて怖かったもん。エレンさんとかリアムは命の危険っていう意味で怖いんだけど、あの時一緒に目撃した男の子たちは、みんな「女ってこえぇ!」って叫んだから。その一部が、強烈な女性不信になったってのは、また別の話だけど。

 何か、怖さの種類が違うんだよね。

 あ、別に、遠くから見てるだけなら、気にしないよ? その辺、何やってても本人たちの自由だし。んでも、その気もないのに、あたしが当事者になるのはいただけないってこと。

「解放軍は未婚女性も少ないし、国にいた頃とは事情が違う。今はユウガさんは大人しいし、トウガだけなら、ちょっとモテる男がいる程度だ。あれを想像できないのは、無理もないな」

 そういや、イハル兄も、うっかり巻き込まれたんだっけ……無駄に顔がいいだけに、かわいそうだよね、イハル兄って。

 あー、そっか。あれの後で、イハル兄はますます今のイハル兄っぽくなったんだっけ。

 傭兵やってるくせに、強くてか弱い女の子がいい、だなんてさぁ。グレースに会わなかったら、寝言は寝て言え、って言われるとこだよ?

「嫌いだと思ったら、多分、あたしのことだし、瞬間的にその辺の石ころ握り締めて『セイ』だよね」

 しかも、一発じゃないよ? 状況とかによっては、力尽きるまでやるからね。

「そうだろうな。石がなければ、何でもいいからグッと握り締めてやるな、お前なら」

「あ、そういう時のために、服に隠し持っとこうかな? だいたいさぁ、殴ったわけでも、前みたいに嫌いって言ったわけでもないんだし、そんなに気にすること?」

 そこまで気をもませることは、多分してないと思うんだけど……ひょっとして、何かやっちゃった?

「……待て、この状況で気にするのはお前の方だろうが!」

「何で? 別に何か減るわけじゃないし、ほっぺたくらいいいじゃん。しないだろうけど、イハル兄に同じことされても、あたしは気にしないよ?」

 まあ、グレースが気にするだろうけどね。

「お前にするわけないだろうが。説明がいろいろ面倒くさい」

「母さんがあれこれうるさいしねー。イハル兄とくっつくとか思われたら、もう最悪じゃん? ほっぺたは親愛の証だけど、イハル兄とは今さらだもん。形で見せなくたって、兄弟同然ってのは変わんないし」

「……おい。第一、俺がしたくない」

 ひどっ。何も間違ってないけど、ひどいっ!

 そりゃあ、あたしもイハル兄にされたくないけどね!

「いくら妹分って言っても、セイライ国の同年代、みんな敵に回す気にはなれないし」

 ただでさえ、あのユウガ兄とトウガ兄が可愛がる平々凡々な妹、って立場が定着しちゃっててさぁ。そこにイハル兄でしょ? 正直、お兄ちゃんたちで、兄同然ってことで、かろうじて見逃されてたわけ。

 その辺、あくまで、昔っから一緒にいたあたしたち姉妹……ってか、あたしとカノ姉(ねぇ)が割り食ってんの。美少女のカノ姉はもちろん、やたらかまわれてるあたしも、相応に恨まれてるかもしんないじゃん?

 決定的な証拠ですよー、的なものがあったら、あたしの命が危険っしょ?

 あ、グレースなら大丈夫。ってか、あんまりにもセイライ国の人と違いすぎて、しかもお似合いすぎて、みんな何にも言えないだろうし。

「……さすがに、それは言い過ぎだぞ」

「イハル兄は知らない? セイライ国だと、ユウガ兄とトウガ兄とイハル兄の誰か、って子がほとんどで、別の人って子はほんのひと握りだったんだけど」

 そのひと握りには、あたしたち姉妹も入ってるよ? だから、ホントのホントに、お兄ちゃんたちとイハル兄に興味なかったの、ちょこっとだけなんだよね。

 そんなわけで、あたしは、セイライ国には友達って言える子はいなくって。

「……あ、そうだね。同年代の半分くらいかな、敵になっちゃいそうなの」

 半分は、トウガ兄だと信じてる。できたら、トウガ兄のが多くあって欲しいかな。

 一応、グレースも心配だし。

 こういう仕事柄、どこから情報が漏れて伝わるか、わかんないこともあるんだよね。気がついたら、セイライ国に『イハル兄に恋人が!』なんて噂が、駆け巡ってる可能性も……ある。絶対、ある!

 イハル兄はちゃんと守れる人だから、その点に関しては心配しないけど……グレースは心の強い魔道士(プラエカンタートル)だけど、普通の子だし。他人から敵意とか向けられるの、苦手っぽいんだよね。

 それで傭兵やってられるのは、ある意味すごいんだけどさぁ。

「だから、イハル兄は、ちゃんとグレースを守ってね?」

「……お前は、誰にものを言ってるんだ?」

 うん、だったら安心だね!

 だって、グレースはあたしの友達だもん。やっぱ、心配じゃん?

「そういうお前こそ、少しは考えてみろ。どうしてヴァージルの行動が軽く思えたのか。どういう状況で、どんな関係だったら許容範囲なのか。感覚と直感で、何もかも処理するんじゃない」

「えー……」

 好き嫌いの感覚は、多分、間違ってないよ? 人間的に信頼できるかどうか、と大きく関わってるもん。

 んでも、イハル兄の言ったこと、ちょっと考えてみるよ。だから、ね?

「しばらく、騎士様と訓練しないから、イハル兄かエレンさんに訓練つき合って欲しいんだけど」

「……エレンに頼んでおく」

 あたしとしてはどっちでもいいんだけど、そうなるよね。イハル兄、あたしの訓練につき合うくらいなら、グレースと一緒にいたいんだろうし。

 エレンさんと訓練なんて言ったら、リアムも来そうだけどね……。

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