第50話 体育祭の立場
時は進み放課後、今日は珍しくいつメン全員の部活動が休みという、滅多にない機会だった。そのため、体育祭という学校行事も相まって、話題はその道一直線だ。
放課後ということは、既に伊桜の姿は無い。颯爽と帰宅、ではなく図書室へ向かうという相変わらずの本好き。目で追うこともせず、気づいたら居なくなっていたという状況だ。
「体育祭の準備っていってもな、何すればいいのか分からないし、適当に走ったりするスケジュールを組むわけにもいかないだろ?早速困り始めたわ」
なんとなくで決まった体育委員。だからこそ、その責任に重さは感じない。しかし、全体的な圧はかかる。何事も不明ならば知る人に聞く人間。ならば体育祭に於いて、質問に答えるのも体育委員。クラスメートからの大量の【?】を解決するのに尽力は絶対だ。
「種目だと圧倒的に走る競技多いし、それでもいいと思うけどね」
「どうせ気にする人は居ないだろ。指示待ち人間は大勢だからな」
基本こういうことに興味を示さない華頂と蓮。一応友達としては話を聞くが、アドバイスや案を出すことはない。いや、出せない。
「俺も予定の組み方も知らないからなんとも」
毎日6限目がクラスや団の全体練習となるため、明日から早速やるべきことに追われる。右左分からないとか関係なく、否応なしに体を動かさなければ責任を問われる。
が、俺には何とかしてあげる頭は無いし、部活のない手持ち無沙汰という存在でありながら、無能なので助け舟は出せない。
「私たちはどうせ、記入して種目別に人を割り振って大体の仕事は終わりだから、後はそれ通りに進める程度でいいと思うけど」
「例えば?」
「100mとか1500mとかの人はただ走るだけ。それを6限目に入れ込んでも無駄だから放置。障害物競走とか綱引き、その他の小道具使っての競技ならそれを中心にする。私たちが決められるんだから、走るだけに1人極振りするんじゃなくて、2種目のうちどちらかに小道具使っての競技を入れ込んで全員が何かしらの練習を出来るようにすればいい」
本格的な体育委員同士の会話が始まると、俺と蓮と華頂は顔を合わせてどうするかと念話を始めていた。無力ながらもここに座っているのは申し訳ないと、友人として思い始めていた。
「なるほどな。このクラスは平均的に比べて運動能力が高いからな。そうしても勝てるってことか」
「確証はないけど、少なくとも男子のダブルエースが、2つ走るだけで1位を2つともに持って帰って来るだろうから、他はバラバラに割いても良いかも」
蓮と俺を見て確証はあるらしい。千秋もそれなりに運動能力は高い。だが、それは球技という体育祭とは関係ない運動能力。走ることに関しては、平均より少し上の部類だ。
「どうせ100mとクラスリレーと男子リレーに俺は出るんだろ?」
男子は種目の都合上2人が3種目出る必要がある。それもリレーという意外と不人気で、余り物の寂しい、まさに伊桜の家から寂寥に包まれて帰った俺のように、走るだけで高いポイントを貰える競技を中心に。
「それで、俺は1500mとクラスリレーと男子リレーか」
長距離の蓮と短距離の俺。互いに同じ学年に右に出る人は居ないため、俺が毎日怠惰の限りを尽くさなければ、何事もなく1位を2人ともに取れる。
クラスリレーはこの5人と、後3人加えての勝確のリレー。男子リレーはこの中の3人と後3人加えてのまあまあ勝ちのリレー。3種目全て高得点を獲得出来そうなので、正直焦りはない。
打ち上げをしたいかと言われればしたい。けれど、折角ならば伊桜と、というこれまた頭の中に住み着いた陰キャのギャップが俺を恋に落とそうとしてくる。
まぁ、チャンスがあればだが。
そのためにはまず、全力で勝ちに行くしかない。いつメンの前でしか騒がないため、他の人には陰キャのように見える俺。正直目立ちたくないのはあるが、こればかりは打ち上げという場で、伊桜と皆の前でたまたま近づけるチャンスを得たいがために走るとする。
全ては伊桜のためっていうのが我ながらアホらしくて笑える。それほどに側にいられるのが楽しいのだと、初めての感覚に酔うような気分。
「2人は大丈夫でしょ。だから、私たちはいつこの屋上を使うのかを考えなといけないんだよ」
「俺たちが勝てばクラスでも勝ちじゃないんだぞ」
「さぁ、どうだろうね。3種目全部1位なら多分四分の一、三分の一は2人のおかげになるよ。いやー、速いって良いね」
「私たちで半分獲得したら、クラスはどう思うかな。私もっと人気なれる?」
「華頂は限界だろ。これ以上は人気は高まらないぞ」
「流石はカーストトップ。見てるとこ見てるね」
1年の中では良く知られたグループ。改めて思うと、人気1位と美少女1位、カースト1位にモテ度1位。俺の運動1位というのは、学力1位と似たようなもの。華頂はその学力1位の座に君臨する人なので、薄れ過ぎてて悲しい。
とはいえ、華頂も美少女1位でも間違いないし、結局蓮の肩書き以外は全員に変更可能。思えばバケモノ集団によく入れたものだと、今更ながらに驚く。
「そうだ、全員揃ったから久しぶりに帰ろうよ。私たちの種目記入し終わったら」
「それ、手伝えって言ってるのか?」
「流石は隼くん。よく分かってるね」
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