表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/122

第19話 その思い




 結局、それから天方くんからメッセージを送られてきたのは、泳ぎ終わってバーベキューといった晩御飯を食べた後だろう22時。各々部屋の中で遊んでいる途中に私に他愛もないことを送っていた。


 私は健康優良児ではないので、比較的夜ふかしをする方。夏休みという期間も相まって、毎日の就寝時間は2時前後だ。なので暇な時間にこうしてメッセージを送ってくれるのは、待つ側としては嬉しい。


 本を読むだけでは刺激が足りない。そう思うようになったのも最近になってのことだ。


 『今頃、昼過ぎから読み始めた本を1冊やっと読み終わったってとこだろ?』


 私の休日を知ってますと言わんばかりの自信満々そうな顔が思い浮かぶ。しかもそれが的確であるために、余計に煽るような顔で浮かぶ。それにムカッとするが、すぐに我に戻って抑える。


 まったく、隠しカメラでもつけてるのだろうか。


 『違うよ。そもそも本なんて3時間あれば読み終わるから』


 なんて嘘を付く。嘘なのは3時間で読み終わってないことで、基本3時間で読み終えるのは本当のことだ。天方くんのことを考える時間が出来るため、その度に読書をやめて振り払った。私はそんなにも集中力のない人かと、あまりの集中の欠如に自分でも驚く。


 でも、結局時間を割いても何故気になるのかの答えは出ないのだから、半ば諦めてメッセージを送り返している。どうせこういう謎の気持ちは答えが見つけられなくて、いつの間にか忘れてるってのがオチだ。


 だからいい。そんなに気にしてたらどんどん天方くんのペースに持っていかれそうだし。


 あの嬉しそうな顔を脳裏に浮かべるだけでも悔しさが出る。それほどの難敵を友達として受け入れてしまった。しかしそれを後悔するけど、関係性はこの世の誰よりも良く築けるだろうから、正解なのは間違いない。


 何をするのか読めないのと、顔が良くて注目されるのが問題だけど。


 『そうなんだな。でも返信の早さ的に暇してるとは思ってた。そんな中で、暇つぶしだとしてもそんなに連絡したかったんだな』


 スマホを手放してベッドの上で大の字になって寝ていると、今日1早い返信が返ってくる。しかも私が興味津々であることを表しているようなところを突かれている。


 でも実は、これを言われるとは思っていた。夏休み前から連絡を取り合う中で、こんなに早く返信をしたことは今までなかった。それは本を読んでいたり、別に後でいいかなと思って未読スルーしてたりしたから。なので、今日の返信速度は早いだろうとは自分でも気づいていたため、簡単に返信のメッセージは思いつく。


 『暇つぶしにはいい()()だからね。適当なことを送れば何かが返ってくるなんて、最近のAIよりも楽しい暇つぶしになるよ』


 決して楽しんで話してるんじゃないと伝える。暇に限界が来たから、ぎりぎり紛らわせることが可能な天方くんとの連絡の取り合いに付き合ってあげてる、というふうに遠回しに知らせてやる。


 こうすることであの天方くんでも、少しはイラッとしてくれるだろう。


 『暇つぶしの時間としてでも俺に付き合ってくれるとか、俺のことどれだけ好きなんだよ!ったく照れるわ!』


 「……そうだった。こういう人だった……」


 もう天方くんにはイラつきというものはないらしい。私の前では、喜怒哀楽の喜楽しか存在しないようなテンションなのを忘れていた。確かに怒哀もあるだろうが、それを簡単に表に出すほど天方くんは子供ではない。


 これもあくまでも勘でしかないが。


 ここで自然と過るのは昼頃の連絡のやり取りで思ったことだ。


 「……勘……勘じゃないなら正確な天方くんのこと……何も分からない?」


 そこで気づいた。天方くんはグイグイ来るから私はそれに押し負けて聞かれたことを話していた。だからきっと私のことはある程度正確なことを知っている。しかし私は違う。何もかも天方くんから来ていたが故に何も知らない。


 同じクラスの男子生徒ということだけが確かな天方隼のステータスだ。それ以外は何も知らないと言える。身長だって、好きな食べ物だって、好きな教科だって、なんで私にそんな興味を持つのかだって。


 そう思うと瞬間的にモヤモヤがスカッと消えていく気がした。昼頃に感じていたあの謎の気持ち。天方くんからメッセージが来ないかとずっと待ち続け、意識を割かれるほど困らされたあれ。あれは私が天方くんのことを知りたかったから起こした意識的なことなのだと、即座に理解した。


 「……なるほどね」


 自分では別に知ろうとかそんなことは微塵も思ってなかった。そもそも求めてなかったし、半ば強制的に友達になったような関係なのだから、どうでもいいと思っていた。でも本当はそれは強がりで、友達として上辺だけでも結んだのなら、しっかりと知りたいとそう私は思っていたようだ。


 気づけばその後はなんでも上手くいくような気持ちが私を埋め尽くした。


 『好きにはならないけど、友達としてなら全然ありかもね。だから夏休みの後半は期待してるよ?』


 少し遅らせて返信する。私はこの夏休みで少しでも天方くんのことを知ろうと決めた。それがどんな未来を紡ぐか未知だが、それを上手く運ぶのが彼の仕事だから、信じて任せようじゃないか。


 それから即既読から返ってくる。


 『意外なこと言うじゃんか。まぁ、任せてくださいよ』

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ