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異世界召喚された勇者たちは酒場からでない。  作者: 新居部留源
いつもの夜に~深淵の海豚亭~
3/32

第三話 交差する手と手

小太りが立ち上がり両手を広げながら大げさなリアクションをとる。そして眼鏡を指さし

「ではリー、ルールの説明を」

「大げさに立ち上がったのに自分でしないのかよ」

リーは呆れた顔で立ち上がり説明に入る。

「えー「さいしょはグー」はジャンケン、つまり『グー』『チョキ』『パー』による三すくみのゲームにちょいとアレンジを加えたゲームで「さいしょはグー」で『グー』を出してからスタートするんだがここで『グー』以外を出して勝敗を決してもいい。

ここで『グー』以外で勝てば1点。もしも『グー』で勝てば3点。ただし『グー』以外を出して勝敗が決した場合、次の試合にペナルティが付く。

あいこで本戦にいくんだが、最初に『グー』以外のあいこで本戦入りの場合、勝てば1点。負けた場合-1点。さらにペナルティが付く。そして最初が『グー』が成立した状態でスタートした場合は勝てば3点だ。

先に合計が5点になったほうの勝利だ。

ペナルティは次の勝負で負けたら-1点される。勝てばペナルティはなしになる。」

長々と説明を終えたリーは一息つきビールを煽りながら席につく。

「説明ありがとう。わかったかね?ヘタレくん。ルールを理解したなら勝負といこうか」

芝居がかったいつもの口調で語りながら小太りがゆっくりと移動しヘンリーの前に立つ。

ヘンリーは少し復習するようにブツブツと呟きながら考えた後

「だいたいは分かった。勝てば約束通り神聖剣を返してくれるんだな。」

ヘンリーは確認をしながらマントを外し臨戦態勢に入る。

マントの下は旅帰りそのままだったのを伺えるようにプレートアーマーを装備したままだった。

鎧は簡易手入れしかしてないのがわかるほど薄汚れ、所々返り血が付着しており爪の引っ掻き傷やヘコミでボコボコになっている。今回の旅が過酷であったことをその風態が物語っていた。

「そうだ。だが負ければその魔剣もこちらのものになる。当然そいつは売り飛ばすので覚悟するように。」

小太りは薄汚れたヘンリーを眩しそうに見ながらそう悪態をつき、今までで一番たちの悪い笑みを浮かべた。


「では審判は俺が務める。ジャッチメントですのっ!!」

そういってサマジが2人の中央に立ち手を交差させピストルを撃つ指をする。

「いろいろ突っ込みたいがとりあえずその手は月に代わってお仕置きするあの方だ。」

やれやれといった感じでリーが突っ込む。

サマジはやっちまった、といった顔をして少し赤面をする。


そんなやりとりを気にも留めず二人は対峙する。

ゲームだというのに殺し合いをするかのような真剣なヘンリーに対峙するのはヘラヘラと笑みを称える小太りの男。だがその眼は笑っていない。

強く咳ばらいをしてからサマジが声を上げる。

「では始めるぞ。掛け声は俺がかける」

「さいしょはグー!!」

双方腰を落とし勢いよく突き出された手は『グー』。あいこなので本戦へ続行。

「ジャンケン、ポイ」

小太りの手は『チョキ』、ヘンリーは『グー』

「よしっ!!」

ヘンリーは小さくガッツポーズをとる。

小太りは出したチョキをチョキチョキさせながら周りを見渡す。

呆れ顔の面々の顔を一通り眺めると

「いやはや、まだ一敗。たかだか3点ではないかね。さぁ次へいこうか」

いつも通り不敵に笑い、構えをとる。

ヘンリーも先ほどの小さな喜びの表情からすぐに気を引き締め腰を落とす。

「さいじょはグー!!」

掛け声と同時に振り下ろされた手は

小太り、『パー』

ヘンリー『グー』

「くっ」

ヘンリーは苦い顔をしたが小太りはさもあらん。といった表情だった。

「ヘンリー3点、ダイ1点。ただしダイはペナルティで次回負けた場合、−1点追加になる。」

ジャッチメントサマジは指折り得点を読み上げる。

「さて、次だ」

小太りの男、ダイはゆっくりと臨戦態勢に入る。対峙したヘンリーは正面の男の据わった目、張り付いた笑顔に少しうすら寒さを感じる。

奮い立たすように大きく息を吐き正面から小太りの目を見て対峙しなおす。

「さいしょはグー!!」

少し熱量が上がってきたのか2人の振り下ろされる手に勢いがついてくる。

ダイは『チョキ』ヘンリーは『パー』

「なっ!」

ヘンリーから驚きの声が漏れ小太りを見る。

ここでの『チョキ』はかなりの冒険である。

相手が『グー』なら勝敗は決するところだ、『パー』なら図らずとも次の勝負へと持ち込める。リスクの高さ故にないと踏んでいたヘンリーは驚きを隠せない。

双方視線が交錯する。

してやったりという顔で小太りがヘンリーをしっかりと見返す。

「賭け事はリスクを超えたときに勝利を得る道が見えるのだよ」

偉そうにふんぞり返る。

「ダイ2点、ヘンリー3点。ヘンリーは次の勝負ペナルティがある。では次の勝負へ」

サマジが宣言する。

ヘンリーは少し自分の思考の海を漂っていたが

すぐに臨戦態勢に入る。

「さてさて煮詰まってきたな。そろそろ勝負にでようかねぇ?ヘタレくん?」

ダイはニンマリと煽っていく。

ヘンリーは答えない。

そしてサマジの掛け声にも熱がはいり始める。

「最初はグー!!」

二人も熱くなっているのかモーションに力が入っている。振り下ろされる手の速度も力強い。

ヘンリーは『グー』

ここは負けるわけにはいかなかったが

あいこなら勝機が見える。そして相手もここで勝負を決するつもりなら『グー』が妥当。

だが

「な・・・・なぜ・・・」

ヘンリーは自分の読みが外れたことに驚く。

ダイの手は『パー』だった。

「ヘタレ。お前はまったく愚かだ。勝負の質がまだわかってない」

ダイは悲しそうにそして憐れむようにヘンリーを見ていた。

「さて大詰めだ。気合を入れたまえ。ヘンリーくん」

コロリと先ほどの表情が幻だったの如くダイはいつもの笑みを称え手を前に出しクイックイッと招く仕草でヘンリーを挑発する。

その仕草に瞬間ヘンリーはカッとなる。

「こいっ!!」

腰を落としてジャンケンの体勢に入る。負けに飲まれまいと。雰囲気に飲まれまいと。この男に飲まれまいと。

サマジは指折り数えながら確認する。

「んじゃ、えーとダイ3点、ヘタレ2点。ヘタレには次の試合ペナルティだ。」

「ではいくぞ!さいしょはグー!!」

ヘンリーは思考する。

奴はここで決めるつもりはない。最終戦に行ってもいいと思ってるはず。そしてさっき勝ちを焦ったのを反省してるのを知っている。だから「グー」はない。「パー」か「チョキ」だ。その2択ならチョキ。勝てばよし。あいこでも次へ繋げる!!

瞬間の思考。ヘンリーの手は『チョキ』

だがダイの手から出てきたのは『グー』

「勝ちを逃すわけがないだろう。その浅はかさが敗因だと理解したまえ。ヘタレくん。」

唖然とした表情のヘンリーの膝から崩れ落ちストンと座り込む。

ダイがニヤニヤしながら言葉をかける。

「まだまだ読みが甘い。そして考えが表に出過ぎだな。無理して取り繕うから余計に。だ」

座り込むヘンリーに近づき肩を叩き、振り返ってテーブルに近づき置いてある魔剣を手に取る。

「残念、残念。ダンジョンまで取りに行ってくれた剣はきっといい値段になるだろう。大丈夫。これのおかげで神聖剣は売らずにすむのだから。」

ダイはニヤニヤ笑いながらどかりと自分の椅子に座る。


そこに

「ヘンリーちゃん!!」

酒場の喧騒のなかよく通る可憐な声でヘンリーを呼び座り込んだ彼に駆け寄る少女。

本来なら純白であろうが埃と泥で薄汚れたロープ、この国を守護すると言われる女神アニセアのシンボルを描かれたベレーを被った、まだ幼さの残る少女。ヘンリーの幼なじみであり旅の仲間である。

「大丈夫?ヘンリー」

彼女は心配そうにヘンリーの顔を覗き込む。

ヘンリーは彼女の心配そうな顔を見て少し悲しそうな顔をし、口惜しそうな声を絞り出した。

「すまない。みんなで取ってきた魔剣を無駄にしてしまった・・・」

少女は驚いた顔をしてテーブルの4人を見たがすぐ優しい表情でヘンリーに視線を戻し

「大丈夫だよ。みんなもわかってくれるよ」

そう言いながらヘンリーの手を強く握った。

その光景を見てサマジとリーがあからさまに聞こえるヒソヒソ話をする。

「見て見て奥様、負け犬が乳繰り合ってますわ」

「いやですわね。敗者のくせに勝者の前で乳繰り合えるなんて、とんだヘタレですわ」

そんな二人を恐ろしい眼光で睨みつける少女。

素早く目を逸らす二人の大の男2人。

サマジは下手くそな口笛を吹こうとして失敗している。

少女はまた優しい表情でヘンリーに向き直り

「行こう、ヘンリー。一旦戻って一息つこう。次のことを考えなきゃ」

そう声をかける。

力なく頭を垂れていたヘンリーも気持ちを切り替えたように力強い表情に戻り顔を上げ

「そうだな。ここで諦めるわけにはいかない。勝負は勝負だ。だが次は負けない」

ヘンリーは力強く答えると立ち上がり

「ありがとう。メアリ」

少女の手を取りお礼を言う。少女は照れながら

「ううん、気にしないで。行こう?」

ヘンリーたちは踵を返しこの場を立ち去ろうと歩き出そうとしたがふと止まり

「約束してくれ。神聖剣は僕がまた勝負に来るまで手放さないと。」

ヘンリーは振り返らず肩越しにダイに声をかける。

「いいだろう。約束しよう。今回と同じように同等の剣を持ってきたらそれを賭けて勝負しようじゃないか!」

ダイは憎々しい笑みを浮かべながら答える。

「分かった。信じるよ。行こうメアリ」

ヘンリーは少女に声をかけると前を向いて酒場の入り口に向かって歩き出した。

メアリは振り返り嫌悪をむき出しの目で4人を睨むと何も言わずにヘンリーを追いかけた。

小太りは和かに笑いながら二人の後ろ姿に声をかける。

「またきたまえ。私はここで君が来るのを楽しみにまっているよ!!」

叩く軽口とは裏腹に愛おしい友人を見送るような目で二人を見送るのだった。

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