02:大切な思い人は、自分が見た事も無いような笑顔を他の男に向けていた。
その日の夜。
(まさか、リアを買ったのがルーンフォールド公爵家だったなんて)
しかし疑問が残る。
なぜルーンフォールド公爵家はリアを買ったのか。
買ったのがクリストファー本人だとしても、なぜリアなのか。
そりゃ、リアは可愛らしい美少年だ。
剣の腕は非凡だし、まだ幼いから長年使えるメリットもある。
しかし、だからってリアがLLドールに選ばれるのはおかしい。
大貴族なら美少年なんかいくらでも手に入るだろうし、お傍付き剣士なら信頼できる家柄の人を使うだろう。
とはいえ、レムスにとってそんな疑問は些細な事。
大切なリアに会いたい。
抱き締めたい。
そんな思いが、彼を動かした。
夜。
同室の仲間が寝静まると、レムスは行動を開始した。
弓使いらしい隠密行動で、レムスは宿舎を出て、貴族の中でも特に高位貴族が暮らしている寮に向かう。
周囲は壁に囲まれ、警備兵が巡回していたが、なんとか壁の中に入る事が出来た。
(問題は、リアがどの部屋か分からないということだけど……)
しかし、その問題はすぐに解決した。
リアとクリスは、寮の屋上で天体観測をしていたのだ。
すぐにリアの元へ向かおうとしたが、さすがに貴族がいる所に入り込むのは問題があると思い、止める。
(楽しそうだな)
レムスは二人を眺めながらそう思った。
二人で一枚の毛布にくるまり、リアはクリスに体を預けている。
もちろんリアは愛くるしい笑顔をクリスに向け、クリスもまた笑顔を返していた。
(あ、あ〰️!)
今、二人がキスをした。
(リアの唇は、僕だけの物なのに……)
リアが自分に会う前にそういった事をさせられた事をレムスは知っていた。
具体的な内容は知らないが、体を売らされていた事も理解している。
だけど……
(今、リアの体は僕だけの物だと思っていたのに)
レムスの心の中で嫉妬の炎が燃える。
だけど、レムスの頬から涙が零れた。
(僕にはリアをあんな風に笑顔に出来ない)
昼間も見たその笑顔に絶望したレムスは、その場を去ろうとした。
だが、その時。
クリスがリアを残して立ち去ったのだ。
レムスはクリスがいなくなった後、大急ぎで壁をよじ登った。
「リア!」
もちろんばれてはいけないので声はおさえたが、それでもレムスは叫んでリアを抱き締めた。
「……久しぶり。借金は返せてるか?」
先ほどとはうって変わって無表情になったリアはそうレムスに尋ねた。
「うん、順調。でも、リアはルーンフォールド公爵家に買われたんだね」
「正確には、クリス本人に、だけどな。たまたま奴隷市に来ていたんだと。買われてそのままLLドールになった」
「え、クリストファー公爵令息とリアは知り合いなの?」
「……お前には関係ない」
「そんな、僕とリアとの仲じゃないか」
「誰であろうと、昔の事をほじくり返されたくない」
明確な拒絶の言葉。
その言葉に、二人の間に沈黙が走る。
「二人っきりの愛の時間を邪魔するとは、無粋だな」
その沈黙に割り込んで来たのは、もちろんクリスだ。
手には紅茶ポットがある。
彼は持ってきた紅茶が冷めたので新しい物を持ってきたのだ。
「どうやら昔の知り合いらしいが、今の彼は私の物だ。今回は見逃してあげるから、帰りなさい」
「も、申し訳ございません。ですが、もうす……」
もう少し話をさせてください。
そう言おうとした。
だが、そう言おうとしたレムスが見たのは、リアに口づけするクリスの姿だった。
二人はレムスの目の前で舌を絡めた熱い口づけをする。
ぴちゃぴちゃと、舌が絡む音がする。
やがて、キスを終えたクリスはレムスを睨みつけると
「分からないか。失せろ、と言っているんだ。私達の愛は誰にも邪魔させない」
有無を言わさぬその言葉を聞いて、レムスは壁を伝って降り、走ってその場を去った。
逃げるしかない自分の不甲斐なさ。
リアが助けてくれなかった事へのショック。
それらを抱えながら、レムスは涙を流しながらベッドに入った。
眠れるわけがなかった。




