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第43話 予想外は虚無感




 失うものは何もない。友人関係に於いて恥ずかしさから失うものなんて、俺には考えられない。見苦しくも勝負に挑んだとして、勝ち負けで得られることに意味があるなら、喜んで恥をかく。もちろん、伊桜といつメンの前だけ限定で。


 そんな俺の願いに、勝ったら更に俺に大きなダメージを与えられるからと、そういう意味を込めて頷いた伊桜だが、只今そのウズウズが止まらなくなったようで、5本目に点火してから微妙に指先が揺れていた。


 ギャンブルにハマる人の特徴を見ている気分で、俺への煽りがそれほど嫌なのだと、心底嫌われ者になった気分も味わう。


 全く不快でもないが。


 そしてついに、最後の決着がついた。先に落ちたのは――。


 「なんで俺なんだよ」


 俺だった。俺の線香花火が落ちてすぐ伊桜のも落ちて、僅差の勝負だったが、負けは負け。しかも5連敗であり完敗とはまさにこのこと。


 競うことでは、テスト以外は上位が当たり前だったが、ここで新たに運も悪いのだと、そして神は美少女の煽る姿を見たいのだと答えが出た。


 すぐに俺は構えた。もちろん煽られることに対して。心を無にして、全てを受け入れるつもりで、今は落ちた線香花火を未だ持ちながら。


 が、いつまで経っても伊桜の声は聞こえない。聞こえるのは遠くから泣き続ける蝉の音。風鈴すら揺れない無風に等しいこの空間で、どこか静寂に包まれていた。


 「……何も言わないのか?煽ったり、罵詈雑言並べたり」


 思わず聞いてしまう。それほど、俺は確実だと思っていたんだが。しかし、そんな俺にゆっくりと振り返って言う。


 「私は優しいから小学生みたいに煽ったりしないよ。そもそも天方と同じ土俵には立たないから。私、大人だし」


 「……微妙に煽りはするんだな」


 「なんのことやら」


 都合のいい何々という言葉をよく聞くのだが、これが俗に言う都合のいい女というやつか。全く癪に障ることのない、レアな存在だが、重宝されるのだろうか。


 まぁ、何にせよ、こうして煽られることもほとんどなく、珍しく震えに全力を使ったのか、何も言うことなく5本勝負を終えたが、どこか物足りなさは感じていた。


 煽られることを楽しみにしていたといえば語弊があるが、煽る伊桜を見たかったのは間違いない。それも過去最大の爆発とともに、ムキになって煽ることを期待していたがために、期待外れだと、俺の中では残念な点があった。


 今度に期待となるが、このシチュエーションは今年はもうない。無理に見るものでもないし、不意に出てこその特別感。それを台無しにしてまで見たいとは思わない。つまり、一旦忘れるのが得策ということ。


 「それにしても、ホントに私が全勝したなんてね。今年の運を全部使ったかも」


 破れ、ゴミとなった袋をまとめて、最低限の片付けはしようと手を動かす。気を使わないとはいっても、やはり心のどこかではその善人である良心が働いてしまうらしい。


 「それなら今後の関わりが楽しくなるんだけどな。いつでも勝負を吹っ掛けるぞ」


 「子供だね。いい加減大人になりなよ。そうしないと誰からも相手にされなくなるよ」


 「そうは言ってもなんだかんだ構ってくれそうだけどな。そうしないとの後に、私以外のって入ってる気がするんだが」


 「ツンデレ脳は幸せそうで何より。何もかもそう思えるポジティブなとこは羨ましいよ」


 「伊桜に羨ましがられるとこがあって鼻が高いわ」


 「そうですか」


 集めたゴミを軒下に運び、バケツもその下へ運ぶ。未だバーベキューグリルなどは放置。夜片付けてもカンカンと騒がしいし、今からはやる気もない。


 すっかり真っ暗で、時刻は21時をもうすぐ回る時。高校生の夏休みならば普通なのかもしれないが、初めての体験で、2人きりで遊ぶなんてことも初めてだったので、高揚感は昂ぶった。


 別にいけないことをしてるわけでもない。でも、なんとなく背徳感があるような違和感を覚えていた。


 「流石に終わりでしょ?」


 「終わりじゃなかったら手順組み込むセンス皆無だろ。しっかり最後だ」


 「そっか。後は帰るだけ、か」


 「寂しそうだな。泣いてもいいぞ」


 「こっちのセリフ」


 履いたサンダルを丁寧に並べると、ササッと室内に戻って行く。女子は汗をかかないのか、若しくは神が創造した人間なら汗をかかないのか。夜とはいえ、夏の外で汗を1つもかかないのは流石と言おうか。


 クーラーに当たりに行ったのは間違いなかった。専用のクッションを抱いて、ソファを独り占めする。それを見ながら俺も遅れて室内に戻り、窓を閉めながらも落とし物がないか確認する。


 「何時頃に帰るんだ?」


 既にこの家の住民のようになった伊桜だが、しっかり帰る家はある。それも両親と姉の居る賑やかな家庭に。


 「少し休憩してからかな」


 「迎えに来るとか?」


 「ううん。天方の付き添いで歩いて帰るよ」


 「……俺の言おうとしたことを先に言うなよ」


 「先読みの天才(天方専用の)ですから」


 自分から俺と帰るということを言うのは珍しい。いつもなら先読みしても一緒には帰らないと言うだろうに、それほどに自分でも夜の道は危険だと知っているのか。


 自衛が出来ているならば今後も問題ないが、もしもがあれば怖いので、夜に歩いて帰らせるのは頷けない。こればかりはストーカーだと言われてもやる。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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