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第41話 今日最後の勝負




 鮮やかな黄色と共に、音を鳴らして火花を散らす花火。見つめているのは俺だけなのか、位置を変えて横目でしか伊桜は見えないためそれは分からない。


 視線は感じるので、横目で見て、もし目が合えばそれをネタに何かと言われるので、意識して横目でチラッと見ることはない。見たい欲はある。それでも、プライドが許さなかった。


 「それで最後かー。思ったより早かったね」


 これを機に顔ごと伊桜に視線を向ける。変わらずダラけた態勢に足をバタバタと、その心地よさそうな相好に合った動きに、やはり遠いはずの可愛さを感じる。


 「幸せな時間とか楽しい時間って早く過ぎるよな。その意味を込めて言ったなら、本物のツンデレだな」


 「無言の気まずさから適当に出た言葉だよ」


 「無言で気まずくなる関係じゃないだろ。唐変木の俺に、気を使わない伊桜。はい、同類」


 正直、仲のいい友人同士ならば逆に無言が多くなる。無駄に話すことはないし、盛り上げる必要もない。相手がこれで気まずくならないと、そう確信しているから無言になる。


 「同類なのは癪だけど、まぁ、楽しくないことはなかったから、楽しい時間は早く過ぎるってのには賛成票入れる」


 「今日はよく分からないな。素直になったりならなかったり。多重人格?」


 出会ってからボケ倒す伊桜と素直で照れる伊桜、俺に敵対心を向ける伊桜が回っては交代していないと、この伊桜の状態は理解が出来ない。


 どれもこれもいつ切り替わるか分からない。故に不意を絶対につかれる。


 「そうだよ。でもどの人格も統一して天方が大嫌いらしい」


 「図書室では俺に好感云々言ってたような。双子の姉妹か誰かかよ」


 「あれから今は時間が経過してるでしょ?人って簡単に気持ち変わるから、過去をいつまでも引っ張ってると後悔するよ」


 「にしても、それなら嫌いな人の家に呼ばれて来るなよ」


 「脅迫されたから仕方ない」


 「嘘つくな」


 脅迫する側が準備をして、客人をもてなして、花火も向けられて、なんて地獄があるだろうか。しっかり許可もとった。その上でこの言われようは、訴えて勝てる程には屁理屈だ。


 「うるせー」


 全く力のない、フニャフニャの声。疲れ果てた時の、ベッドへダイブする瞬間の声だ。1日を終えた、その幸せの休憩。似たようなことをする俺は、どこかシンパシーを感じる。


 その声に倣うように、スパーク花火はこの夏の最後の火花を散らせ、静かに消えて行った。ロウソクだけが明かりとなる庭の、その一本に照らされる残された唯一の種類。それが俺らに手を振り、本当の勝ち負けを決めろと叫び伝えるように威圧していた。


 「伊桜さん、最後に正真正銘の一騎打ちしましょうや」


 10本入りの線香花火を、横にフリフリして、伊桜の欲を煽る。


 「よし、やっとだね。運は美少女の味方するって言うからね。天方には負けないよ」


 重たくないくせにゆっくりと腰を上げ、準備万端待ってましたと、その気合の入り具合をその眼光に載せて飛ばす。


 「いやいや、運を司る神も、流石に美少女の悔しがるとこ見たいだろ。逆に負けさせて不憫な運に悲しむとこを見るってことに賭けるわ」


 「それもあるかも。美少女って罪だね」


 「それはマジでそう思う」


 今日はつくづくそう思わされる。不意打ちも得意なため、そこらの男の動悸を秒速3回に出来るほどにはダメージがある。


 パッケージを丁寧に破り、繊細な線香花火を傷つけないようにそっと取り出す。昔初めて見た時に、ひらひらの部分に点火して何度か無駄にした記憶があるが、それは全国共通だろうか。通過儀礼とかならば、俺もそれを恥とは思わないのだが。


 「はい、美少女様が言い訳しないように先に5本選ばせます」


 破ったパッケージの上に載せ、細工も出来ないが、一応手から離してそっと置く。


 「んー……じゃ、この子たちを」


 ランダムに、5本さっと取ってみせる。然程線香花火自体に差はないだろうが、1秒でも長く耐えられそうな気を放つ子を選ぶ。


 「必然的に残った子たちか」


 美少女に選ばれなかった可哀想な男たちを回収し、その悔しさをバネに最後まで火花を散らしてくれると信じて、俺は念を込め終えた。


 伊桜というと、それが悪いんじゃないかと思うほどには再び同じように念を込める。何やら呪文が聞こえるが、日本語ではないため解読は不可能。


 「準備は?」


 「常に万端」


 「言いながら念を込めるな」


 腕は意図的に震わせているのか、力を込め過ぎて震えているのか。血管は力だと言っていた。全力女子は好感高いが、伊桜は何故かその時だけ女の子ではなくなるため、好感も何もなかった。


 「別に負けたからって罰ゲームとかないからな?」


 「負けたら天方に煽られる。これ以上の罰ゲームは無いよ」


 「刺すな刺すな。せめて終わってから刺してくれ」


 罵詈雑言は日々高まっては来ている。本気に捉えないのが唯一の俺に残されたメリット。真に受けてたら、多分この場に伊桜と一緒には居ない。


 定位置である隣に来て、ゆっくりと腰を下ろす。麦わら帽子は軒下に置いて、やる気はマックスと、その細めた瞳が言っていた。


 「同時だからね?」


 「ズルはしない主義だ」


 「だろうけど、一応」


 ロウソクのすぐ近くまで線香花火を運ぶ。勝ち負けに貪欲でも、俺は伊桜のどちらを見ても幸せなため、正直気負うことは何もなかった。


 気持ちではアドバンテージを持つ俺。それでも本気でやる事には変わりない。

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