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第1章

奇病■■専門―奇人

⻆谷 春那

第1章

 「・・・ここか。」

 

  随分と、ヘンピなところである。閑古鳥の鳴き声が、今にも聞こえてきそうである。上を見上げれば、電線に留まっているのではないか?糞を落とされないように、注意しなければ。

 思わず、そのように思わせられてしまう。

「改装費が出せなかった」

と言わんばかりの店々が、無言で立ち並んでいる。誰かに見られているような感覚を覚え、思わず私は身震いをした。

治安が悪そうな、通りである。「通り」と言うより、「街」全体が悪いのかもしれない。勿論、表通りは栄えている。しかし、このような一面を裏に隠している街というものは、あまり素晴らしい印象を覚えられない。勿論、短所で霞んでいるだけかもしれないが、人は悪いものを覚え、良いものを忘れる生物なのだ。それが、人の性。異性を選ぶ時も、そうだろう。どれだけ良い所があっても、少しの悪い所で「蛙化」してしまう。

「店員に横柄」

「箸の持ち方がなっていない」

「食べ方が汚い」

「クチャラー」

等々。

 無論、私もこのような理由で女性をフッた事もある。フラれた事もある。しかし、その女性達に、良い所が無かった訳ではない。良い所を見出せなければ、付き合う理由にならない。長所に魅せられ、惹かれ、魅力に感じ、付き合った。しかし、いくつかの短所でその熱い気持ちは冷め、別れる。


 しかし、中に入って驚いた。この建物、外装程は、老朽化は進んでいない。

 否、外装のみ、古いままにしているのかもしれない。私にはイマイチ理解出来なかったが、3つ前に交際していた女性は、「レトロ」が好みだった。院長は、そのようなものに価値を見出している方なのかもしれない。

 そうも思ったが、よくよく見たらこのビルはその院だけの持ち物ではないようだ。どうやら、このビルの3階を借りているだけらしい。それでは、このビルのオーナーの趣味なのだろうか?考えても答えは出ない事なのだが、私はこういう性分なのだ。そして勝手に、結論付ける性なのだ。

「きっとこのビルのオーナーは、このビルの古い見た目に、思い入れがあるのだろう。」

とか。


 エレベーターも、扉は古めかしめで、内側も若干古いのだが、可笑しな音がする訳でも、揺れる訳でもない。私はエレベーターに乗ると、ついつい「定員〇名、定量○○kg」の欄を見てしまうのだが、成程かなりの大容量だ。

 エレベーターの広さに甘んじて、思わず横柄に立っていてしまっていたが、2階に停まって慌てて隅に寄る。彼も、3階に用があるのだろうか?果て、2階は何の店なのだろうか?和やかなオルゴールの音が奏でられていたから、同じように診療所なのだろうか?「病院ばかりがあるビル」はかなりの数、あるように思えるのだが、ここもそうなのだろうか?


 そう思っていたが、私が降り終わると「閉」ボタンを押したところから、どうやらここには用がないらしい。「開」ボタンを押してくれたことに、会釈で感謝を示しながら、そう思った。


 思わず降りてすぐ、「何階に何がある」と言う、簡単な看板のようなものを見てしまう。いやはや、オルゴールの音が聞こえたが、二階は時計屋ならしい。ちょうど今は14時を少しだけ過ぎた時刻なので、「鳩時計のような時計が鳴ったのだろう」と、簡単に結論付ける。ここで用事を済ませたら、時計屋に寄ってみようか。何せ私の部屋には、時計が無いのだ。勿論1つ、あるにはあるのだが、全ての部屋にあると言う訳ではない。最近はスマートフォンで時刻を確認する人が殆どのように思えるが、やはり時計と置き電話は必要だと思う。勿論、機能面でも大切だが、やはり無いと味気ない―インテリア的な要素もあるように思える。




 エレベーターから数歩歩き、扉を開ける。と言っても、手をかざすタイプの自動ドアであるため、心理的な障害は少ない。このような雑居ビルだと、「エレベーターが開いたらもう」という場所も多いが、エレベーターが内側には無いパターンのようである。その方がワクワク感も消えないし、新鮮感をより味わえる。より一層、私は時計屋に行くのが楽しみになった。


 受付には、更年期程の女性が座っていた。


 「診察ですか?」

「えぇ、そうです。」

「紹介状はお持ちですか?」


 やはりこの院の性質上、初診で訪れる患者は少ないのだろう。「合言葉を言ったら秘密の通路に通される店」と言う、謎に定番のあの展開を思わず連想してしまった。

 鞄をガサゴソとし、ちゃんと取り出す。自分の物ではない保険証等も入っているので、折れないように、特に気を付けなければいけない。


 「これです。」

「ありがとうございます。」


 マイナンバーカードはかざさないのかと思ったが、本人ではないので使えないのだろうか。

そう思っていたら、今度は同意書の提示を求められた。まさに、寝耳に水である。


  「それならば、医療証や保険証を使えませんが…。取りに戻られますか?」

「あー、それでも良いです。次回から、持ってきますね。」

「承知、致しました…。」


かなりの出費になるのは、元々承知していた。むしろ、同意書さえあれば保険適用できる事に、驚きである。一応念のために、姉のマイナンバーを持って来たが、正解だったようだ。


 「それでは、あちらの待合室でお待ちください。」


 一応、いや数少ない専門院なのだから、当たり前だろう。比較的混み合っているようだ。予約した時刻よりかなり早めに来てしまった―つまり、完全に私のせいであるのだが、かなり待つ事を覚悟した方が良さそうだ。




 そのような覚悟をした直後、呼ばれてしまい拍子抜けである。思わず心の中では、四コマ漫画の落ちの「ズコーっ!!」だ。

 にしても、大学病院等の大きな病院でしか聞いた事が無いイメージがあるが、呼び出しがまさに「アナウンス」である。大きな病院でも、「総合受付(つまり会計)」の呼び出しでしかアナウンスしていないような気がする。にしても、このアナウンスの声、何処かで…?カーナビの音声のような感じだ。動画投稿サイトで聞いたのだろうか。


 診察室に入って、私は茫然とした。思わず、4割出ていた挨拶が引っ込んでしまった。




 そこに座っていたのは、私の元同級生だったからだ。あちらもそれに気づいたようで、思わず

「あ。」

と、声を上げている。

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