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第49話 久しぶりに




 夏休みが明けると、真っ先に壁として聳え立つのが体育祭。まだ暑さなんて全く抜けきらない。日々気温は上がり、未だに各所の最高気温を超えました、なんてニュースも耳にする今日。俺たちはその壁を、暑さに対抗しながらも登っていた。


 「体育祭として決めるべきことは、まずは種目だな。総合優勝を目指すのはもちろんだが、俺たちクラスで1位を取ることも目的だ」


 その覇気から流れるように体育委員へと就いた千秋。隣には花染という、体育会系の熱血委員の組み合わせだ。放課後前の6限目。この時間を種目決めの時間とし、たった今それについて話し合う。


 「クラス競技ポイントを学年1位として獲得すれば、報酬として、屋上での無料打ち上げ券を貰えるから、全員でそれを目指して頑張ろう!」


 総合優勝よりもそれを目当てにする花染。らしいといえばらしい。何事にもやる気を持ち、全力で勝負するという点に於いては誰よりも貪欲である。そこは同じ体育会系として尊敬するとこだ。


 クラス競技ポイント。それはクラス対抗のようなもの。各種目に、団でのポイントに加えて、学年別にもう1つポイントが存在する。それを学年のクラスで勝負し、団だけでなくクラスとしての協調性を高めようと仕組まれた面白い仕様。


 毎年それを目当てに頑張るクラスが多く、もう総合優勝よりもそっちに全てを懸けることも少なくないらしい。それほどに熱くて盛り上がるのなら、もちろんうちのクラスも同じ。


 「奇跡か、このクラスはこの体育祭でクラス1位を取るために編成されたかのような人たちばかりだ。狙えるぞ!」


 確かに他クラスに比べても圧倒的な運動能力を誇るのがこのクラス。言うように全力で勝ちに行けば間違いはなさそう。油断はしないが、確実ってとこか。


 「質問いい?」


 手を挙げるのは華頂。気になることはどんどん聞くタイプ。


 「なんだ?」


 「その打ち上げについてだけど、いつやるの?」


 「日にちなら話し合って決めるんだ。時間帯の話なら夜だな。教員が俺たちのために残って、最大21時まで校舎を開けるらしい」


 「なるほどね。ありがとう」


 学校が決めたことなので、俺たちは全く気にせず打ち上げを実行するが、残る教員ははしゃぐ生徒たちのために残業という最悪の居残りとなる。同情はしないが、きっとくじ引きとかで決めるので、運なしの教員には幸せと巡り合ってほしいものだ。


 「強制参加でもないからな。学校終わりにでもそのまま残って出来るし、参加しないなら早く帰れるしな」


 と言っても、周りを見る限り、偽物を演じる人以外はやる気満々に見える。


 伊桜は心の中で喜んでいる側だとは思う。人と関わるのが嫌いというよりも、目立つのが嫌いな方なので、じっとしていられる打ち上げには参加するはず。我ながら分かってきたつもりでいるが、違う気もしている。


 それにしても、全く変わらない夏休み前の伊桜の見た目。始業式の日、思わず2度したのは中々に伊桜の記憶に残っただろう。チラッと見れば下を見て読書というイメージ通りの姿がそこにはあった。


 「とりあえずは種目だ。各々好きな種目を選んで手元の紙に第1から第3まで希望を記入して、後は俺と花染が決める。全ての希望が外れる可能性があるのは隼と蓮くらいだから、男女ともに気にしなくていいぞ」


 運動出来るやつは、必然的に希望が叶わず、人の苦手が集まるとこへ行かされる。それはどこでも変わらない。結局は学力に似たようなもの。賢い人が賢くない人に教えるようなものだ。


 たった2週間という練習期間で適応することもないだろうし、妥当な判断だろう。そこまでやる気はないけれど。


 女子は比較的平均的な人が多い。花染華頂という例外を除けば。2人は平均を爆上げするほどの能力持ち。それでも希望が叶うとは、男子の平均が下ということ。悲しすぎ。


 ――それから全員のシャーペンの音が聞こえ始めると、5分もせずに音は消える。多くの種目で、高校生にもなるとある程度どの競技に適してるか判断が出来るからこその早さ。


 俺はどうせ千秋と花染しか見ないということで、ランダムと3つの空欄に書き込み、顔を伏して回収を待った。快眠を毎日したとて、6限目は眠い。睡魔に抵抗せずに俺は寝る。


 「そろそろだろ。後ろから回収して来てくれ」


 しっかりと聞こえる千秋の声。瞼を閉じていただけなので完全に眠りに入ることはない。体を起こして後ろからの回収を待つ。


 後ろ、と思えば左斜め後ろには伊桜。しかも最後列なので席を立つ。椅子を引く音がしてから目を向けることはなく、横を通り過ぎるのを待った。


 2学期に入り、実は顔を拝めていない。正確にはガッツリと、だが。前へ向かうため顔を見ようとすると関係がバレる可能性もある為避ける。見るのは戻って来る時だ。


 横を通り過ぎる陰キャ。似合わない後ろ姿を追ってしまうのは執拗に追う変態ストーカーとして当たり前。隣の花染に悟られないよう、肘を付き、顎を載せて欠伸をする。


 視線は感じない。だから俺も見続けた。


 そして戻って来る陰キャは外を眺めると、俺の席の目の前に来る一瞬だけ目を合わせる。ごく普通に自然体で。目に掛かりそうな前髪と、更に見えなくするように伊達眼鏡。だがそれを貫通して、俺とは目が合う。


 たった一瞬が2秒に感じられたのは、伊桜が「見るな」と言うように目を細めていたのを、久しぶりだと補給したからだった。

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