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闇に潜む者

いつも暖かい声援をありがとうございます!



 街の一角にあるコアストリドット伯爵邸。

 そこにあるリンネ専用の部屋で何やら声が微かに聞こえていた。


「ほーらほら、リンクル。此処が気持ちいいんですの?」

<バゥッバウッ>

「うーん! 本当に可愛らしいですわ、私の名前!! この皺くちゃな顔も、円らな瞳もみぃーんな、可愛い!!」


 リンクルを胸に抱えてクルクルと回転するリンネ。

 その顔はヘニャリとだらしなく緩み、淑女らしからぬものだ。


 先程から何度も大声を出しながら戯れているが問題ない。この部屋は防音だ。いくら騒いでも周りには聞こえない。


「お嬢様」

「ふにゃあ!!? ヒ、ヒノハ!! 入る時はノックして下さいませな!」

「ノックならしてたぜ、お嬢様。リンクルに夢中で気付かなかっただけだろ? 犬が好きなら、俺の事撫でても良いぜ?」


 可哀想なことに防音も部屋の中居たら何の役にも立たなかった。

 音も無く現れたヒノハと、ニヤニヤと揶揄う様子のランドルフがいつのまにか側にいた。リンネは己の痴態を見られた事に頬を染めるも直ぐに立ち直り、ランドルフの言葉に冷ややかな目を向ける。


「嫌ですわ。貴方のむさ苦しい割れた腹筋なんて触りたくありません」

「だろうなぁ。つーかお嬢様、俺別に腹撫でろとは言ってないぜ? 尾とかのつもりだったんだが、腹からとはなぁ。お嬢様、むっつりスケベだな」

「だ、誰がむっつりスケベですって!?」


 キィーっと態々ハンカチを噛んで心外だと反応するリンネ。

 それを見たランドルフがケラケラと笑う。


「お嬢様、ランドルフ。お戯れもそこまでに。お嬢様、本日はご報告があってこの場に参りました。例の者達ですが、問いただした所いくつかの密売ルートの方が発覚致しました」

「本当ですの!? ならすぐさま衛兵を指し向けなさい! 卑劣な輩を逃すわけには行きませんわ!」

「その事で少々問題が……一度"シコウノトリ"を一箇所に集める為に根城へと運ぶ手順となっていたそうなのです。そして、彼らはとある盗賊団と協定を結んでいたのです」

「それは誰ですの?」

「"暗闇に潜む闇鯨"という盗賊団をご存知でしょうか?」


 その名を聞いたリンネの顔が引き締まる。


「確か、街道によく現れる盗賊団ですわね。全く、治安を騒がすとんだ下衆どもですわ。確かお父様とその同輩の方が冒険者ギルドの方に掃討を依頼した事があったような気がしますわ」

「……実はその事ですが、前に向かった国の軍や冒険者ギルドの《4星》相当の実力者までもが返り討ちにあっていました」

「!? そんなにやばい集団でしたの?」


 冒険者ギルドの《4星》はかなりの手練れだ。

 その実力は国の近衛騎士にも匹敵する。それらが敗れたとなるとその危険度は街すら脅かすかもしれない。


「いえ、前までは小規模かつ散発的に馬車を襲い、討伐隊が来れば蜘蛛の子を散らして逃げるような小物の集団でした。しかし、何やら最近妙に強気で商団までも襲うようになりました。そして、物資の略奪に成功しているのです。人数の規模等は変わっていないはずなんですが」

「何か、それだけの事が出来る魔法具か人材が手に入った。あるいは陽動の可能性もありますと?」

「その通りです。最も生存者がおりませんから憶測ですが」

「どっち道早い事、ケリつけた方が良いだろう。で、だ。その"暗闇に潜む闇鯨"だがその根城が割れた。だが、奴等が予定していた取引の日までの日付が近くて、もし奴らが来ないことを悟ればいなくなる可能性が高い。早急に行かなきゃならない。なんなら、俺が行ってやろうかぁ? お嬢様?」

「貴方を行かせたら隠密行動なんて出来ないでしょう。すぐにバレて逃げられてしまうに違いありませんわ」

「いやぁ、バレたか」


 ケラケラと笑うランドルフには微塵も悪気を感じられない。これだ。獣人のランドルフは確かに強いのだが、そのかわり細かい事が苦手で本人もそれを克服しようとは微塵も考えていない。『盗賊(シーフ)』としての職業(ジョブ)はあるのだから罠の解除等にはうってつけなのだが、その性格のせいでイマイチ仕事に信用出来ない。信頼はしているのだけど。


 溜息を吐く代わりにリンクルを抱きしめる。


<バゥン>

「……お父様に頼んでも難しいでしょうし……」


 リンネの親は、公国において魔獣の保護を求める派閥に属する貴族である。ある程度なら他の貴族に影響力は持つが、今はこの場にはいない。


 《4星》が壊滅するような相手だ。屋敷の私兵を連れても敵わないだろう。それに彼らを無駄死にさせる気はリンネにもない。だが、このまま放っておいても"暗闇に潜む闇鯨"による密猟も人的被害も止まらない。


「かと言って冒険者に頼むのも……」

「まぁ、一度あれで痛い目にあったからなぁ。信用出来ないよなぁ。向こうも謝罪とより強い協力を約束してるとは言え、《4星》が敗れた盗賊団が相手だ。面子を回復させようとはするが今この街には《光星(アストライアー)》もいねぇし、尻込みするだろうなぁ」

「その隙に、冒険者に扮した密猟者が捕まったことを耳に入れて逃げられたら最悪ですわ。やるなら一度で確実に包囲殲滅しませんと」


 だがその為の兵力が足りない。

 やはりランドルフを中心に兵を組むしかないかと思った時、ヒノハが口を開いた。


「1つだけ手といってか良いかわかりませんが、ありますかと」

「それは?」

「大湿原で出会った方々を覚えているでしょうか?」


 リンネはすぐにピンと来た。


「えぇ、あの旅の方々ですわね。見た目は怪しい方々でしたが、礼儀正しく好感の持てる人達でしたわ。それがどうかしましたの?」

「彼らに頼んでみてはいかがでしょうか?」

「正気ですの? 部外者に弱みを見せろと?」

「勿論正気でございます。それに部外者という括りでは冒険者も元々から部外者です。私共から許可状を奪った者から話を聞けば"透澄水蜘蛛(シースパイダー)"を彼らは意図も容易く仕留めたらしいです」

「"透澄水蜘蛛(シースパイダー)"を!? 確かに水蜘蛛を倒したとは聞いていましたが、そんなに手練れの方々でしたの? 貴方はどう感じましたか、ランドルフ」

「あぁ、あれは強いなぁ。金髪の子以外誰もが死線潜り抜けて来た猛者の臭いがしたぜ。多分、冒険者チームとすれば《光星(アストライアー)》としても不思議じゃねぇな」

「そんなにですの!?」


 《光星(アストライアー)》クラスの冒険者など殆ど存在しない。

 そこまでの腕なら何かしら名声や噂がありそうなものだが、生憎彼らと特徴の一致する強者の噂を聞いたことがない。


「いえ、確かアヤメという方は仮面をしていましたわね。もしかして、孤高の《光星(アストライアー)》、常に仮面を被り一人だけの『花騎士(フラワーナイト)』と呼ばれる者と何かしら関係が?」

「んー、どうだろうな。とにかく其奴らなら、もしかしたら"暗闇に潜む闇鯨"であろうと、何とかなるかもなぁ。全員捕まえるのは無理でも幹部くらいならひっ捕らえる事が出来ると思うぜぇ」

「いずれにせよ、決断するのはお嬢様です。旦那様も、お嬢様の頼みであればきっと聞いて頂けるかと思います」


 リンネは頭を働かせた。

 今大事なのは時間との勝負。なら恥だとか何とかは言ってられない。腹を決めた。


「話をするにも一先ず見つける必要がありますわね。ランドルフ! 早速あの四人と一匹を探してきなさい!」

「うへぇ、お嬢様マジ人使い荒いぜ。へぇーへぇー、了解ですよっと。そんじゃま、行ってきまーす」

「もう少し緊張感を持ちなさい!」


 部屋から出て行くランドルフをリンネは見送る。

 溜息を吐いて椅子に座る。


「ヒノハ、それであの件についてはどうなっていましたか?」


 その言葉にヒノハは声を潜めた。


「此処より東南のクロミアという村でまたも被害がありました。生存者はおりません」

「……そうですか」


 それは今リンネの父親が議題に出している人々の謎の集団失踪についてであった。

 ある日、突然人が消えるのだ。痕跡として何かの足跡が残っていることから生き物によるものなのは間違いない。

 だがそれが何なのか分からず、かといって手をこまねく訳にもいかず今リンネの父親もそれに対しての対策をする為に似た被害にあった他の貴族達と協議の為にこの場にいないのだ。


「やはり、魔獣……それも鳥型によるものでしょうか。或いは飛竜。空からなら人の目も、それに逃げ出す相手も容易く見つけることができますわ」

「魔獣としても明らかに民家への攻撃としており、その割には血痕が少ないのが些か気になります。それに、狙うなら村にいる馬や家畜の方が容易いのにそちらには一切被害がないそうです。だけど、人の死体は有らず(・・・・・・・)、村はがらんと廃村となっていました。僅かにある痕跡ですが『魔獣使い』の調査員も、このような足跡、爪痕の魔獣は今まで見たことないと物議を醸しているようです。少なくとも、飛竜とは違うと」

「どちらにせよ、被害は食い止める必要がありますわ。此処は我が家が治めし領土。住民を守るのは貴族たるわたくし達の役目。ヒノハ、より精細な情報を集めなさい。過去の資料と比べて何かしら新しい情報はないかを確認しなさい」

「承知致しました」


 礼をし、ヒノハもこの場から退席する。


 リンネは椅子に深くもたれかかった。

 しかし、それにしては人のみを狙うのが気になる。

 それに人の死体がないことも。


「……魔獣でなければ、なんなのでしょうね。魔物、とは思いたくはありませんわ」


 憂いを帯びた声色でリンネは呟いた。







 薄暗く、生ぬるい洞窟の中。

 松明の明かりだけが光源の中でこの男は一人佇んでいた。


 耳をすませば聞こえる魔獣達の苦悶に満ちた声。 そして聞こえる下卑た声。


「……ちっ」


 舌打ちする。


 酷く不愉快だった。

 この場に居ることも、こうなってしまった自分の所為にも。


 そんな時大きな音が鳴った。


「しまった! "硬顎土竜"が檻から逃げ出した!」

<モォグゥウゥゥゥッ!>


 見れば檻を破壊し、一匹の魔獣が脱走していた。周りの盗賊達も止めようとするが歯が立たない。狭い洞穴でこのまま暴れれば崩壊の危険があった。


「うるせェ、【嵐龍脚(らんりゅうきゃく)】」


 "硬顎土竜"の頭上まで飛び上がり、目にも留まらぬ蹴りを加える。

 その鋭さ、威力ともに正に暴風の如き鋭き一撃。

 それだけで鉄以上の硬度を持つと呼ばれた"硬顎土竜"の顎は、頭ごと粉砕された。


「おい!? 殺すなよ! 折角スポンサーから捕獲を頼まれていたっていうのに」

「うるせぇ。そもそもコイツも俺ぁが力を貸したから捕獲できたんだろうが。身の丈に合わない魔獣を捕獲するからこうなる。大人しく、元の生活に戻れば良いものを。欲をかくからだ」

「て、てめぇっ」

「ーー文句あるのか?」


 殺気すら込めた目に、怒鳴っていた密猟者は押し黙る。所詮は、楽な方へと流れてきた連中。男との差が余りにもありすぎる。


「おいおい、そこまでにしろよ」

「……お前は」

「おいおい、そんな睨むなよ。へへっ、恐ろしいな。だが、アンタは俺達に手出し出来ねぇ。どうなるかわかってるよな?」


 目の前の男達を殺す事など容易い。だけどそれをすればどうなるのかわからない男ではなかった。


「仲間からの連絡で今度別の街道を通るであろう商人を襲う事にする。その際にお前も出ろ。護衛が厚いらしいからな。そこで得た馬と、今大湿原にいる仲間を回収したら此処から魔獣達をクライアントの所に運ぶ。そうすれば兵士の目は襲われた商人の方に向くからな。くれぐれも変な気を起こすなよ」

「わかってるっつぅの。仕事はしてやる。だから」

「なら早くしろ。あのバケモノ(・・・・)をーー」


 密猟者の顔の横に凄まじい突きが放たれた。壁にヒビが入り、魔獣達の喧噪すら止む。それだけの威力の突きなのに、壁から手を離した男の手には傷一つない。


「次バケモノと言ったら殺す」

「あっ、ひぃ」

「ぐっ、ちょ、調子に乗るなよ! アレを殺されたくなかったならな!」


 その言葉にギリッと男は歯を食いしばった。

 言いたいことを言ったのか密猟者達は足が砕けた仲間を支えつつ、男の元から去る。

 無防備な背中を男は睨む事しか出来ない。


「あぁ、クソッタレが。だが、アイツを助ける為には俺ぁ誰が相手だろうと悉くを倒してやる。誰が相手だろうと容赦しねぇ。一切合切、鏖殺(おうさつ)してやる」


 男は揺るぎない瞳をして呟いた

新たに現れた男、その正体とは。

筆者の他作品、「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」と「こちら冒険者ギルド、特殊調査官! 貴方に魔獣の情報をお届けします!」も最新話投稿しています。下記から飛べますので是非ともお読み下さい!

あと、よろしければブクマと評価の方もよろしくお願いします

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[一言] また新しい仲間が増えるかな?
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