燃え盛る命
いつも誤字報告ありがとうございます。
皆様のお陰で大いに助かっております。
イフィゲニアが捕らえられた後、投入された"合成獣"は数を増した。
しかし、その間もグリゼルダは"合成獣"を順調に倒していた。無論無傷では無いが、軽い切り傷くらいで大きな怪我は負っていない。
「【王羅波動】」
<ゴバァッ!?>
ブヨブヨした打撃の効果が薄い"合成獣"に対して衝撃波を伝わらせる"巧技"を用いた技能を扱う。
巻き込まれた複数の"合成獣"も吹っ飛ぶ。グリゼルダは軽く息を吐いた。
(残りは12っつー、所か。足元の地面にも四体ほど潜んでやがるな。ったく、どんだけ連れて来てるんだよ)
既に倒した数は20を超える。
グリゼルダは呆れつつも、息が荒くなってきていた。
先程の催眠ガスのようなものを吸わないように意図的に呼吸を抑えているので段々と酸素が足り無くなってきているのだ。
だが大丈夫だ。
少なくとも今の状態でも問題はない。
この数ならばまたあのガスのような奇妙な戦術を使わなければ確実に倒せる。
「イフィゲニア、待ってろよ。すぐに取り戻してやるからな」
彼の目には昏睡し、捕らえられている娘が映っていた。
助ける。必ず守る。
その思いが彼をここまで強くした。
「オラァッ! 見てねぇでさっさとかかって来やがれ!! オメェの欠陥品を全て壊してやるからーー」
慢心ではなかった。油断もしていなかった。
だが疲労していた。
"感知"に絶対の自信があった。しかし、その疲労が微かな空気の揺らぎを見逃した。
「【円輝孤月】」
「ガッ……!?」
ブシャァッ
三日月のような斬撃が、グリゼルダの腹を裂いた。
気配が、いや、闘気すら全く分からなかった。
彼の腹を斬り裂いたのはヒノハだった。
そこにヒノハが存在していた事にグリゼルダは気付けなかった。今尚見えていない。ヒノハの纏う外套が彼女の気配を、存在を消し完全に秘匿していた。
"感知"すら誤魔化す高性能な魔術具、更には『暗殺者』の技能の【気配遮断】をも使い、完璧に気配を消していた。
グリゼルダは彼女に気付けまま致命傷を負った。
「良いぞ! これで奴はもう終わりだ! ゆけ!!」
<ギヒッヒィヒィッ>
ヨゼフが声をあげる。"合成獣"が捕らえようと迫る。
グリゼルダは倒れかけていた。
傷口から鮮血が溢れ、内臓が落ちそうになる。
「すぅぅ、"鉄硬"」
その前に筋肉を引き締め出血と内臓が出るのを抑えた。同時に迫った"合成獣"を拳で倒す。
「こいつ!? 自らの筋肉で傷口を無理やり防いでいるのか!?」
「"巧技"だ。はぁ、はぁ、人を筋肉バカみたいに言うんじゃねぇ」
"鉄硬"で強制的に傷口を塞ぐ。だがそれはあくまで多大な出血を防ぐだけで今尚傷口からは出血自体は流れている。気を抜けば内臓が出てくるだろう。
グリゼルダは未だに気を失っているイフィゲニアを見る。
「待ってろよぉ、イフィゲニア。こんなの、全然怪我の範疇にはいらねぇ。すぐに助け出してやるからなぁ」
明らかな重傷だと言うのにグリゼルダの目は死んでいない。
それがまたヨゼフの癪に触る。
「やれ! "合成獣"達よ! 奴は最早瀕死だ! 何としても捕らえよ!」
「瀕死なぁ」
苦笑する。
「甘いんだよ、学者野郎。追い詰められ、死に体の獅子がどれほど恐ろしいか教えてやろう」
より洗練に、より暴力に、より圧倒的に!
力の差を見せてやろう。
グリゼルダは拳を構えた。
「【阿修羅鬼戮殺】」
グリゼルダの拳は"合成獣"を一撃で頭部を割り、骨を粉砕し、筋肉を千切る。
瞬く間に迫った"合成獣"は全て倒された。
「何という強さッ!! 欲しい! 素体として欲しい欲しい欲しい!!」
「主任! 提言します! 此処は引きましょう! あの強さ、明らかに異常です! 突破される可能性がッ」
「喧しい!! あの強さの"合成獣"に取り入れたらどれ程の高性能な"合成獣"が出来上がると思っている!? わかったらさっさとッーー」
その時吹き飛ばされた"合成獣"の一体がヨゼフの近くへと投げ飛ばされた。
「ぐうっ!? なんだっ! んっ!?」
衝撃を手を前にして目を瞑ったヨゼフ。再び目を開けるとグリゼルダが"無拍子"で目の前に接近していた。
既にグリゼルダの距離だ。外さない。
「【虚空無兇冴】」
グリゼルダの右腕が唸り、ヨゼフの服を切り裂いた。
それだけで、終わった。
気付けばヨゼフは消えていた。否、姿の現れないヒノハによって救助されたのだ。既にかなりの距離が空いていた。
「……クソッ! ガッ!?」
<ギョギョギョッ!>
背後の地面から潜んでいた"合成獣"達の触手による攻撃によりグリゼルダの身体中に穴が空く。
更には毒をも注入する。ついに膝をつくグリゼルダ。
「くっ、あ、危ない所だった。だがあの触手には強力な麻痺毒がある。これで……」
「ズ、グ、グオアォオォォォォオッッ!!」
「なぬ!?」
自身を貫いた触手を掴み、地面にいた"合成獣"を引きずり出す。
「【地裂脚】」
そのまま足で"合成獣"ごと地面を粉砕する。
その威力、衝撃は凄まじく辺り一帯が大きく揺れた。樹々が騒めき、鳥達が逃げ、大地が割れた事でまだ地面に姿を隠していた"合成獣"までも押し潰された。
<ギョォォォオォッ!>
<キィサマァアァァッ!>
<ニクイクイッーー!>
「死にやがれ」
更に襲いかかる"合成獣"をも、暴風の如く凄まじい拳戟で殴殺していく。
殴る。砕く。穿つ。折る。千切る。
瞬く間に肉片が撒き散らされる。
その形相、戦い様は正に鬼の如く暴虐であった。
「な、なんなんだアイツはッ、あの身体で何故まだ動ける……!?」
流石のヨゼフもその異常な戦闘能力に冷や汗をかきはじめた。
その時、目があった。"合成獣"の返り血と傷口が開きかけている腹から夥しい血を流しながらも、瞳は明確に語っていた。
ーー殺す。何があってもお前は殺す。
傷だらけの上、血塗れで死に体であるにも関わらず、その目は戦意で満ちていた。
圧倒的戦闘能力。
赤く返り血に染まった身体。
爛々と光り殺意を持って見つめる瞳。
「お、鬼……」
ぞくりと、背筋が凍った。
これまでずっと素体としてしかグリゼルダを見ていなかったヨゼフは此処に来て初めて恐怖というものが浮かんだ。
「くっ! 撤退だ! 撤退しろ!! 残った"合成獣は全て奴にぶつけておけ!!」
「了解ッ!」
(……素直に最初から退けば良いものを)
命令を出し、ヨゼフらはその場から退散する。ヒノハも姿を隠しながら毒舌しつつ退いていく。
こうして彼らは退いていく。
ーーイフィゲニアを連れて。
「……イフィ、ゲニアッ……!!」
手を伸ばす。
だけど、その手が届く事はなかった。
彼の命を奪わんと全ての"合成獣"が殺到する。グリゼルダは国一つすら破壊出来るであろう歪んだ命の濁流に呑まれるも、抗い続けた。




