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第40話 間違いも正解




 右手に握った花火を渡さんと力を込める。軽く引き抜こうとしても、微動だにしない力は、それほど癪に障る煽りだったと証明してくれていた。


 「勝ち負けは2択の勝負。たまたま負けただけだろ?そんな悔しそうにするなよ」


 「……ホント、偶然でそれだけ喜べるの尊敬だよ」


 顔をやっと上げたと思えば、睥睨するかのように過去1の鋭い眼差し。全く怖くない最大級の睨みとは、これほどまでに心に来ないとは。俺自身、初めての感覚に感動する。


 「何事も全力だからな」


 「羨ましいなぁーー」


 「邪気の塊かよ」


 素直にならない。いや、なれない伊桜らしい。これを見たかったといえば大嘘だが、拗ねるとこを見たいと思ったのは本音であり偽りはない。


 「とりあえず、俺の勝ちってことで最後はいただく」


 「羨ましいなぁーー」


 「なぁ、最近のAIでももっと気の利いたことを言うぞ?羨ましいの一点張り伊桜AIとか俺にしか需要ないだろ」


 「羨ましいなぁーー」


 悔しさを噛み殺して居るのか、隣に座っていたのを軒下に移動して、冷気を背中に浴びようと、正面は外背中は室内に向けて座り直す。


 俺からすればここまで熱くなる云々言っていたが、じゃんけん1つでここまで悔しがれる伊桜も中々だと思う。学力や運動能力、それらは平均的なものを常に出し続ける演技派だが、実は上位レベルに賢く、動けば敵なしと自負するほどらしい。


 自称なので、運動に関しては盛っただろうが、学力はまじで頷ける。要所要所を抑えて教える勉強法は、たったの1週間の期間で赤点を回避するには余裕で間に合うほど。


 負けず嫌いがどれだけかはよく分かる。


 そんな伊桜は軒下で明かりに照らされ、乳白色の肌を輝かせながらもポケットへ手を運んだ。そして取り出すはスマートフォン。


 手のひらは俺よりも遥かに小さく、それ故、俺の持つスマホと全く同じ機種、色なのに大きく見えてしまう。


 ってか今気づいたぞ。同じ機種と色とか。


 「何するんだ?」


 「ん?寂しいバカをカメラに収めるんだよ。これで敗北の屈辱はプラマイゼロ」


 「……考えることが捻くれてるって」


 どうしても、俺に負けたのが悔しくて落ち着かないらしい。ここまでくれば俺のことが嫌い過ぎて負けたくない領域、若しくは、勝たないと知人の病気が悪化するかの2択だ。


 既に構えられたカメラ。だが、それよりも奥に居る伊桜怜という悪魔が気になって目を奪われる。意味は違う。執拗過ぎて奪われる。


 ニヤッと悪そのものの顔。悪巧みをさせれば圧倒的な才能を解放しそうな。


 「早く」


 「催促するな」


 これに関してはドM云々関係ないだろうが、正直カメラを起動してくれたのは嬉しい。思い出を形として残してくれたのだと、少しでも俺に対して分かるのが特に。


 夏の花火大会の写真のように、撮るだけで見返さない。なんてこともあり得るかもしれない。だがそれでも、残すという行為自体は、今この瞬間に意味があると思って手足を動かすということだから、何にも興味を持たないようなあの伊桜が負けず嫌いによる嫌がらせでも写真を撮ろうとしてくれたのは大収穫だ。


 自然と口角も上がってしまうが、暗闇に包まれ、室内の明かりに写真に顔を収めさせないよう背を向けることでバレはしない。


 「何色だと思う?」


 背を向けると音も中々聞こえない距離のため、動画にされた可能性もある。気になったことと同時に、動画ならば声を入れようとイジワルついでに聞いてみる。だが、そんなことなかったようで、即答えは返ってくる。


 「赤色。貴様は?」


 「貴様言うな。俺は緑だ」


 光の三原色に加えて、紫と黄の5色があった。これまで何本も見てきたが、緑を見た回数が圧倒的に少なかったため、自分では頭を使った答えだと思いながら答えた。


 これは2択ではないため、勝負としての捉え方は薄い。伊桜も、チラッと覗くとそんな様子はなく、ただ寂しく花火に点火させる俺を撮ることを楽しみにしているだけのよう。


 「さぁ、正解はどっちかな」


 心許ない火を、最後の力を振り絞るように耐えて揺れ続けるロウソク。そこにスパーク花火の先端を運び、運命と言えば大げさな点火。


 パチッ……パチパチと赤い火花を刹那、散らすと次に散った火花の色は――黄色だった。その火花の色を俺が確認したと同時に、シャッター音も鼓膜に確かに響いた。


 「……不正解だな」


 シャッター音に遅れてゆっくり振り向くと、写真を撮り終えたか、態勢を整え直す姿があった。両手を胴体より後ろについて、怠惰のいつもの伊桜です、と。


 「不正解?いいや、正解でしょ」


 「……赤に見えるのか?」


 何を言い出すかと思えば、まだここでも引っ張るのかと、つくづく負けず嫌いの性は根についたんだと思った。だが、違った。


 「知らないかー。赤と緑って合わせたら何色だっけ?」


 ダラけた態勢から、首上をこちらに向けて、その答えを聞こうと右耳に右手を添えるように運ぶ。その問いは、これまでの伊桜を思えば答えとしては遠いような、でも長考すれば近い。そんな問いだった。


 「なるほどな。つまりはどっちも正解ってことか」


 「そういうこと。よく分かったね」


 「光の三原色の混色くらい覚えてるだろ」


 まさかお互いの正解を導き出すとは。どうしても俺を負かそうとしたいわけでもないのかもしれない。正真正銘のツンデレというやつだ。

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